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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十七章-強襲
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復活

「ミーナは?」


「宿で休むように指示をしておいた。

 このままでは色々と危ういからな。」


 翌朝、調査を進めるため、レオンハルトはヒュウガと共に遺跡に戻ってきた。

 とはいえ、調査のほとんどはコムに任せて、誰の気兼ねなく二人で話すのが目的ではあったが。


「納得できねぇって面だな?」


「ああ。正直困惑している。」


「どういうことだ?」


 ヒュウガが腰のフラスコを口へと持っていき、ウィスキーを一口飲み込んだ。


「これは俺の予想だが、エレナは亡霊たちと内通していたと考えている。」


「ナルホドな。」


「驚かんのか?」


「いや、薄々感づいてはいた。

 連中が今までの遺跡を先回りしていたことが気になっていたし、逆に今回は先回りができなかったことに加え、それが完全に予想外だったというのが引っかかった。

 俺たちの動向を知らにゃ、そんな形にならんだろう?」


「餅は餅屋……か。

 さすがにその手の謀略なんかに関しては、一目置かざるを得ん。」


「そいつぁ、どうも。」


 フラスコをもう一口あおるヒュウガ。


 レオンハルトはさらに言葉を続ける。


「そうなると、解らなくなるのがエレナの立ち位置だ。

 もしただの内通者ならば、わざわざ命を狙うと宣言などしないだろうし、逆に重要人物となれば、当然命を狙ってはならないはずだ。」


「だが、殺されている。

 どういうことだ?」


「一つ、考えられる事がある。」


「それは?」


「『教授』だ。彼奴と同じことを彼女もやるつもりかもしれん。」


「『教授』か……。」


 真剣な表情を見せ、考え込むヒュウガ。

 その顔を見て、レオンハルトが尋ねる。


「どうかしたのか?」


「いや、お前ぇたちもおかしいとは思わなかったか?

 俺たちがカウフマンを正確に襲撃できたことに。」


「確かにそうだ……。」


「俺ぁこれにも内通者がいたと見ている。

 学術院のカウフマンに近かったヤツ。

 それも、相当に、だ。」


「それもやはりエレナだとでも?」


「可能性は高いと思うがね?

 カウフマンの側近として行動できていたのは、お前ぇとあの女だけだ。」


「だとしたら動機が問題になる。

 なぜ彼女は教授を襲わせるよう仕向けたんだ?」


「そこまでは解らんな……。」


「教えてあげても良くてよ?」


 がさりと草むらをかき分ける音がした。

 その向こうからは、身体のラインをそのままに見せるようなタイツを纏い、あちこちの部位にプロテクターを装着したエレナの姿が見えた。


「どう……なってやがる……。」


 ヒュウガは困惑と驚愕の入り混じった表情でエレナの姿を見つめている。

 そんな彼の隣で、険しい表情を見せてレオンハルトは彼女の姿を観察する。


 ひとしきり観察を終えたレオンハルトは、ある事実に気付き、忌々しげに言葉を吐き出した。


「あれは……人形(ひとがた)だ!」


「なんだと!?」


「ご明察。さすがは遺跡工学の大先輩。

 今の私のボディは遺跡から発掘された超高性能の人形よ。」


 人を見下したかのような視線を投げかけながら、微笑みを浮かべて答えるエレナ。

 その彼女に向け、苦々しい声のまま、レオンハルトはさらに言葉を繋げた。


「そして記憶と思考回路は『回路』に焼き付けて、機械の脳の核にしている……『教授』と同じように!」


「それは心外ね……。」


 エレナの顔から笑顔が消える。


「この方法を考えたのは私が先なのよ?

