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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第三章-襲撃
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傭兵

 教授の『話し合い』は、前回の襲撃から一週間後の夕方に行われる運びとなった。


 相手は全く不明。場所は郊外にあるかなり豪奢な高級レストラン。

 馬車でそこへ向かう形になったが、レオンハルト自身は馬車に同乗するのではなく、馬を利用することにした。


「エレナ、君には悪いが教授のボディガードを手伝ってもらう。」


『話し合い』前日、レオンハルトはエレナにそう切り出した。


 レオンハルトの研究室。雑多に並ぶ様々な機械類の中、彼はデスクに腰を掛け、目の前に立つエレナと向かい合っている。


「待ってよ。私はあなたみたいに逞しくないわよ?

 あなたのお友達だった彼なんか、相手にできるわけないじゃない。」


 不機嫌そうに答えるエレナ。

 レオンハルトはその言葉を受けても冷静なままさらに言葉を続けた。


「彼らの狙いはあくまでも教授だ。

 護衛の対象が一人なら、たとえ数十人から一斉に襲われても、数人を対処し続けることで防衛は成り立つ。

 君は『回路(サーキット)』による魔法で時間を稼いでくれればいい。

 そこを俺が一人ずつ叩いていくつもりだ。」


「狼の彼はどうするの?

 彼がいる限り、一人ずつ、なんて悠長なことは言ってられないと思うけど。」


 訝しげな視線をエレナはレオンハルトに向ける。

 レオンハルトはデスクから離れ、奥の椅子へと移動しながら答えた。


「そこは想定している。

 だが、先の手合わせで、どうもあいつは全力を出せないように見受けられた。

 上手く魔法を使えば十分有利に立ち回れるだろう。」


 椅子に深く腰かけて、レオンハルトはさらに言葉を続ける。


「だから、ヒュウガの件は織り込み済みで問題ない。

 ただ、もう一つイレギュラーな問題がある……。」


「牡牛の彼女、かしら?」


「ああ……。」


 言葉短かなやり取りではあったが、レオンハルトの表情は悲痛そのものだった。


「来るかしら、彼女。」


「恐らくな。

 あそこまで俺を憎んでいるなら、情報を掴むことや尾行だってやりかねん。

 俺の家を襲わないのは、辛うじて必要以上の犯罪は犯したくないという判断があるからだろう。」


「人殺しなんて、犯罪の最たるものでしょうに……。」


 腕を組んでエレナは哀しげな顔をする。


「あなたの心中は想像する程度しかできないけど……。

 どうするの? 本当に。」


「考えあぐねている。」


 机に肘を乗せて手を組む。

 その組んだ手でレオンハルトは自分の眉間を押さえた。


「彼女に俺が殺されれば、全て丸く収まるとも思えない。

 それによって、彼女の将来に影を落とすようなことはさせたくないんだ。

 だが、彼女を止める方法を、今の俺には思いつくことができない……。」


 沈黙の中、豊かなロングのブロンドをかき上げる音が、サラリと響いた。

 エレナはレオンハルトに顔を向け、尋ねる。


「でも大斧を振り回してたって言ってたじゃない。

 そうなると、彼女ってもう人殺しをしてるんじゃなくて?」


「どういうことだ?」


 視線だけをエレナに向け、レオンハルトが疑問を口にする。


「傭兵とか、この頃帝国にも増えてるでしょう?

 マウルとの戦争が近いって見られてるし。

 彼女もそんな手合いなんじゃないかと思ったんだけど。」


 レオンハルトは言葉を続けずに口を閉じた。


 カーライル帝国の東部と国境を接するマウル王国。

 この二国間の軍事的緊張は十数年にも及んでいた。


 十年前に起きた事故で戦線が崩壊し、うやむやになった第二次国境紛争。

 そして一年ほど前、『アルコスの撤退戦』が起こった第三次国境紛争。


 もはや本格的な戦争は避けられず、明日開戦が布告されてもおかしくないような毎日が続いている。

 無論帝国にも正規兵はいる。だが、足りない数を補うだろうと踏んだ傭兵たちや、それにも満たないようなゴロツキたちが、帝都内でも幅を利かせていたりもするのだ。


「もし何だったら、その道に詳しい知り合いに、彼女の身上を調べてもらってもいいけど?」


 エレナの声に、レオンハルトは考えを中断した。


「聞いてる?」


「ああ。可能なら頼みたい。

 情報がなければどう手を出せばいいのかも解らん。」


「解ったわ。

 でも、今日、明日というわけにはいかないから、数日は見ておいて。」


 そう言うと、エレナは出口に向かい、ドアのノブを握った。


「あと、もう一ついいかしら。」


 振り向きもせず、エレナはさらに言う。


「短絡的な真似はやめて頂戴ね。

 あなたには生きていてもらわないと困るのよ。」


 その言葉と共に、首だけスッと振り向かせて視線を流す。

 そんな彼女の視線の中には妙な光があった気がしたが、レオンハルトはそれをあえて無視することにした。


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