憎しみ
ヒュウガの立ち去った部屋、ミナトはベッドに腰かけていた。
膝に大斧を乗せ、寂しそうに撫でている。
「ゴメンね、お義父さん……。」
彼女は大斧に語りかけるよう、つぶやく。
「あたし、悪い子になっちゃったよ……。
この大斧で人をたくさん斬って、村のみんなの仇を討とうとしてる……。」
彼女の手が刃の中心にはめ込まれている、大ぶりの『回路』に触れた。
「復讐なんて何の解決にもならない、ってお義父さんは言ってたけど、やっぱり気持ちの整理をつけたいんだ。
あいつは今、昔の事なんか忘れて、学術師の位についてる。
過去の罪を償うこともなく、のうのうと生きている。
それが許せない。」
瞳に怒りを浮かべつつも、ミナトは静かに語る。
「あたしのやる事は罪に問われるだろうし、返り討ちに遭うかもしれない。
でもあたしは、あいつに後悔の一つでもさせて、恐怖に怯えさせられればそれでいい。
命を奪われるってことがどういうことか、思い知らせてやりたいんだ。」
気持ちを落ち着かせるように天井を仰ぐミナト。
先のヒュウガの言葉が耳に残っている。
「『殺せるもんなら殺してみろ』か……、」
彼女は真正面を向いて、両頬を二つばかり叩いた。
「よし! 仕事だ!!」
正面の壁を見据え、誰に言うでもなく、口の中でボソボソとつぶやく。
「あのヒュウガって奴につけば、レオンハルトと戦うチャンスが作れるんだ。
受けない手はない。」
ミナトはベッドから立ち上がり、大斧を部屋の隅に立てかけた。
シャワーを浴びるため、彼女はシャツとズボンを脱ぐ。
その豊かな胸を締め付けるように上半身にサラシを巻き、下着も男物に近い物を穿いているのは、傭兵としての気概の表れだろう。
サラシを解き、下着も脱いで、シャワーへと向かう。
「チャンスは必ずモノにする。
それが一流だよね、姐さん。」
蛇口をひねりながら、ミナトはつぶやく。
彼女の胸の内では、かつて傭兵時代の恋人だった女性が、凛とした眼差しで優しく微笑んでいた。