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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十七章-強襲
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暗示

「よせ、ミーナ!!

 思い出せ、俺だ! レオンハルトだ!!」


「わかっているさ……あんたはレオンハルト・フォーゲル……あたしの仇だ!!」


 怒りに燃えた視線が、レオンハルトへと常に突き刺さってくる。


(暗示ということは、正気を保ったままそう思い込んでいるということになる。

 操られているのとは違うぞ……どう対処する!?)


 大斧が右へ左へと振りかざされ、その都度、刃がギラリと光る。


 レオンハルトも、ここにきて自らの疲労が思った以上に回復していないことに気付かされた。


(そうか……好機と言うのはこういうことだったのか!!)


「気づいたようね、レオン。」


 ミナトの背後でエレナがレオンハルトの顔色が変わるのを見て、言った。


「あなたは三つの間違いを犯したわ。

 一つ、ベルセンで必要以上の大立ち回りを演じた。

 二つ、暗示のかかっているミナトをひとりきりにした。

 三つ、ヒュウガと二人きりで人気の全くない場所へ向かった。

 この三つが揃ったからこそ、好機と踏んだのよ。

 あなたを殺す事のできる好機だ、とね!」


 エレナの哄笑が辺り一帯に響く。


 レオンハルトは、大斧の一撃一撃を辛うじて躱している。

 その合間に、再びエレナへ問いかける。


「何故俺を狙う!?」


「あなたは十分働いてくれたわ。

 今回の遺跡調査でも、コムを使って相当の情報を集めてくれた。

 でもね、私を疑ってくるようになっては限界。

 そもそも、あなたを放っておけば、後々災いになるのは明白よね。

 だってあなたは英雄だもの。

 私たちの邪魔は絶対にするでしょう? 時計塔の時のように!!」


 エレナは笑いを止め、射抜くような視線でレオンハルトを睨みつけた。

 その言葉を聞いたレオンハルトは、ミナトの攻撃を大きく避けて、一旦間合いを離す。


(一か八かだ!!)


 レオンハルトは両手を大きく広げ、瞳を閉じた。

 ミナトの怒りが全身に伝わってくる。


「観念したか? 死ねっ、レオンハルト!!」


 怒りと殺気が一気に接近してくるのが解った。


(刃の一瞬の閃きをこの手で捉える。あの時のように!!)


 刃の動きが殺気となってレオンハルトの肌に伝わってくる。


強力(ごうりき)』をかけた両手で、その殺気を一気に挟み込んだ。


 白刃取り――あの決闘の時と同じ一手。


 だがその瞬間、背後から衝撃が襲った。


 胸に激痛が走る。


 白刃取りの拘束が緩み、大斧の刃が左の肩口を割った。


「そうすると思ったわ、レオン。」


 右肩にエレナの顔が乗せられ、耳元で甘く囁く。


「あの時の再現……こうやってあの()の正気を取り戻す腹だったんでしょう?

 これこそ私の狙いだったのよ。

 あなたがいなくなれば何もかもが上手く行く。

 せめて二年前にそのまま死んでくれれば苦労しなかったのにね。」


「な……なら、二年前の鋼鉄龍(シュターレドラッヘ)も……!!」


「そう、ずっとずっと前から、私たちは狙っていたのよ。

 あの男に、部下を通してあなたを殺したいと持ち掛けてみたら、面白いように乗ってくれたわ。

 秘密の場所を教えてもらっただけでなく、誘い出すお膳立てまでしてくれた。

 あれでも駄目だったのは驚きだけど、今度こそこれでおしまい。私の勝ちよ。」


 レオンハルトの心臓に突き立てた刃を抉るように抜くエレナ。

 崩れていくレオンハルトの様子を見たミナトの瞳から、怒りが消えていく。


「え……? レオン?

 どうして? どうして!?」


「ありがとう、ミーナ。これで私の望みは叶ったわ。

 あなたも仇が討てて、良かったじゃない。」


「貴様……っ!!」


 瀕死のレオンハルトに涙した瞳に怒りを宿し、エレナを睨むミナト。


「全部……全部わかった!

 貴様が全て仕組んだことだったんだ!!」


「だとしたら?」


「貴様を殺す! レオンの仇だ!!」


 大斧を大上段に構え、一気に振り下ろすミナト。

 だが、『神速』をも加えたその一撃を、エレナは悠々と躱してみせた。


「なっ!?」


「聞こえていなかったのかしら?

 私の身体は最高レベルの人形(ひとがた)をベースにしているって。

 あなたの一撃を躱すなんて造作もないわ。」


 それでも食い下がり、攻撃を次々と繰り出すミナト。

 だが、数手を繰り出したところで動きが一気に鈍った。


 魔法が切れたのだ。


「悪いけど、これでおしまいよ、ミーナ。

 レオンとあの世で一緒におなりなさいな。」


 すっ……と、エレナが右手を掲げた。

 同時にその右手首から、鋭い刃が滑り出た。


 怒りと悔しさから、ミナトの眦より血涙が流れ出る。


 そこへ激しい衝撃がエレナを襲った。

 大きく体を崩し、二、三歩後ずさる。


「魔法!? でも、レオンは……!?」


 あり得ない一撃を受け、困惑するエレナ。


 放ったと思しきレオンハルトの姿を探すが、その姿はどこにも見えない。


 気づけば、もう一息で殺す事のできたはずのヒュウガすら姿が消えている。


 焦って辺りを見回すシュヴァルベと、呆然と突っ立ている一体の『教授』だけがその視界にあるだけだ。


「一旦ここは退くぞ、ミナト君。」


 レオンハルトの声がミナトのすぐ後ろで響いた。


 はっとして振り向くと、そこにはコムが瞳を青く光らせて浮かんでいる。


「コム!? どういうこと!?」


「説明は後だ。まずは脱出する。」


 コムがそう言った直後、二人の姿はかき消すようになくなっていた。


「『転移』!?

 いえ、違うわね。魔導球(サーキットスフィア)の展開がなかった。」


 状況を分析するエレナに、シュヴァルベが近寄り、話しかける。


「まあ、あれだけの深手です。

 魔法でも治癒には時間がかかるはず。

 その間にこちらの為すべきを為せば良し、でしょう?」


 シュヴァルベのその言葉を聞き、エレナは微笑みながら答えた。


「そうね、母さん(・・・)。」


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