手合せ
翌日、秘密の地下訓練場でミナトと『影の兵士隊』との手合わせが行われた。
互いが互いにその腕を見たいということから始まったこの手合わせ、いきなりの番狂わせから始まった。
「ま、参った!」
ヒュウガの部下で大柄の男、力自慢のテオ・ゲーデル。
ミナトは彼の両手剣を全て躱し切り、その上で大上段から自慢の大斧を叩きこんできたのだ。
刃に覆いはかけていたものの、寸止めをしなければ、間違いなく頭蓋は粉々だったことだろう。
ヒュウガの部下は残り二人。
続いて小兵のエルマー・リンク。短剣の使い手だ。
「そっちの癖は読めた。行かせてもらう。」
エルマーは素早い動きで一気に間合いを詰め、鋭い切っ先を連続で突き入れる。
ミナトはその突きを一点で見切り、斧の柄で受け止めていく。
全て鋼鉄製の大斧は、その柄までもが鋼鉄製だ。
だが鋼鉄製とはいえたった一本の棒。にも関わらずまるで幅広い盾のように、全ての突きを受け止める。
エルマーの動きが雑になり始めた。
テオとの戦いで見せた動きが全く出てこないことに焦りを感じてきたのだ。
ミナトの目が輝く。
大振りになった突きを、柄を使い力任せに受け流す。
がら空きになった胴に向け、横薙ぎの一閃。
「うっ……。」
寸止めを受け、冷や汗と共に呻くエルマー。
もしこれが入っていたら、肋骨だけでなく、内臓も無事では済まない。
最後に出てきたのは、腕自慢の若武者クリストフ・マイヤー。
初めは半笑いで見ていた彼も、エルマーとの戦いを見ているうちに顔つきが変わってきた。
彼が手合わせで本気の顔を見せるのは、相当の相手のみだ。
「『影の兵士隊』ってのも大したことないね。
あたしの仲間の方がよっぽど強かったよ。」
まっすぐにクリストフの目を見据え、にこりともせず言い放つミナト。
それを聞いたクリストフが、片手半剣を右手で構え、言う。
「挑発なら後ろの二人に言うんだな。
自分はその手の言葉は聞かない事にしている。」
体を捩り、左から斬りつけるクリストフ。
ミナトはその一撃を柄で受け流す。
受け流された剣を両手で握り直し、大きく突く。
その一撃を寸前でかわし、彼女は柄による突きを見舞う。
「鮮やかですね……。」
テオが感心したかのように言った。
「そうだな。クリスも悪くないが、相手が悪すぎる。
あの剣では中途半端だ。」
エルマーが分析した結果を口にする。
その言葉を終えるのを待って、ヒュウガが口を開いた。
「違うぜ。その中途半端さがいいのさ。
テオ、お前ぇの一撃は大ぶり過ぎてことごとく躱された。
そして見切られて、ズドン、だ。」
テオは目を閉じてうつむく。
「逆にエルマー。お前ぇの方は軽い一撃を連続で見舞ったが、コイツは全て受け止められて、力任せの一発で大逆転だったな。」
エルマーは不服そうな顔をしたが、何も言えず黙っている。
「その点、クリスの方は両方の中間だ。
リーチ、振りの速さ、一撃の重さ、全てが中間になる。
見な、向こうも結構やりづらそうだぜ?」
確かにヒュウガの言う通り、ミナトもクリストフも、互いが決め手に欠ける状態に陥っている。
肩で息をしている二人。
わずかな間の後、ミナトがクリストフに向けて声をかけた。
「あんた、名前は?」
「クリストフ・マイヤーだが?」
すぅっ……と息を整え、ミナトは静かにこう言った。
「じゃあ、クリス、悪いけど……本気出すからね。」
大上段で斬りかかるミナト。
だが、そんな全力の一撃を剣で受ける訳にはいかない。
全神経を集中して躱すクリストフ。
だが、振り下ろされた刃は、再び一気に跳ね上がり、手にしていた剣を弾き飛ばした。
クリストフの腕はその一撃に耐えることができず、剣は宙に舞い上がる。
気づけば喉元に、大斧の先端にあったスパイクが突き付けられていた。
「やれやれ、コイツぁとんだ見立て違いだな。
上手くいけば俺たちの手伝いも、なんて思ったんだが、お前さん、本気でここの部隊でもやっていける。」
「お褒めの言葉、どうも。」
大斧をブンッと振り回し、肩に担ぐミナト。
相当の重さをもつだろう鋼鉄の大斧を、軽々と振り回す膂力はやはり並大抵のものではない。
「隊長、自分たちは……!」
「いや、いい、クリス。
お前ぇたちがどんなもんなのかは俺も良くわかってる。
相手が悪かったとしか言いようがねぇな。」
悔しそうに歯を食いしばるクリストフに、ヒュウガは苦笑で答えた。
「改めて、契約成立だ。
細かい部分を詰めたい。奥の部屋で話そうじゃないか。」
そう言うと、ヒュウガは闘技場の奥へと向かっていく。
ミナトは二、三歩ヒュウガに続いた後、振り向いて三人に言った。
「さっきはごめんね、あんなこと言って。
あんたたち相当だったよ。頑張れば、もっといけると思う。
だから、胸張りなって。」
そう言うと、にっこりと笑顔を見せるミナト。
その屈託のない満面の笑顔は太陽のように輝いていた。




