砕かれた宝石(いし)
「残る警備の兵はあとどれぐらいか?」
「はっ、シュヴァルベ様が総動員をかけましたため、結果、残る兵は十人もおりません……。」
「成程……。」
エレナはその言葉を聞くと、コンソールを操作する研究員たちへ静かに命じた。
「あなたたちは裏口からお逃げなさい。」
「しかしそれでは!」
エレナの言葉に、研究員の一人が強く反発した。
「それでは……何?」
冷徹な目で睨みつけるエレナに対して、席から立ち上がった研究員が、強い視線で言葉を続ける。
「それでは例の遺物を起動する人間がいなくなります!」
呆気に取られた表情を見せるエレナに向け、その場にいる研究員たち全員が熱い視線を注いでいる。
「どうして……そこまで?」
「私たち、遺跡工学者は日陰者です。
研究のほとんどは接収され、碌な手当ももらえず、皇帝どころか市民にさえ何をやっているのかと白い目で見られる。
確かにフォーゲル先生のように達観して、人のために生きられるならまだ救いもあるかもしれません。
でも、私たちは違います!
あんな……あんな風には生きられません!」
もう一人の研究者が立ち上がり、叫ぶように語る。
「見せてやりたいんですよ!
今まで蔑ろにされてきた者が何をするかを!
我々の怒りがどれほどのものか、見せてやりたいんです!」
「そうね……あなたたちの言葉、良く解るわ。」
エレナは静かに目を閉じて、少しの間考えた。
その後、強い意思を込めた表情を見せると、その場に居合わせた全ての研究員に対し、号令をかけた。
「起動シーケンス開始。十分で可能か?」
「十五分ください。完璧に行ないます。」
「解った。十五分だな。搭乗者は私自身だ。
起動終了後、急ぎ退避。夜陰に乗じて逃げろ。」
「リーマン先生!」
「諸君らは無理矢理協力させられたのだ。
それを忘れるな。」
それだけ言うと、エレナは管制室の出口へとまっすぐ向かっていった。
途中、彼女の手から輝く何かがキラキラと散り落ちていく。
彼女の過ぎたその場所には、砕かれたイヤリングの欠片が、蒼く輝いていた。