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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十六章-父子
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ベルセンの攻防

 ベルセンの城は混乱の只中にあった。


 急峻な山が天然の城壁となっていたはずのこの山城に、空から侵入した一体の人形(ひとがた)が城門の大閂を開け、その跳ね橋を下ろしてしまったのだ。


 なだれ込む敵を抑えるのに精いっぱいの警備兵たち。


 それをしり目に、人形は獲物を見つけようと躍起になっていた。


「どこかね、公爵閣下。

 ランドルフ・カウフマンが挨拶に来たのだが?」


 大声を出しながら城内を練り歩く『教授』。

 時折現れる警備兵には一瞥することもなく光弾を見舞い、正確に頭を吹き飛ばしては、また進んでいく。


 やがて城の中央にある執務室に辿り着き、そこにいたザウアーラント公爵をとうとう視界に捕らえてしまった。


「やあやあ、閣下。

 ご無沙汰しておりましたな。」


 喜びに満ちた声を出して室内へと入る『教授』に向け、公爵は大喝を飛ばした。


「貴様……カウフマン!

 どの面下げてここにやってきた!?」


「この面でございますよ? 閣下。

 いや、顔かな? それとも仮面とでも言いましょうかな?」


 まるでニヤニヤ笑いが透けて見えるような言葉を発して、人形はさらに近づいてくる。

 憤怒の表情を崩さぬ公爵の横には、冷徹な表情のフリードリッヒ伯爵がいた。


「おや、お珍しい。

 まさか大公殿下の懐刀がこんな場にいるとは。

 いよいよ鞍替えのおつもりでしたかな?」


「ランドルフ・カウフマン。

 君ほどの才能を持った男が、人としてここまで腐り切っていたと見切れなかったのは、全くの不覚だった。

 殿下に報告し、君を学術院から永久除名するよう進言しておく。」


「それはどうも、ご丁寧に。」


 冷たい響きの声を投げかける伯爵に向け、やはり下卑た笑みを思わせる声音の言葉が返される。


 さらに歩み寄る教授。


 その身が部屋の中央に来た瞬間、ガラガラガラッ! という凄まじい金属音が轟いた。


 気づいた『教授』が急ぎ天井を見上げる。

 その視界には、猛スピードで迫りくるシャンデリアがいっぱいに広がっていた。


 ガラスの割れる音、金属が叩きつけられる音が一気に共鳴し、耳をつんざく轟音となって、部屋の中にいた全員に襲い掛かる。


「やったか?」


 部屋の片隅でシャンデリアの鎖を握っていたエドガーがボソリとつぶやいた。


「いえ、ダメです。

 一時的にダメージを与えて動きを止めたに過ぎません。

 急いで場所を変えましょう。」


 コムの言葉に従ったエドガーと共に、公爵と伯爵は部屋から脱出する。


 シャンデリアの下では、『教授』が立ち上がろうともがいているのが見えた。


「コム、君の言う秘策って言うのは、どんなものなんだ?」


 周りを気にしつつ移動するエドガーが、コムに尋ねた。


「もう手は打ちました。あと少しだけ待ってください。

 応接室へ急ぎましょう。」


 コムに促されるまま応接室へ向かう一団。

 遠く執務室では、再び金属とガラスが作る耳障りな不協和音が鳴り響いていた。


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