最後の事実
「いかん!! ここから動くな!!」
ギルベルトが出力を全開にしたフィールドを展開し、ヒュウガとミナトの二人を守る。
光線はジリジリと方向を変え、やがてこちらの三人をも飲み込んでから収束していった。
何もかもが焼き尽くされたその場に、ゆっくりと近づいてくる人影があった。
「どうやら全滅かな?」
神経質そうな声でつぶやく『教授』。
それに向けて、ヒュウガが虚空から飛び出し、攻撃を仕掛けた。
「遮蔽フィールドかね? どうやらお坊ちゃんによる手品のようだな?」
ヒュウガの拳を、『教授』は悠々と躱し続ける。
続いてフィールドから姿を現したギルベルトが、『教授』に向けて語りかけた。
「お坊ちゃんはよしたまえ、ランドルフ。
それとも昔を懐かしがって、そう皮肉っているのか?」
「そうだったな。昔から君はそうだった。
お坊ちゃん扱いを嫌がり、そう呼ばれるのを心の底から嫌っていたね。」
ヒュウガの攻撃をことごとく華麗に躱し、そう発声する『教授』。
だが、その動きは今までものとは一線を画すものが見受けられる。
(おかしい……ヤツはここまでデキる手合いだったか?
動きもスピードも、今までを超えているのは間違いねぇ!)
「どうしたね? 狼君。
ずいぶん動きが鈍いようだが?」
「言ってくれるね……。」
呼吸法が変わる……全身から闘気が迸り、動きが一気に加速した。
だが、その攻撃の全ても、目の前の『教授』は華麗に見切っていく。
あらゆる一撃、あらゆる連撃、あらゆる奇襲をことごとく寸前で躱しきるのを見、ヒュウガは確信した。
「手前ぇ……特別だな?
今までのその他大勢とは違うと見たぜ?」
「賢察だ、狼君。及第点を上げよう。
私こそはランドルフ・カウフマンそのものだよ。」
そう言うと、その人形は両手を大きく広げ、小首をかしげた。
「馬鹿な……教授の復活システムは私が破壊したはず……。」
奥の虚空からエレナの声が響く。
目を凝らすと、そこにはエレナに肩を貸すレオンハルトの姿があった。
「エレナ君。君の悪い癖だな。
先に見えた目標を一つ良しとしたら、残りをなかなか考えない。
なぜ私が、システムを一つだけしか用意しなかったと思ったのかね?」
ランドルフはそう言うと、くっくっと忍び笑いを始めた。
「カウフマン……貴様……!!」
「そうだな、レオンハルト君。
君もいくつか知りたいことがあるんじゃないのかね?」
「どういうことだ!?」
「君の父親ギルベルトが、エキシマスの誰も知らない洞窟へ探索へ行った。
何故だと思うね?」
「……。」
ギルベルトは無言でその言葉を聞いている。
「ディアナ・カーライルが、リューガー公を殺す計画を立てた。
その立案に関わっていたのは誰だと思うね?」
「……。」
ミナトは無言で何かを考え始めた。
「時計塔で君を狙撃した人間がいたね。
誰だったと思う?」
「……。」
ヒュウガが無言でカウフマンを睨みつけた。
「そしてこれだけの数の人形を用意し、亡霊たちに使用方法を教えた。
それは誰だったかね?」
「……。」
エレナは無言でうつむいた。
「そう、全て私だよ。レオンハルト君。
誰も彼も私が運命を狂わせてやったのだ。
大変愉快なことじゃないか、ええ?」
ランドルフはそう言うと、再び両手を広げて天を仰ぐ。
発声システムが呵々とした笑い声を発していた。
「カウフマン! 貴様……貴様の欲望のために、どれだけの人間を犠牲にした!?」
「さあ? そんなことはどうだっていいだろうに。
所詮、私以外の存在など、等しく無意味なのだからね。」
レオンハルトの怒号に対して、飄々と言葉を返すランドルフ。
「手前ぇは……どんだけ腐った野郎だ!?
そうまでして人の上に立ちてぇのか!?」
「何を言っているのかな? 狼君。」
ヒュウガの怒りを受け、ランドルフは不思議そうな声を出した。
「私は人の上に立つ気などないよ。
そもそも、なぜそんなことをしなければならないのかね?
私は、『私たち』にもなれるという実験は済んだ。
だとしたら、他の存在は不要だろう?
全てをまっさらにして、全てを私だけにして、そしてこの世の全てを知るのだ。
これ以上の快楽が他にあるのかね?」
「コイツ……狂ってる……。」
ミナトがその言葉に青褪めた。
「改めて言おう。私は私以外を不要としているのだ。
今まではここに至る経過に過ぎん。
邪魔者を排除し、お偉方からの資金で研究を進め、そして実験のための舞台を整えた。
結果色々と面白い副作用があった。私からすればそれだけの話だよ。」
「でも……貴方、一つ失敗してるわ……。」
エレナはそう言うと、背面と足裏のブースターを全開にして、一気にランドルフへと飛びついた。
「何っ?」
「それはレオンを殺しきれなかったこと。
彼はきっと貴方の計算を超えるわ。
だから……その種を今蒔く!」
エレナの身体の心臓に当たる部分にエネルギーが集中していくのを、ギルベルトは感じ取った。
「やめたまえ、エレナ君!」
「叔父さんには悪いけど、それは聞けない。
レオン……好きだったわ……。」
エレナはそれだけ言うと、心から満足したような笑みを見せた。
次の瞬間、閃光と爆炎がその場にいた全ての人間の視界を奪う。
ダメージを負ったランドルフのみを残し、エレナは散った。
「父さん……。」
という言葉を一つ遺して……。




