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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第二十二章-人形(ひとがた)たちの宴
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限界の先

(体が熱い……それにあちこちで痛みが出始めている。)


 レオンハルトは自らの体の状態を分析し始めた。


(だが、アレ(・・)は計算通りに動いているようだ。

 後は機能が切れる前に勝負をつける。)


 レオンハルトは、再び目の前のランドルフへと躍りかかる。


 ランドルフも、全身から光弾を射出する端子を展開し、レオンハルトを迎撃し始めた。


 その弾幕をすり抜けて、レオンハルトは一気にランドルフへ詰め寄る。


 そのまま無言で、双掌打からの『轟雷』を叩きつけた。


 だが、ランドルフはその電撃に耐え、叩きつけられた両の手を取り、エネルギー波を一気に叩きこんでくる。


 受けた大ダメージによろめくレオンハルトへ、追撃の光弾が雨あられと襲い掛かった。


 レオンハルトは何発かの直撃を受けるも、まだ立ち上がり、ランドルフへ怒りの視線を向け続けている。


「いい加減にその目をやめたまえ!

 大人しく負けを認め、絶望すればよいものを!!」


「言ったはずだ……カウフマン……!!

 俺は全力で貴様を殺すと!!」


 再び、嵐のような攻撃の応酬が始まった。


 拳が、蹴りが、何らかの技が振るわれるごとに、エネルギーの迸りがそこに生まれる。


 炎……雷……衝撃波……閃光……魔法による攻撃は白み始めた空にも一際明るく輝いている。


 レオンハルトの身体が一瞬崩れ、膝をついた。

 その瞬間、ランドルフがレオンハルトの頭を右手でギリリと掴み、エネルギー波を放出し始める。


「人の身と言うのは脆弱だね。

 少し熱してやれば、簡単に煮えてしまうのだからな。」


 エネルギー波に苦悶の表情を見せるレオンハルト。

 だが、その頭を掴む手を捕らえ、やり返す形で『轟雷』を放つ。


 手の拘束が緩んだ。


 そのまま相手の身体を蹴り飛ばして、一旦間合いを離す。


 戦いを見ていた三人はある事実に気付いた。

 既に左手の稼働時間は二十分を越えている。


「どうなってる? もうかなりの時間になるぞ?」


「何か特別な魔法を使ってる……とか……?」


 ヒュウガとミナトが疑問を口にしたところで、ギルベルトが短く答えた。


「『ナノマシン』だ。」


「なのましん……って、なんです?」


「目に見えないほど極小の機械のことを言う。

 先の大怪我を治す際に、私は治療用のナノマシンを彼に定着させた。

 その機能を、魔法か魔力を用いて全開にしたのだろう。」


「じゃあ、なにか?

 ぶっ壊れる端から治していきゃいいって戦法か!?」


 驚愕の声でヒュウガが叫ぶ。

 それを聞いたギルベルトが相槌を打つ。


「その通りの戦法なのだろう。

 だが、これは恐ろしい綱渡りだ。

 一つ間違えればナノマシンが暴走し、人間の肉体の再生がオーバーしてしまう。

 または、ナノマシンの活動限界がやってきて、再生が追い付かなくなるか……。

 どちらにしても危険であることに変わりはない。」


 それを聞いたミナトは、涙を浮かべた目をキッと見開いて、レオンハルトの姿を見つめた。


「どうしたのかね?」


 今までとは打って変わった視線を投げかけるようになったミナトへ、ギルベルトが尋ねる。


「逃げちゃダメだって思ったんです。

 このままベソベソ泣きながら祈ってても仕方ないって。

 だから、この戦いを目に焼き付けて、少しでもヤツの弱点を見極めないと。」


「そうだな……。

 もし俺達の番になったとしても、ヤツぁ絶対無傷じゃいられん。

 その時に狙える弱点を今から見つけておかねぇとな。」


 強い意思を込めた眼差しを戦いの場に向ける二人を見て、ギルベルトは思った。


(レオンハルト。君は負けられんぞ。

 この二人……いや、彼らだけでない。私も君の力を信じている。

 君が本当に心の傷を乗り越えたのなら、彼らとの絆にかけて、奴に勝って見せてくれ。)


 ついにランドルフが勝負に出た。


 背面のブースターを全開にし、レオンハルトに取りついたのだ。

 ランドルフはその両手で、レオンハルトの両肩を砕かんばかりの勢いで握りしめてきた。


「零距離だ。もう逃がさん。」


 右胸から光が漏れ始めた。

 大口径の光線砲が準備され始めている。


 だが、その光の漏れ方がおかしいことにレオンハルトは気づいた。


(胸部装甲にひびが入っている?

 そうか! エレナ!!)


 レオンハルトは渾身の力で教授の右手を左肩から引き剥がす。


 一瞬自由になったその左拳を、もてる限りの最大、最速の一撃として放った。


『回路図』の輝きが光の矢となって一直線に空を切る。

 構造材の破壊音が響き、ランドルフが、一歩、二歩と後ずさった。


 見ると、右胸の装甲は割れ、レオンハルトの義手が右胸のレンズに突き刺さっている。

 レンズからは光が溢れ出る直前の状態が維持されており、義手の『回路図』も展開されたままだ。


 ランドルフの拘束から脱出したレオンハルトがしゃがみ込みながら、荒い息を吐いてランドルフを睨みつけていた、


「貴様の身体も内部構造は脆い。

 このまま破壊する。」


「馬鹿な! この私を殺すのか!?

 私を失うのは、全人類の損失になるぞ!!」


「それはお前だけの損失だろう?

 人類には貴様の代わりなどいくらでもいる。」


「レオンハルト・フォーゲル……貴様っ!!」


「妄執は消えろ。ランドルフ・カウフマン。」


 義手の『回路図』が、直視できないほど燦然と輝いた。

 エネルギーが一気に放出され、ランドルフの体の中で奔流となり暴れまわった。


 ランドルフの身体にある、あちこちの隙間から煙と蒸気が立ち上っている。

 人形(ひとがた)の動作が停止したことを確認したレオンハルトは、意識を集中させ、その脳内にある『回路』を、巨人のエネルギージェネレータを破壊した要領で、完全に消滅させた。


 それまで辛うじてバランスを保ち、跪いていたランドルフの身体がわずかに傾き、そのまま勢いをつけて倒れ込む。


 その様子を見たレオンハルトもまた、地面へと倒れ込んでいった。


 勝利への喜びを微塵も感じさせない、哀しい表情のままで。


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