増援
城壁内での攻防は続いていた。
黒い鎧の一団は一様に皆精鋭で、腕前は確かなものだった。
警備の兵はかなりの数が討たれ、敗色は濃厚となってきている。
「隊長! これは撤退準備をした方が……。」
「馬鹿を言え! 閣下がまだ城内に残っているんだぞ!」
弱音を吐く部下に対し、喝を入れる隊長。
(せめて、あと十人の兵がいれば……。)
警備兵の隊長がそう思っていたところに、切り立った山道を馬で駆ける一団が見えた。
「敵の増援か!?」
「いえ、鎧の形が違うようです。
あれは……帝都の正規兵では?」
騎兵の一団は、そのまま跳ね橋を駆け抜け、黒い鎧の兵を急襲していく。
挟撃を受ける形となった亡霊たちは、自らの退路が断たれていることを知り、攻撃の手が鈍ってきたようだ。
ここぞと攻撃を盛り返す警備兵と、それを補佐する騎兵たち。
騎兵のサポートは的確で、警備兵の邪魔をすることもなく、かといって無意味な牽制ばかりでもない。
よくできた連携で、亡霊たちは次々と討ち倒されていく。
そんな中、警備兵の隊長の元に騎兵を率いていた者が駆け寄ってきた。
「貴君が隊長か?」
「貴様たちは?」
「『影の兵士隊』十五番隊だ、
一命を受け助力に参上した。」
「『影の兵士隊』だと!?
皇帝の飼い犬に恩を着せられる覚えはない!」
「今回の助力は貴君の言う飼い犬ゆえだ。
連中は帝国を転覆させんと企てる叛逆者だからな。
表立って叛意を示していない以上、まだ貴君らは帝国の臣民だろう?」
騎兵隊の隊長の言葉を受け、考え込む隊長。
「何を考えこんでいるんだ?
いずれ俺とお前は敵になるかもしれんが、今はこのまま奴らを潰す。
それの何が悪い?」
警備隊の隊長も腹を決めたらしい。騎兵隊の隊長からの言葉に苦笑いを浮かべ、顔を上げた。
「それもそうだな……。
自分はダニー・ファルコ少尉だ。
貴君の名、聞いておきたい。」
少尉の言葉を聞き、騎兵隊の隊長もまた返答する。
「クリストフ・マイヤー曹長だ。」
「かたじけない。
では貴君ら騎馬隊は右翼を頼む。
我ら歩兵で左翼を叩く。」
「心得た。」
クリストフが右手に握る片手半剣を大きく頭上へとかざし、敵陣右翼へと鋭く振り下ろした。
騎兵隊はその剣の動きを待っていたかのように突撃し、黒い鎧の敵兵たちを次々と蹴散らしていく。
左翼に突撃した歩兵隊も、この増援のおかげで戦意を盛り返したのだろう。
今までは五分以下の戦いしかできなかった兵たちが、皆人が変わったかのように攻撃的に敵兵へと攻め始めたのだ。
騎兵隊到着から数分後に、趨勢は決まった。
およそ八十人ほどいた黒い鎧の兵たちは七十有余名が斬り斃され、残る数名すらも自刃して果てた。
残る闖入者は一人……。
城を振り仰ぐ少尉の目に、日を浴びて落下する人影が映った。
続いてその目には、応接室のベランダから下を覗き込み、大きく口を開いて叫ぶエドガーが見えた。
少尉の胸の中に嫌な予感が沸き上がった。
急ぎ、落下した人影に駆け寄る。
そこには、胸を抉られ瀕死となったアウグスト・ザウアーラント公爵が、苦悶の表情で倒れ、天を仰いでいた。