秘密
「また……ガラス瓶か……。」
不思議な液体に漬け込まれたまま、レオンハルトは目を覚ました。
ガラスの向こう側には、今にも泣きだしそうな顔をしたミナトと、困惑した表情のヒュウガがいて、こちらを見つめている。
「治療用ナノマシンの定着は十分に済んだようだな。
これでもう大丈夫だ。」
コムが自分自身と同じ声を出すのを聞き、レオンハルトの中で何かが繋がった。
今まで疑念に思っていた大きな謎の一つが、彼の中で今ようやく一つの答えとして形になったのだ。
ガラス瓶の中では、二年前と同じく、何かが大きく組み替えられるような音が響き、液面がみるみる下降し始めていた。
割られたはずの肩と、刺し貫かれたはずの胸がガラス面に映ったが、どこも傷痕らしい傷痕は残っていない。
ガラス壁が床へと沈み込みきった瞬間、ミナトがレオンハルトへと涙を流して抱き付いてきた。
「ごめんなさい! ごめんなさい!!
あんなことして……あたし……あたし!!」
「もういい。大丈夫だ。
俺は生きているし、元凶も解った。
ここなら暗示を解く治療もできるはずだ。
そうだな?」
「言われるまでもない。既に執り行っておいたよ。
あと、ヒュウガ君の人工心臓も完全に調整済みだ。
あの不完全な調整機を使って誤魔化すことは、もう必要ない。」
コムから発せられる自身の声を背後に聞きながら、用意された下着と、いつもの学術師の制服を着るレオンハルト。
その様子を見たヒュウガは、静かに質問を投げかけた。
「ここは……どこなんだ?」
「エキシマス山の近くにある療養施設の遺跡だ。
完全に生きており、今でも治療活動が可能となっている。」
袖を通しながら簡潔に答えるレオンハルトへ、ミナトが恐る恐る尋ねてきた。
「あの……さ。
ここに来る途中で……その……見ちゃったんだ……。」
「俺の死体か?」
言葉を詰まらせるミナト。
ヒュウガは痛ましそうに瞳を逸らした。
「こうなっては、もう隠すこともできんだろう。
全てを明かす。いいな? ギルベルト。」
レオンハルトはそう言うと、挑むような視線でコムを睨みつける。
青い瞳を輝かせているコムは、静かに言った。
「気づいてしまったか……。」
「薄々そうではないかとも考えていた。
遺跡の意思とやらが、故人の謝罪をわざわざ伝えるのも変な話だったしな。
詰まるところ、『遺跡の意思』というものはギルベルト・カーライル本人であり、そしてその正体は、そこに浮かんでいるコムの中に秘められていた、そういうことなのだろう?」
「その通りだ。
君が危険に曝されぬよう陰でバックアップするつもりだったのだが、どうやら状況が必要以上に混乱してきたのでね。表に出ざるを得なかった。」
「今日こそはそっちの事情も話してもらうぞ?
前回のように他人事で話を片付けさせんからそのつもりでいろ。」
「いいだろう。少なくとも、私の身に起こった事柄は全て明かす。」
レオンハルトの挑むような視線は、変わることなくコムに向けられている。
ミナトは、その様子をただただ、哀しそうに見つめていた。