仇敵
『暁の銀騎士隊』は、エドモンド・ガリルと言う元騎士が率いていた傭兵部隊だ。
部隊員は二十名ほど。部隊としては小規模にも関わらず、どこにおいても一目置かれていたのには、ひとえにその戦闘力の高さがあったからだ。
戦闘力の高さの秘訣。
それは傭兵部隊には珍しく、総員の団結が固かったことに加えて、個々の戦闘力が高かったこと、そして何より魔法使いが参加していたことが大きな要因だったのだろう。
部隊の中核を担っていたのは七人。
参入して日は浅かったが、ミナトは七人の一人として数えられるほどだった。
『牡牛のミーナ』――それが彼女の二つ名だ。
その七人の中には、もう一人女剣士がいた。
片手半剣を振るうその女剣士がミナトの恋人だった。
強く、そして凛とした女性だった。
ああなりたいと思った。常にその存在全てが憧れだった。
心を通わせ、ベッドも共にした。
だが、アルコスの撤退戦は、全てを無に帰したのだ。
尊敬する隊長も、常に冷静な副官も、無愛想な射手も、調子のいい戦鎚使いも、そして何より恋人の女剣士も、皆死んでしまった。
あの撤退戦で彼女は神に願掛けをした。
もし自分の仇討ちを許さないなら、ここで殺せ、と。
結果、彼女は生き残り、同じく生き残った魔法使いから前もって学んでおいた魔導士との戦い方と、若干の魔法。
そして多額の報酬を受け取って帝都にやってきた。
狙うはあの惨劇を引き起こした学術師たちの首。
傭兵として渡り歩いていた間にも、情報は少しずつ集めていた。
その中で出てきたのは『レオンハルト・フォーゲル』の名。
奴はあの時の罪など忘れて学術師として増長していると、ある者は言っていた。
他の人間は、あの男はその罪を隠したまま、近く貴族になるとも言っていた。
許せなかった。
あの時の罪から目を背けているその姿勢が、何より許せなかった。
だからこそ、せめて一矢報いる。
ツェッペンドルンの村を焼いた、その罪を忘れさせないためにも。