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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十九章-慕情
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巨人の影

「引っかかるのかな? この策に。」


 合成食料を口に運びながら、ミナトがヒュウガに尋ねてきた。


「さあな。なにせ相手は聡明な学術師先生と百戦錬磨の大公殿下だ。

 コッチの下らん策なんぞ、一発で見破るかもしれん。」


「いや、見込みは十分だと見た。」


 ギルベルトがヒュウガに意見する。


「向こうが状況を気にするのは、ここ数日だろう。

 そもそも我々四人がこうやって策を練っていることは想定外のはずだ。

 勝負はこの二日。その間を欺ければ、我々の奇襲が成功する。」


 ギルベルトがひとしきり話し終えると、続いてレオンハルトが口を開いた。


「むしろ問題は、バルメスに何があるかだ。

 カウフマンのレポートから解っているのは、『人形(ひとがた)』ということのみ。

 それがどういった人形なのか、まるで解らん。」


 真剣な顔で食事を頬張るレオンハルト。

 ミナトがその言葉に続いて、疑問を口にした。


「やっぱり『教授』がたくさんいるのかな?」


 フン、と鼻を鳴らし、不敵な笑みを浮かべたヒュウガがミナトに話しかける。


「なぁに。今度は前のようにはいかんぜ?

 コッチは全開で戦えるのが立証済みだ。

 お前ぇさんも『回路』の調子は試したんだろ?」


「まあね。確かに魔力の出力はダンチだったし、魔法そのものの効きも一気に跳ね上がったよ。

『白刃』を利用した試し斬りでも、『教授』の装甲と同じものを斬り裂けたから十分戦える。」


 自身の戦闘能力を冷静に分析しながらも、ミナトの顔はどことなく不安げだ。

 レオンハルトはそのミナトの不安を見透かすように言った。


「何か隠し球があると言いたげだな?」


「うん……連中が何を帝都に突き付けるか考えてみたんだ。

 一番の候補に挙がるのは熱線砲。

 だけど、熱線砲で一気に帝都まで狙うのは、バルメスじゃ遠すぎる。」


「そうだな。

 加えて熱線砲を運ぶのは、かなりの動力が必要になる。

 馬を使うなどと言ったら、それこそ数十頭単位が必要だろう。」


 ミナトの言葉にギルベルトが頷いた。

 そのギルベルトの顔を見て、ミナトの言葉は続く。


「じゃあ、『人形』って何なんだろう? って。

『教授』が何体いたとしても、あたしだって対応できる。

 だとしたら、切り札としては弱すぎるし、帝都への脅威としてもインパクトが弱いよ。

 だから……その……もし……もしもだよ?

『人形』って言うのが、熱線砲を運ぶための巨大な人形だとしたら、って考えたんだ。

 そんなモノがのし歩いてきたら、どんな軍隊だって腰を抜かす。

 そこまで巨大な相手とどう戦えばいいのか、まるでわからなくて、戦意を一気に喪失するんじゃないかって……。」


 レオンハルトの眉が曇り、遠くを見るような目をし始めた。


「ミーナ……あながち間違ってないかもしれんぞ。

 十分に検討しておくべき見解だ。」


 ヒュウガの顔も一気に引き締まる。

 どうやら、戦い方を頭の中でシミュレートし始めたようだ。


「巨人か……一点集中で弱点を狙うしかないな……。

 だが、遺跡の巨人なんてのは存在するのか?」


 ヒュウガの疑問にギルベルトが答える。


「私の失踪当時から三十年ほど前に、一体だけ記録が残っていた。

 だが、当然のことだが、発見当時に破壊処理と遺跡の封印処理が施されている。

 その後はどうだ? レオンハルト。」


「確かにその記録は見た。

 その後、新たに発掘されたという情報は見ていないが、カウフマンが秘匿していた可能性は決して否定できない。」


 瞳を閉じ、レオンハルトも戦い方を考える。

 そこにヒュウガが質問を投げかけてきた。


「弱点ってのはあるのかい?」


「どうだろうな……そこにある人形の性質によるだろう。

 もし完全な戦闘用だった場合、弱点らしい弱点はないと考えるべきだ。

 だが、もし……。」


「もし? なんだ?」


 言葉を区切って考えるレオンハルトにヒュウガが相槌を打つ。

 その相槌に促され、レオンハルトは瞳を開いて言葉を続けた。


「もし、戦闘用でないならば、弱点は多いと考える。

 材質が何であれ、重力に逆らって巨体を維持しなければならないんだ。

 脆い箇所も出てくるだろう。

 そこに付け入ることができれば、あまり大掛かりな魔法に頼らなくてもいいかもしれん。」


「楽観的な判断は危険だ。

 状況によっては、私が巨人を相手取る。

 君たちはまず、連中の中核に当たる戦力を潰すんだ。」


 レオンハルトの意見を窘めるようなギルベルトの言葉に、三人は頷いた。


 食事を終えた三人は、翌日の決行に向け、各々自室へと戻っていく。


 だが、十分と経たぬうちに、ミナトは自室をそっと抜け出して、廊下を小走りに進んでいった。


 レオンハルトの部屋に向かって。


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