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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十八章-絆
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人間(ひと)であること

「事の起こりは二年前だ。」


 異なる遺跡とほぼ同じレイアウトの制御室で、ウィスキーとグラスを用意して、レオンハルトは制御卓に座り、語り出した。


「俺は危険と目される遺跡を単独で調査するよう、教授から極秘に依頼された。

 その内容は、これもやはり熱線砲の生産拠点だったと聞かされていた。」


 レオンハルトはウィスキーをグラスに注ぎ、制御卓のパネルを操作する。


「どうやらこの件、エレナたちと教授が結託して俺を陥れようとしたらしい。

 そこで起こったのが、これだ。」


 壁面の大型投影盤に、白銀に輝く龍と戦うレオンハルトが大写しになった。


 龍は『鋼鉄龍(シュターレドラッヘ)』。


 鋼鉄並みの強度を持つ鱗に覆われた十クラム余りの巨躯、そして雷を操る恐るべき龍。

 魔獣の中でも最悪クラスの、とても人が敵うと考えられない怪物だ。


「これ……メチャクチャだよ……!!」


「メチャクチャでもやるしかなかった。

 このままこいつを放っておいたら近隣の村々は地獄絵図だ。

 だからこそ、全てを賭けて戦う決意をした。」


 泣きそうな声のミナトに、レオンハルトが答える。

 ヒュウガは眉根を寄せて、その映像に見入っていた。


「戦いの経過は省かせてもらう。

 結果として、俺は二度と動けぬほどの重傷を負い……。」


 映像の中では、コムと同じような作りのやや大柄の人形(ひとがた)が、二体洞窟から現れていた。

 人形は機械でできた担架のようなものにレオンハルトの身体を乗せ、そのまま洞窟へと入っていく。


「そして、ここで治療を受けた……って寸法かい?」


「大まかにはな。

 ただ、正確に言うなら、正にそこが問題となる。」


 レオンハルトはウィスキーをひと息にあおる。

 そのまま深くため息をつくと、意を決したように静かに目を開いた。


「先ほど二人とも見たんだろう? 俺の死体を。

 俺は死んだ。あの龍を斃した代償に、俺は自らの命を捧げざるを得なかった。

 この事は後悔していないし、仕方のないことだと理解している。」


「じゃ……じゃあ、ここにいるのは?」


「散々目にしていたじゃないか。

 意識と思考回路を『回路(サーキット)』に焼き付けた人形を。

 ただ、俺は『教授』やエレナと違い、別の人間の肉体――父親であるギルベルト・カーライルの肉体を利用しているだけの話だ。」


 驚きに目を見開くミナトとヒュウガ。


 レオンハルトは静かに語り続ける。


「そう、俺は人形だ。

 父親の肉を喰らい、血を啜って生きる、人の姿をした『何か』だ。

 ミナト(・・・)、いつか言ったな? 俺は一人で生きるべきだと。

 つまりはそういうことだ。俺は人ではない。

 俺は人として、繋がりを持つべき存在じゃないんだ。」


 それだけ言うと、レオンハルトは再びウィスキーをグラスに注ぐ。

 だが、その手は震えている。表向きは冷静でも、心の奥の哀しみか、怒りか……その動揺が現れているのだろう。


 そんな手をミナトは飛びつくように両手で抑え込んだ。


「そんなことない! そんなことないよ!!

 レオンは人間だよ! 他のみんながどう言おうと、あたしはそう信じてる!!

 だから……だから、そんな哀しいこと言わないで!!」


 ミナトの激しい言葉の後に、一歩、二歩と歩み寄りながら、ヒュウガが静かに語りかけてきた。


「なあ、レオン。

 お前ぇがそこまで重いモン背負ってたのはよくわかったぜ……。

 ただな、だからこそ許せねぇ!」


 ヒュウガはそう言うと、レオンハルトの顔面目掛け、大ぶりのフックを一撃叩きこんだ。


「ダチだろうが! なんで一言言わねぇんだ!?

 確かに俺にゃ、手前ぇの苦しみは万分の一もわかりゃしねぇだろう。

 だがな! これだけは言っておく!!

 化け物でもなんでも、お前ぇがお前ぇなら……レオンハルト・フォーゲルなら! 俺たちゃダチだ! 違うのか、ええっ!?」


 ヒュウガの一撃を甘んじて受け入れたレオンハルトの胸の上では、ミナトが哀しみの嗚咽を漏らしていた。


 掴みかけていたグラスから手を離し、レオンハルトはミナトの頭を優しく撫で始める。

 そして、そっと瞳を閉じ、レオンハルトはつぶやいた。


「俺は……人であっていいんだろうか……?」


 その背後からコム――ギルベルトがそっと語りかける。


「これは私見ではあるが、人が人たるは、本人の存在がなんであるかは関係ないと思っている。

 人が人たるは繋がりだ。どういった繋がりを……絆を得るかが重要なのだ。

 正しいと思う絆を得、そしてその絆に応える振る舞いをする者、それが人なのだと、私は考えるが?」


 レオンハルトは緩やかに瞳を開き、自分の顔を見つめるミナトの両肩にその手を置いた。

 そのまま、身体を抱きしめ、再び彼女の頭を優しく撫でる。


「温かいな……。」


「レオンだって、あったかいよ?」


 ぐずついた声で、しかし嬉しそうに耳元で囁くミナト。


 気づけばミナトの両腕も、レオンハルトの身体をしっかりと抱きしめていた。


「まずは、めでたしめでたし、かね?」


 寂しそうな笑みを見せ、ヒュウガが二人を見つめている。


 その声を聞いたミナトは弾かれるようにレオンハルトから離れた。

 真っ赤に染まっている彼女の頬を見て、苦笑するレオンハルト。


 だが、それも束の間、レオンハルトはギルベルトに向け、改めて強い意思を秘めた視線を向けた。


「次はそちらの番だ、ギルベルト。

 前回は色々とはぐらかされたが、今回こそ全て話してもらう。」


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