表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第二十一章-巨人
161/171

闘いの横で

 エルマーは先陣を切って馬を走らせていた。


 幸い……と言うべきか、焼けた森に燻る残り火が松明の代わりをし、周囲をそこそこに明るく照らしている。


 背後では、光の玉と巨人が戦っている。


 追随する兵は三人。皆、その戦いの様子に、何らかの恐怖に近い感情を抱いているに違いない。


 馬を走らせること数百クラム。

 エルマーは地面に倒れ伏している人影を発見した。

 大急ぎで近寄り、確認する。


 ヒュウガだ。


 エルマーは慌てて馬から飛び降り、ヒュウガの様子をさらに詳しく確認した。

 絶え絶えではあるが息はある。脈拍はやや弱い。


 上半身を抱き上げようとしたエルマーの腕に、ぬるりとした感触が広がった。

 ここで初めて、彼はヒュウガがひどく流血していることに気が付いた。


 エルマーには、若干ながら医療の知識はあった。

 いや、知識がなくとも、この状況は危険だということは一目瞭然だ。


 エルマーの心中に焦りが広がったその時、ガサリ、と茂みが揺れた。

 警戒するエルマーと兵たち。


 そこに姿を見せたのは、ミナトとギルベルトだった。


「ミナトさん! ご無事でしたか!」


「うん……って、ヒュウガ!?

 大丈夫!? ねぇ、ヒュウガ!!」


 彼女も慌ててヒュウガに駆け寄り、身体を大きく揺さぶろうとした。


「駄目だ!! ミナト君!!

 身体を揺さぶってはいかん!!」


 ギルベルトが怒号に近い声で、ミナトを強く制止する。

 そのままギルベルトは、ヒュウガの近くまで滑るように移動し、その身体の状態を調べ始めた。


「どうやら、かなりの量の散弾を全身に浴びせられたようだな。

 気功術を使用してなかったら即死だったろう。」


「助かる? ギルベルトさん?」


 弱々しい声でミナトはギルベルトに尋ねた。


 ギルベルトは無言で魔導球(サーキットスフィア)を展開し始めた。


「これは……!?」


 エルマーだけではなく、他の兵たちも目を見開いて驚いている。

 当然だろう。機械が魔法を使っているのだから。


 魔導球はややあって収斂し、『治癒』の魔法が発動した。

 傷口が徐々に塞がり、中にめり込んでいた散弾が吐き出されていく。


 魔法が一通り発動しきったところで、ヒュウガがゆっくり目を開いた。

 周りの状況をチラリと確認したヒュウガが、かすれた声を上げる。


「エルマー……状況は?」


「はっ! ただいまフォーゲル氏が巨人を相手取り、戦闘中であります。」


「じゃあ、あれ……レオン!?」


 ミナトの目に、巨人の黒い影の周囲を飛び回り、雷や光弾を射出する光の玉が捉えられた。


「どうやら、彼は左手を使っているようだ。

 限界時間について理解していてくれればいいが……。」


「どういう……ことだい?」


 ヒュウガがゆっくりと起き上がりながらギルベルトに疑問をぶつけてきた。

 ギルベルトは静かに答える。


「あの左手から生み出される魔力は相当の物だ。

 あれだけの力ともなれば、限界は十分から十五分……二十分も使えば肉体が崩壊してしまうだろう。

 このことにレオンハルトが気付いていなかった場合、最悪のケースも視野に入れなければならない……。」


「最悪って……レオンが死ぬってこと!?」


 ミナトが怒りを交えた語気でギルベルトに詰め寄る。

 その言葉を聞いたエルマーが恐る恐る口を挟んだ。


「この機械が言う言葉の意味は、フォーゲル氏が斃れた上で、あの巨人が生き残るケースを想定するべきだ、ということでしょう。

 なあ、機械くん。あの巨人の弱点はないのか?」


 エルマーが馴れ馴れしく口をきいているのを見たミナトが、窘めようと身を乗り出したが、ヒュウガがそれを押しとどめる。


 ギルベルトはエルマーの問いにやはり静かに答えた。


「それを今検索しているところだ。

 完全な機械などない。ましてあれだけ巨大な兵器だ。

 大きな穴が見つかってもおかしくはないだろう。」


 その言葉が終わるとほぼ同時に、凄まじい爆音が周囲に轟いた。

 巨人の方へと目を向けると、何か大掛かりな魔法が叩きつけられたらしく、残光が周囲を照らしている。


「ありゃあ……何の魔法だ……?」

「恐らく『轟雷』だ。

 左手の力を全開にした魔法なら、ここまで影響が残ってもおかしくない。」


 呆然とつぶやいたヒュウガに、ギルベルトが言葉を続ける。

 それを見たミナトは、ギルベルトの身体を抱え、再び『神速』のかかった脚で駆け出し始めた。


「どうするつもりだ、ミナト君!」


お父さん(・・・・)は弱点を調べて!

 あたしが彼の所へ向かうから!」


 ミナトは作られた焼け跡の道を、巨人の方角へと駆けていく。

 それを見たヒュウガはエルマーに命令した。


「エルマー。この道を遡って、連中の拠点(アジト)を探れ。

 恐らく連中は全滅して何も残っちゃいないが、念のためだ。」


「了解です。

 隊長は……聞くまでもないですね。」


「当たり前だ。」


 ニヤリと笑って答えるヒュウガ。

 その次の瞬間には、猛烈なスピードでミナトの後を追いかけていく。


 エルマーは肩をすくめて苦笑いをすると、残る兵たちに号令をかけ、ヒュウガとは逆の方角へと馬を走らせた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