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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十五章-暗雲
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闇い枝葉

「状況は?」


「確認できた兵は五人ほど。

 思ってたよりかなり少ないね。」


 ヒュウガの問いに答えるミナト。

 彼女は洞窟を抜けたところで、岩陰から外の様子を真剣な眼差しで窺っている。


 レオンハルトがさらに言葉を返した。


「いや、多分あの人形(ひとがた)がいる。

 奥に潜んでいる形だろう。」


 しばらく三人で様子を見ていると、岩場の陰から兵たちが姿を見せてきた。

 数は八人。さらに後ろから人形が三体歩いてくるのが見えた。


「これ以上はいないみてぇだな。」


「ならば人形は俺が相手をする。

 八人の兵は君たちだ。」


「三対一は不利すぎるよ!

 せめてヒュウガだけでも……。」


「いや、ここはレオンの言う通りにする。

 兵を全て潰したら援護に回ればいい。」


 心配そうな顔を見せるミナトに向け、ヒュウガが兵士の表情で答えた。

 レオンハルトは小さく頷くと、ゆっくり腰を浮かせる。


 その時、小さな違和感を感じ、再び岩陰に身を伏せた。

 そのレオンハルトの様子に、ヒュウガが訝しげに問いかける。


「どうした?」


「妙なことが気にかかった。

 俺たちが到着してから、どれぐらいが経った?」


「小一時間ぐらいかな?」


「成程……。」


 ミナトの答えを聞き、レオンハルトの頭脳がフル回転を始めた。


(どうにも敵の動きが緩慢すぎる。

 まるで俺たちがここにいないと思い込んでいる雰囲気だ。

 だが待て……なぜ向こうはそう思い込んでいる?)


 レオンハルトはさらに推論を進める。


(俺たちがここに到着したのは今から小一時間ほど前。

 本来の到着予定時刻より二時間半は早く到着した。

 それを連中は知らない。

 自分たちが先を取られていることを、微塵も考えていない。

 これは……俺たちの到着する時間を前もって知っていたという事になる?)


 レオンハルトの中に芽吹いた疑念が、大きく歪な枝を広げ始めていた。


(では誰が情報をリークした?

 ミーナはもともと一匹狼だ。

 ヒュウガの『影の兵士隊(シャッテンクリーガー)』が連中と組んでいるのも考え難い。

 そうなれば……消去法でエレナになってしまう……。)


 考えたくない現実が襲いかかり、レオンハルトの心は暗雲に満たされていく。


(だが現時点では、飽くまで様子見だろう。

 できるだけこの二人には悟られんようにせねば……。)


「どうしたい、レオン。

 難しい顔してるぜ?」


「いや、少しな……。

 それよりどうも向こうは油断しきっているようだ。

 討つなら一気呵成に攻めるべきだろう。」


「そうだね。これ、一気に蹴散らせるチャンスと見たけど。」


 様子を窺っていたミナトも、レオンハルトの言葉に同調する。


「了解だ。

 んじゃ、まずは脅しをかけますか。」


 ヒュウガが立ち上がり、敵に向けて姿を見せた。

 敵兵は明らかに動揺した素振りを見せる。


 ヒュウガはそのまま一気に敵兵の一団へと駆け込んでいった。

 剣を抜いて応戦する兵の動きを読み、まずは手近な敵を討つ。


 回し蹴りで相手の頭を蹴り抜き、体が崩れたところに喉元へ正拳。

 さらに両拳と膝とで挟み込むように叩きつけ、首の骨を折って、まず一人。


 そこからやや遅れてミナトも参戦してきた。


 ミナトは落ち着いた表情で冷静に大斧を振るい、襲いかかる敵のその身体を真っ二つにしていく。


 レオンハルトは『神速』を使い、一気に兵の群れの裏側へと回り込んでいた。

 相手は『教授』三体だ。


「さて、今回はどうかな? レオンハルト君。」


「前回の戦いを元にして、より効率的に動けるよう調整してみたよ。」


「また、耐電磁コーティングも施した。

 お得意の『轟雷』も効果が薄いと思うがね?」


 三体の『教授』は、各々が喋りながらも、一人が喋っているように聞こえてくるほどの正確さで言葉を紡いでいく。


 レオンハルトは考えた。


(同一人物とは言え、異なる肉体での思考全てを一つにまとめる事は可能なのか?

 俺は何か根本的な勘違いをしているのかもしれん……。)


 三体の『教授』が、等間隔を取ってレオンハルトを取り囲む。


「「「さあ、どうするね? レオンハルト君。」」」


 三体分の和音が響く。


 その声を聞いたレオンハルトは、瞳を閉じ、呆れたようにため息をついた。

 そして『教授』の不遜な言葉を粉々にする一言を、嘲笑と共に口にした。


「三体程度で何とかなると思ったか?」


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