信じるもの、信じていたもの
「ところで……さ。」
林檎を頬張るレオンハルトへ、ミナトが静かに言葉をかけた。
「エレナって、何がしたかったんだろう……。
民衆を煽って、この社会を破壊して……それで何がしたかったんだろう。」
「そういった、社会の破壊が目的だったんじゃねぇのか?
その後の事なんざしったことか、って口ぶりだったじゃねぇか。」
ヒュウガが窓枠にもたれかかって口を開く。
そんな彼の言葉に、レオンハルトは反論した。
「……恐らくあれは彼女なりの世直しだったんだろう。」
「どういうことだい?」
「彼女は民衆を……その潜在的な力を信じていた。
民衆というものは、試練が与えられれば結束し、そしてその結束の中から新たな知恵が生まれる。
彼女はそう考えていたのではないかとも思えるんだ。」
そんなレオンハルトとの言葉に、ミナトが尋ね直す。
「そこまで考えていたのかな……?」
「そんな雰囲気はあった。
これは俺の考えとまるで逆なんだ。
俺は、民衆は守るべきものだと考え、そのために己の力を奮い続けた。
エレナはその逆だ。民衆には力があると考え、それを引き出すために様々な方策を取っていた。」
「テロもその一つかい?
だとしたら、そのやり様は許せんな。」
ヒュウガが一段声を低くして、レオンハルトへ声をかけた。
「その点は同感だ。
だが、そういった試練の先に、新たな社会形態を生み出していくはずだと、エレナは信じていたのではないか。今の俺はそう考えている。」
「力を持つ者は、世を守るべきか、世を改革するべきか、難しい命題だ。
どちらの立場を取っても、人々は何らかの批判をするだろう。
どうかすれば後世の有識者は、レオンハルトを帝国の世を淀ませたものとして酷評し、エレナ君のことを改革の志士として扱うかもしれん。」
ギルベルトが瞳の光を消滅させて、静かに語った。
レオンハルトはもう一切れ林檎を摘み、シャク……と、静かに咀嚼した。
自らの行いはどうだったのか、どうあるべきだったのか。
それを深く考えながら。