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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第二章-ミナト・ライドウ
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『影の兵士隊(シャッテンクリーガー)』

 酒場の二階。宿になっている一室で狼の顔を持つ男と牡牛の角を持つ女が顔を突き合わせていた。


 小さいテーブルに酒瓶とグラスが二つ。

 どちらも静かに杯を重ねていた。


 獣人(けものびと)という人種がいる。


 主に頭部に、それぞれの動物の特徴が現れる。


 狼の顔、虎の顔、熊の顔、獅子の顔に(たてがみ)、牛の角、などなどなど……。


 獣人それぞれの種族には体質的な特徴も存在する。

 熊や牛の種族は力が強い、狼は身が軽い、虎や獅子は総じて身体能力が高いと言われている。


 だが、そんな特徴にも男女の別はある。


 そう言った意味では、牡牛の角という外見だけでなく、その怪力とも言えるほどの膂力を持つミナトは、きっと特異体質なのだろう。


「で、話ってのは?」


 グラスを置いてミナトが尋ねた。

 続いて狼がグラスを置き、静かに口を開く。


「まずは自己紹介をさせてもらう。

 ヒュウガ・アマギ。特務部隊に身を置く日陰者だ。」


「あのコート、『影の兵士隊(シャッテンクリーガー)』と見たけど?」


「目ざといな。」


「職業柄ね。

 噂は聞いてるよ。皇帝陛下直属の特務部隊。

 近衛兵なんかじゃできないような汚れ仕事を請け負うって。」


 ヒュウガは目を閉じて、苦笑する。


 ミナトは再びグラスを傾け、手酌で酒を注ぐ。


「その『影の兵士隊』が何の用だい?

 まさかスカウトなんてわけでもないだろうに。」


「そのまさかさ。

 俺たちの仕事を手伝ってもらいたい。」


 組んだ手を口の前に持ってきて、ヒュウガはキッパリと言い切った。


「いや、あたしは忠誠とか言うのはまるで縁のない傭兵だよ?

『影の兵士隊』って、忠誠心の塊みたいなので一杯なんじゃないの?」


「基本的には、な。

 そうじゃない人間も少なからずいるこたぁいる。」


 ヒュウガの目は酔っていない。真剣そのものだ。


 ミナトは、ふぅ……とため息をつき、ヒュウガに答えた。


「悪いけど、今あたし忙しいんだ。

 殺さなきゃならないヤツがいる。

 そいつを始末したら話を受けてもいいんだけどね。」


「利害は一致するぜ?

 なんせコッチの頼みは、そのレオンハルトをお前ぇさんに引き留めてもらいたいんだからな。」


 レオンハルトの名を聞いた瞬間、ミナトの身体がビクリと動いた。


 グラスを持つ手に力が入る。


「いいのかい? あたしはあいつを殺すよ?」


「そのつもりでいってくれ。

 まあ、そうでもしなきゃ引き留めもできんからな。」


 ヒュウガは目を閉じてスラリと言う。


 その言葉を受けたミナトの顔面に朱が注がれた。


 酒をひと息にあおり、テーブルにグラスを叩きつけながらミナトは叫ぶ。


「あたしじゃ荷が重いってのかい!?」


 ヒュウガは目を閉じたままゆっくりと言った。


「腕の立つヤツの大斧は確かにおっかねぇ。

 だが、俺やアイツはそれを見切って懐に飛び込むさ。

 そうなった時、取り回しのきかない大斧は邪魔になる。」


 どこか遠くを見るような目をして、ヒュウガは話を続けた。


「あの時、お前さんが戦ったのを見物させてもらったが、魔導士相手の戦いは基本ができてる。常につかず離れずで得意な間合いを守ってたな。

 だが、魔導闘法のことまではわかっちゃいない。

 ヤツの場合は拳を使う。拳はリーチこそ短いが、振りは極端に速い。

 アイツは何か遠慮があったようだ。

 そうでなかったら、一瞬でケリがついていた。」


「魔法なんか使わせないさ!

 そのための間合いを測り続けていた!!」


「その通りだ。だが、攻撃のための魔法は時間がかかっても、手前ぇにかける魔法は時間がそんなにかからねぇ。

 ましてヤツは動きまわりながら魔法を使うなんてことは朝飯前の超一流の魔導士だ。

 ソッチの大斧をのらりくらり躱しながら魔法を使い、一気に踏み込む。

 そうだな……一分……いや、三十秒もあれば十分だろう。

 アイツの場合なら、身軽になるヤツと一発を重くするヤツ、この二つを併用する。」


 このヒュウガの言葉に、ミナトの顔が一気に青褪めた。


「待った!

 そんなものを併用できるなんて聞いたことない……。」


 ヒュウガの顔に小さく笑みが浮かぶ。


「普通はな、できないのさ。

 筋肉への負荷が大きすぎて、併用はご法度だ。

 だが、ヤツは限界まで体を鍛えている。

 加えて魔法の効果を調整する研究もしていた。

 この二つが合わさって、ヤツは最大五種類の魔法を自分にかけて、さらに攻撃魔法を拳に上乗せしてきやがる。

 率直に言う。化け物だ、ヤツは。」


 そう言うと、ヒュウガもグラスを傾けた。


 その飲み干されたグラスに、ミナトが酒を注ぐ。


「詳しいんだね、アンタ。」


「ダチだったからな。」


 ヒュウガは酒の注がれたグラスを軽く回しながら香りを嗅いでいる。


「だとしたら、ホントにいいのかい?

 あたしがあいつを殺しても。」


「だからこう言ってるじゃねぇか。

『殺せるもんなら殺してみろ』って。」


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