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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第二十二章-人形(ひとがた)たちの宴
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冷徹なる殺意

「フィールドを利用し、爆発力を集中させるとは……やってくれる……。」


 黒煙の中から、ランドルフがつぶやくように言った。


 その目の前には、人工の皮膚と筋肉が半分失われたエレナの頭部を、跪いて静かに抱きかかえるレオンハルトがいる。


「感傷的だね、君も。

 さっきまで敵だったモノをそうやって抱きかかえるとは。」


 レオンハルトはエレナの首の目をそっと閉じさせ、地面に優しく置いた。


 そしてゆらりと立ち上がると同時に、腹の底から怒りの声を上げる。


「黙れ……カウフマン……。

 貴様は存在が許されない物だ。

 俺は今、持てる力の全てを出し切って、貴様を殺す。」


「私は機械だよ?」


「その存在を殺すということだ……貴様が何物だろうと関係ない。」


 驚くほど冷静な声と表情。だが、その視線は限りなく冷たい。


 ミナトも、ヒュウガも、レオンハルトのその顔を見て、ぞくり……と背筋を震わせた。


 今まで消失していた『回路図(サーキットイメージ)』が再び猛烈な勢いで展開されていく。


 レオンハルトの全身に改めて魔力が満ち満ちてきた。


「レオンハルト! もう限界時間は……。」


「彼奴を殺すまでだ!!」


 ギルベルトの叫びに、怒号を返すレオンハルト。


 そのまま一気にカウフマンの懐へと飛び込んだ。


『神速』を加えたその攻撃の全てを、ランドルフはヒュウガと同様、易々と見切り、そして躱していく。


「『見切る』とはこういうことなのだな。

 成程。こうなってくると殴り合いも面白……。」


 スピーカーの声がいきなり止まった。

 急激に速くなったレオンハルトの右拳が、ランドルフの左顎を捉えたのだ。


 そのまま勢いのついた拳で、連続攻撃を見舞うレオンハルト。

 人間と同じ関節を持つ人形であるが故、その打撃を受けた様子は、人間と変わらぬ動きを見せている。

 止めの後ろ回し蹴りを側頭部に叩きこみ、レオンハルトは言った。


「何が面白いと?」


「馬鹿な……急に速くなったぞ?

 何を……何をした!」


 横へと大きく吹き飛ばされたランドルフが呆然とした声でつぶやく。

 レオンハルトはその言葉に対し、冷徹な瞳で短く答えた。


「教える義理がどこにある?」


 次の瞬間。気づけばランドルフの懐には、再びレオンハルトの姿があった。


 ランドルフは警戒し、大きく間合いを外そうとするが、それすらも先読みされ、レオンハルトを振り切ることができない。


 さらに逃げようと大きく体が崩れた瞬間、極限まで高められた『衝撃』の魔法が、左拳と共に脇腹へと叩きこまれた。

 だが、その脇腹自身には大きなダメージが見えていない。

 内部にも、どこまでダメージが与えられたか不明な点もある。

 それでも、ランドルフの動きが鈍っていることを考えれば、そのダメージは決して小さいもので終わっている訳ではないのだろう。


「何が起きたの……まさかレオンってまた……!?」


「ああ……無理押しどころじゃねぇ……。

 ムチャクチャやってやがるぞ、アイツぁ!」


 不安げに尋ねるミナトへ、ヒュウガが青ざめた顔で答える。

 それを補足するかのようにギルベルトが言った。


「『神速』、『強力(ごうりき)』、『防壁』の全てを全開で同時掛けし、その上で全力の『衝撃』を叩きこんだ。

 さらには肉体への魔力の流入もある。身体の負担は相当……いや、既に限界を超えているかもしれん。」


 ギルベルトの言葉を聞き、ミナトは悲痛な声で叫ぶ。


「ギルベルトさん! 何か援護できる方法はないの!?

 ねぇ……ねぇったら!!」


「あのタイプの人形は魔法障壁を持っているため、直接の魔法で援護することはできず、魔導闘法でなければ満足に戦えない。

 加えてあの速さだ。恐らくヒュウガ君にも限界以上の力を要求せざるを得ない。

 今の段階では我々は見守る事しかできん……。」


 瞳を強く閉じてうつむくミナト。


 その目からは涙が一滴、二滴と零れ始めていた。


「もうやめて……なんて言えないのはわかる……。

 それに、アイツはこの世にいちゃいけないのもわかるよ……。

 でも、どうしてレオンなの!?

 どうしていつもレオンが生贄にならなきゃいけないの!?」


 顔を上げたミナトの叫びに、ヒュウガもギルベルトも言葉を失い、そっと戦いから目を逸らす。

 彼らの向こうでは、人外の速度で繰り広げられる、超高速度戦闘が続いていた。


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