 あの男はその真似をしようとしていただけ。」


 機械の物とは思えない冷徹な感情を込めた瞳で二人を見つめるエレナ。

 そんな彼女に、レオンハルトが冷静さを取り戻して尋ねた。


「では、今まで戦ってきた『教授』は何なんだ?」


「あれはただのお人形(にんぎょう)よ。

 ダミーで作ったあの男の意識と、表層上の記憶を元に作ったお人形。

 上手い具合にみんなを攪乱できたのは大成功といったところかしら。」


 再び嘲笑とも取れる微笑みを湛えてエレナは語る。


「ならば……ならば、ランドルフ・カウフマンは!?」


「死んだ……と言うより、生き返る術を私が叩き潰したわ。

 あの人はそのまま生き返ることができると踏んでいたんでしょうけど、とんだ見込み違いだったってことね。

 それにしても、今までずっと勘違いしてくれて本当にありがとう。お礼の言いようもないわ。」


 悔しげに歯噛みするレオンハルトに向け、心底嬉しそうな微笑みを投げかけるエレナ。

 その微笑みに向けて、ヒュウガは敵意を込めた視線をぶつけていく。


「あのオヤジを見殺しにした理由は?」


「私の正体と、目的に勘付いたから。

 三公爵を皆殺しにするという目的を邪魔されるわけにはいかなかったのよ。

 なにせあの人は三公爵(むこう)とつながりのある人だったから。

 何かの拍子で情報が漏れる可能性があったしね。」


 ヒュウガの言葉に対し、また違った微笑みで答えるエレナ。


 一呼吸。


 レオンハルトが大きく息を吸い込むと、再び冷静な声で彼女に尋ねた。


「貴様の組織での立ち位置は?」


「頭目……と言ったら驚いてくれるかしら?

 リューガーの落とし胤なのよ、私は。」


「ナルホドな……シュヴァルベの猿芝居のワケも読めたぜ。

 手前ぇと組織の関係をぼかすための煙幕ってハラか。」


「まあ、そんなところよ。

 あまり効果的ではなかったようだけど、一応の成功は収めたみたいだから良しとしておこうかしら。」


「では、今回の茶番はなんだ?

 あえて自らの命を絶つ理由はどこにある?」


 そんなレオンハルトの問いに、エレナは表情を曇らせつつ、口を開いた。


「そんなのは決まっているでしょう?

 私は私。自分以外の私がいる、なんて考えたくもないわ。

 だから今までの私にお別れしたの。

 ご苦労様、ってね。」


 最後の一言と共に、エレナは寂しげな微笑みを見せた。


 微妙な表情の動きがあっても全く不自然さを感じさせない、どこまでもよくできた仮面。

 その事実に気付いたヒュウガの額に、冷や汗が滲んできた。


 その仮面に向けて、レオンハルトは怒りとも憎しみとも取れる視線を向けて再び問いかける。


「最後だ。なぜここに来た?」


「好機と考えたのですよ。」


 茂みのさらに奥からシュヴァルベが姿を見せた。

 傍らに、虚ろな目をしたミナトを引き連れて。


「ミーナ!」


「人質か……っ!!」


 ミナトの名を呼ぶヒュウガと、怒りに顔を歪ませるレオンハルト。

 エレナがその二人の表情を満足そうに見つめ、さらに口を開いた。


「人質じゃないわ。彼女も私のお人形。

 さあ、ミーナ。ツェッペンドルンの仇よ。

 今度こそ、お討ちなさい。」


 ミナトの目の前で、外されたイヤリングが、チリン……と鳴った。

 その瞬間、ミナトの目に怒りが燃え上がり、レオンハルトの顔を睨みつけた。


「仇……レオンハルトぉっ!!」


 魔法を発動させ、一気にレオンハルトへと詰め寄るミナト。

 対するレオンハルトは一瞬で『神速』を使用し、防御を固めようとする。


 レオンハルトに襲い掛かるミナトの様子を見たヒュウガが、怒りを露わにしてエレナへと叫ぶ。


「手前ぇか! 手前ぇが暗示の主か!!」


「あら、暗示に気付かれてたのかしら?

 初めはね、レオンを探している傭兵がいるって部下に聞いたのよ。

 そこで、彼を殺すための駒として、少しずつ暗示をかけていったわけ。

 これを使ってね。」


 エレナはそう言うと、蒼い『回路(サーキット)』のイヤリングをチリン……と揺らした。

 ヒュウガが怒りに燃える瞳をエレナに向ける。


「容赦しねぇ……手前ぇみてぇな外道は絶対ぇ許せねぇ!!」


「狼の君、生憎と貴方の相手はこちらです。」


 シュヴァルベがそう言い放つと、茂みの四方から『教授』たちが躍り出た。


 その数、六体。


「先だっての戦いの情報を元に、さらに反応速度を高めました。

 今の貴方でどこまでできますか? 狼の君。」


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