過信
三体の『教授』は一斉に躍りかかった。
スピードは確かに、前回のものに比べて桁違いだ。
それぞれの『教授』は、各々の攻撃を見事な連携で重ねていく。
前回見せたヒュウガの連撃もかくやと見まがうばかりの連携。
しかし、レオンハルトはそれを華麗に躱していく。
「何故当たらない!?」
「スピードは十分なはず……。」
「連携密度も計算通りだ……何が足りない!?」
抑揚はなくとも、十分に焦りが感じ取られる声音で、『教授』は叫んだ。
その言葉を聞いたレオンハルトは再びニヤリと笑い、突き入れられてきた一体の『教授』の右腕を取り、背負い投げの要領で別の『教授』へと叩きつける。
『教授』たちは、勢いよく叩きつけられたことで連携が崩れ、三体が絡み合うようにして互いの動きを封じられてしまった。
レオンハルトは一旦距離を大きく取り、『教授』たちへと静かに語りかけた。
「貴様たちの最大の弱点は、その肉体への過信だ。
俺が貴様に見せた魔導闘法は、所詮は人間相手へと手加減したものに過ぎん。」
その言葉が終わるか否かに合わせて魔導球が展開され、ゆっくりと収斂していく。
「本来魔導闘法は、魔獣相手に使用するためのもの……。
貴様の知らぬ禁じ手は、百はあると知れ!!」
レオンハルトの怒号と共に、真一文字の衝撃波が『教授』たちを襲う。
魔法『鋭断』。
分子レベルでの物質破断を促す衝撃波を発生させるこの魔法は、通常ならば人間の手に余る強靭な材質を切断するために使用されるものだ。
この衝撃波を防ぐ方法は限られており、何の手立ても持たぬものは、なす術なく真っ二つに切り裂かれてしまうだろう。
折り重なるように地に伏せていた三体。
上にのしかかっていた二体が大きく宙へと跳ね上がった。
取り残された一体を衝撃波が襲う。
スカッ……と、竹が割れるような音と共に、伏せていた一体の『教授』の頭部が上下へと両断された。
そのまま沈黙する一体を見て、レオンハルトは推測する。
(頭部に制御系が集中しているのは人間と同じなのか?
だとすれば、ずっと戦いやすくなってくるが……。)
二体となった『教授』が再び躍りかかってきた。
レオンハルトは一体の攻撃を左腕で防ぎ、突き出された右腕を取る。
そのまま『強力』の効果を利用して肩の関節を極めた。
「成程、人体のセオリーが全く効果なしという訳ではなさそうだな。」
ミシリ……と『教授』の右肩が軋む。
そのままレオンハルトは一気に力を込め、その肩を破壊した。
『教授』のその背中を、全力で蹴り飛ばす。
よろめく相手と入れ替わりに、残る『教授』が攻撃を仕掛けけてきた。
だが、その攻撃はまるで計画性も感じられない、半ば自棄を起こしたようなものにしか見えない。
レオンハルトは冷静にその攻撃を見切り、回避を繰り返す。
(やはりそうだ。)
レオンハルトは分析を行う。
(今の連中は技術が足りない。
逆に言えば、こちらの手の内を見せれば見せる程、連中は強くなる。
彼奴らを全滅させるのが早いか、こちらの手の内が尽きるのが早いか……。)
そこにいきなりの衝撃が襲った。
肩を破壊された『教授』が遮蔽フィールドに隠れて接近していたのだ。
片腕で首を絞め、しがみつく『教授』。
「これで終わりだよ、レオンハルト君。
長らくの間、君はとても優秀で、同時に疎ましい存在だった。」
耳元で囁かれる声。
同時に、ギリリ……と、レオンハルトの首が絞められていく。
「我々の念願を叶えるために、君は非常に邪魔なのだよ。
ここで死んでもらわねば、後が続かない。」
もう一体の『教授』が近づきつつ、言葉を発した。
さらに締められる首。もう一体は手刀を構え、一歩ずつ近づいてくる。
ふと、レオンハルトの右手が蒼く輝いているのを、近づいてきた『教授』のレンズが捕らえた。
瞬間、魔法が発動し、爆発的な衝撃が辺りに轟き渡る。
魔法『衝撃』。
強力な衝撃波を発生させ、あらゆるものに大ダメージを与える攻撃魔法。
注ぎ込む魔力の量によって威力を調整できる、小回りの利く魔法でもあり、『雷撃』と並ぶ、レオンハルトの十八番ともいえる魔法だ。
「「馬鹿な……自滅覚悟でこんな魔法を……。」」
『衝撃』の魔法は、関節部に大きなダメージを与えたのだろう。二体の『教授』は、ガクガクと体を痙攣させ、同時に同じ言葉を発した。
レオンハルトは膝をついて、大きく咳き込みながら、振り絞るように声を出す。
「言った……はずだ……。
貴様たちの弱点は……その過信だと……。
俺を殺せると踏んで、余裕を見せたのが失敗だ……。」
ゆらり……と立ち上がり、再び魔導球を展開するレオンハルト。
二体の『教授』は、背を向けて逃げ出そうともがく。
「遅い。」
レオンハルトはそうつぶやくと、『鋭断』の魔法を全周囲に向けて発動させた。
高さはちょうど『教授』たち、その目の高さ。
衝撃波は狙い過たず、『教授』たちの頭部を両断していた。