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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十九章-慕情
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告白

「どうしたんだ? ミーナ。」


 レオンハルトは呼び出しのチャイムを受けて、扉を開く。

 扉の向こうには、思いつめた表情のミーナが立っていた。


「あの……二人きりで話したいんだけど……いいかな?」


「構わんが?」


 短くそう言うと、レオンハルトはミナトを部屋へと招き入れる。


 ミナトの顔は緊張しつつも、どことなく頬が赤く染まっている。


「飲んできたのか?」


 うっすらと香るブランデーの匂いを嗅ぎ取って、レオンハルトはミナトに水差しの水を差し出した。

 ミナトは軽くかぶりを振って、かすれた声で言った。


「飲まないと……度胸つかなかったから……。」


 ベッドへ座るよう、レオンハルトはミナトに促す。

 同時に彼は、椅子を一脚、ベッドの前まで持ってきて、それに腰かけた。


「話とは何だ?」


「うん。前振りとか面倒だから、単刀直入に言うよ。

 あたし、あなたのことが好き……です。」


 勢いのある前段に比べ、徐々に小さくなっていく言葉。

 ミナト自身も、言葉の最後には完全にうつむいてしまっていた。


「その言葉に答えはいるのか?」


「え?」


 ぶっきらぼうに言葉を投げかけるレオンハルトへ向け、ミナトは不安そうな声を返す。


 うつむいて答えを返せないミナトへ、レオンハルトは真剣な眼差しを向け、静かに、だが明瞭な言葉で彼女の想いに答えを出した。


「答えがいるならはっきり言おう。

 俺も、君のことが好きだ。

 男女として共に歩んでいきたい。」


「あ……あぁ……よかった……。

 ありがと……本当にありがとう……。」


 嗚咽交じりに感謝の言葉を述べるミナト。


「礼を言うのはこちらだ。

 君の温もりに触れたからこそ、俺は人であると実感できた。

 君がいなければ、間違いなく俺は人として戻れないところまで行ってしまっただろう。」


 わずかに微笑みながら、瞳を閉じてレオンハルトは言った。

 そんな彼の表情を見て、泣きながらも安心そうな微笑みをミナトは見せる。


 レオンハルトは静かに立ち上がってミナトの横に座り、その身体を抱き寄せた。


「本来なら、ここで君を押し倒すべきなんだろうな……。」


「いいんだよ。いつ押し倒しても。

 あたしもそのつもりで来たんだし……。」


 鼻を少しぐずつかせながらも、笑顔でレオンハルトの顔を見つめるミナト。


 レオンハルトは哀しげな微笑みを見せて、ミナトに答えた。


「だが、そうもいかん。

 押し倒した後、どうすればいいのかが俺には解らない。」


 きょとんとするミナトに、レオンハルトはさらに言った。


「俺は女を知らんのさ。

 何分、研究と生きることだけで手一杯だったからな。」


 その言葉を聞いたミナトの眦から涙が一粒、二粒と溢れてきた。

 目をごしごしとこすりながら、再びミナトはすすり泣く。


「ど、どうした? 何か拙いことでも言ったか?」


「違う……違うよ……。

 あなた、そうだったよね……。

 いつでも自分を後回しにして、自分のこと犠牲にしてばかりで……。

 だから、あたしでたくさん女を知って欲しい。

 あたしのこと、これからずっと好きにしていいから。

 せめてそれぐらいしなきゃ、あなたからの借りなんて返しきれないよ……。」


 すすり泣くミナトをさらに強く抱きしめて、レオンハルトは静かに言う。


「借りだとかそう言った考えは好きじゃないが、いずれそうさせてもらう。

 だが、今はいい。

 今はまだ、これだけでいい。」


 そんなレオンハルトの顔を見て、ミナトは無言で唇を差し出した。


 戸惑いながらも、自身の唇を重ねるレオンハルト。


 口の中で、互いの想いと共に舌が絡み合い、心を満たしていく。


「キスは上手なんだね……。」


 クスリと笑ってミナトが言った言葉に対して、レオンハルトは少し考えこんだ。


「いや……これは……父さんの記憶かも知れない。」


「お父さん?」


「肉体の反射的な行動は、記憶や意思に頼らないと聞いたことがある。

 だからこれは、この身体の、父さんの記憶によるものかもしれないな。」


「そう……。」


 寂しげに目を逸らすミナトに、レオンハルトは穏やかに言った。


「前向きに考えよう。俺には、父さんから色々と受け継いだものがある。

 きっとそれは、今までの埋め合わせになるものも多いはずだ。

 俺はそう信じる。」


 微笑むレオンハルトを見たミナトも、安心したような微笑みを見せ、その胸の中に顔を埋めた。


「男の人を好きになるなんて……考えてなかった……。」


「それは?」


 不思議な含みのある言葉にレオンハルトは耳を疑い、聞きなおす。


 少しの間をおいて、ミナトはつぶやくように答えた。


「あたし……ね。同性愛者(レズビアン)だったんだ。

 傭兵部隊の時、先輩の姐さんと恋仲だった。」


 ミナトの言葉を聞いたレオンハルトは、うつむいて胸から顔を離さない彼女にそっと言った。


「そうか……なら、それ以上は言わなくていい。」


 レオンハルトの言葉を聞いたミナトは、涙交じりの声でうつむいたまま答える。


「やっぱり……イヤだよね、こんな女……。」


「いや、そうじゃない。」


 レオンハルトの言葉にミナトが顔を上げる。


 そこには先ほどまでと、全く同じレオンハルトの微笑みがあった。

 そんな彼は今にも泣きそうなミナトの顔を見て、微笑みを絶やさずに言った。


「これ以上聞くと、その女性に嫉妬してしまうだろう?」


 その言葉を聞いたミナトは、泣き笑いの表情でレオンハルトへさらに強く抱き付いた。

 勢いでベッドに倒れ込むレオンハルト。


「ゴメンね……あたしが押し倒しちゃった……。」


 はにかむミナトの唇を、レオンハルトが再び奪う。

 そしてしばらくの間、二人は強く抱きしめ合って、お互いの温もりを確かめ続けていた。


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