火葬
遺体を火葬にするべく、三人は麓の森で丸木を調達していた。
ミナトの大斧、ヒュウガの拳脚、レオンハルトの魔法。
薪にするべき丸木はあっという間に集まった。
「火葬って言うのもかわいそうだね……。」
ミナトがポツリと言う。
「でもな、そのまま埋めちまって、熊やら狼に食われるよりはずっとマシだぜ?」
ヒュウガはそんなミナトの言葉を打ち消すように言う。
レオンハルトが無言で『紫焔』の魔法を発動させ、遺体を囲む丸木組みへと一気に火を付ける。
丸木は瞬時に燃え上がり、その炎が遺体を覆いつくした。
「で、おかしいってのは、何だ?」
ヒュウガがコムに向けて尋ねた。
一方のミナトはどことなく虚ろな目で、あらぬ方向を見ている。
「はい。まず遺体の位置関係です。
エレナ様の遺体は、一番奥の制御卓に突っ伏していました。
銃創は右側頭部から左側頭部へ向けて、となっています。
でも、エレナ様の右側にはすぐに壁があったんです。
そんな狭い隙間にわざわざ潜り込んで銃撃するでしょうか?」
「確かにそれは妙だな。
『転移』を利用したとしても、そんな隙間に潜り込むような真似をすれば、大失敗の可能性が一気に跳ね上がる。」
コムの提示した第一の問題に、レオンハルトが補足するようにつぶやいた。
コムの解説は続く。
「第二に銃創そのものがおかしいんです。
シュヴァルベの魔導銃は、面を破壊する威力の高い銃です。
でも、エレナ様の銃創は、貫通銃創……もっと威力が低く、穿つような銃弾である必要があります。
従って、エレナ様を撃った銃は、別の銃であることが考えられます。」
「別の……銃?」
コムの言葉に、ミナトがぼんやりと反応した。
「どうした? 何か心当たりがあるのか?」
「え? あ……エレナ自身が持ってたよ? 婦人用の小さいの。
でも、あんなオモチャの銃じゃ、貫通なんてできないんじゃ……。」
「魔導銃なら可能だろう。
小型の婦人用に偽装した物もあり得る話だ。」
ミナトの言葉にレオンハルトが険しい顔で答える。
「そして最後になりますが、エレナ様が持っていた全ての『回路』がなくなっています。
今まで一緒に行動していた限りでは、合計七つの反応がありましたが、全てなくなっているんです。」
「『回路』はあるに越したこたぁねぇ。
シュヴァルベが掻っ攫ってったんじゃねぇか?」
「かも知れん。だが、彼女の持つ『回路』のほとんどは低級魔法を発動させるものだ。
あんな魔導銃を持ち、『転移』の『回路』を使いこなす手合いに、その程度の物が必要とは思えんが……。」
ガラン! と丸木組みの崩れる音がする。
炎の奥の遺体は、もう灰になりつつあることだろう。
「エレナ……ゴメン……ゴメンね……。」
ミナトが涙を流して、エレナへ謝罪した。
初夏の昼下がり。
その日差しの向こうへと、弔いの煙はもうもうと立ち上っている。
レオンハルトとヒュウガは、そんなミナトに哀しみの視線を投げかけていた。