最後の賭け
「隊長殿がやられるとは……。」
シュヴァルベにとってもエドヴィンが斃されるというのは想定外だったようだ。
適度にケリをつけ、脱出を図る。その方向で考えていたのだろう。
「あんまり他人の事考えてると、自分の身も危ないよ!」
ミナトの大斧がシュヴァルベを襲う。
大上段から振り下ろし、再び真上に跳ね上げる。
そのまま袈裟懸け、横薙ぎ、スパイクによる突きと、連続攻撃は留まる事を知らない。
その攻撃を躱す動作も、徐々にではあるが鈍ってきている。
以前と同じだ、とミナトは考えた。
(やっぱりそうだ。こいつスタミナがない。
このまま押し込めば……いけるか!?)
そんなミナトの考えを読んだかのように、シュヴァルベが笑みを浮かべてつぶやいた。
「いやはや、これは参りましたね……。」
「負けを認めるかい?
撤退するなら命は取らない。」
ミナトは冷静な表情を崩さず、降伏を促した。
そんな彼女の言葉を聞いたシュヴァルベは、表情から笑みを消して睨みつける。
「同胞を討たれ、遺跡も手に入れず、そのままおめおめ帰れるとお思いか?」
「まだやるつもりかい?
なら本気でその命いただくよ……?」
「そうはいきませんよ、牡牛のミーナ。
我々の悲願の一つ、果たさせてもらう!」
魔導球が輝き、シュヴァルベの身体を包み込む。
その紋はどこかで見覚えのある紋だ。
(何がくる?)
警戒するミナトの目の前で、魔導球は収斂する。
その瞬間、シュヴァルベの姿は忽然と消え失せていた。
「『転移』!?」
怪訝な顔を見せるミナトの元に、ヒュウガが駆け寄ってきた。
「どうした?」
「いや、変なんだ。
シュヴァルベが『もう一つの悲願』とか言って、『転移』で姿を……。」
「それは……マズいぞ!!」
鬼気迫る表情で、洞窟へと一目散に向かうヒュウガ。
その意図に気付いたミナトが慌てて追いかける。
「まさか、エレナを!?」
「可能性は高いぜ!?
奴らの悲願ってヤツの一つは、アイツの命だ!」
暗い洞窟の中を、ミナトの『照明』の力を借り、速足で駆け抜けていく。
「でも、狭い空間の中に跳ぶのは危険だからできないって言ってたよ?」
「違う。絶対にできないワケじゃねぇ。
危険を冒すつもりがありゃ、どこへだって跳べる。そんな魔法だ。」
ヒュウガの険しい表情に釣られて、ミナトの顔も徐々に悲壮なものへと変わる。
遺跡の入り口。
その扉のインターホンを用い、中と連絡を取ろうと、ヒュウガが怒鳴った。
「エレナ! 開けろ!!
無事なら答えろ!!」
無音。
今度はミナトが声を上げた。
「エレナ! エレナってば!!
答えてよ! ねぇ!!」
ザ……と、ノイズが入り、声が聞こえてきた。
「どうも皆さん。」
「シュヴァルベ!」
ミナトが怒りの形相で怒鳴る。
シュヴァルベの声が続いて響いてきた。
「前回のアルバーン公に続いて、今回の件もまた痛み分けでしょうか。
我々は惜しい人材を失いましたが、悲願の一つは達成です。
では、ごきげんよう。」
再びノイズが聞こえ、その後、ドアがひとりでに開く。
この上なく急ぐ二人の行く先にあったのは、まぎれもない絶望だった。