募る疑心
「起きな、レオン。」
身体が揺さぶられる感覚があった。
レオンハルトが薄く目を開けると、ヒュウガが肩を揺さぶっていることに気付く。
どうやら休憩を取るつもりが、少し寝入ってしまったようだ。
「すまん……どれぐらい寝ていた?」
「三十分と言ったところだ。
今、ミーナに斥候へ出てもらった。」
「何か入ってきた気配は?」
「それはないわ。
安心して頂戴。」
エレナがメインの制御盤を操作しながら答える。
その冷静さを見る限り、先ほどまでの苛立ちが嘘のようにも見える。
レオンハルトは起き上がり、エレナの傍に向かった。
「データの吸出しか?」
「ええ。早めにやっておいた方が何かと楽になるでしょう?」
「それにしても、さっきまで妙に苛ついていたが、何があった?」
「ごめんなさい。少し今の状況が気にかかって仕方なかったのよ。
言い方がきつくなりすぎたわ。」
微笑んで謝罪するエレナを見る限り、いつも通りの雰囲気がある。
気のせいだろうか? いや、それにしては何かが引っかかる……。
ちょうどその時、外部からのインターフォンが制御盤の画面に映り込んできた。
「これでいいのかな?
連中がやってきたよ。聞こえたら返事して。」
レオンハルトが身を乗り出して、応答の仮想キーをタップする。
「大丈夫だ、十分聞こえた。今から俺とヒュウガがそちらへ向かう。」
レオンハルトがヒュウガに目をやると、彼は既に臨戦態勢のようだ。
肩を回し、拳を鳴らして、レオンハルトへニヤリと笑いかけてきた。
「準備万端か?」
「ああ。いつでも行ける。」
「なら、エレナはここで待機だ。
作業を進めてくれ。」
「そうさせてもらうわ。
コムもいないしね。」
エレナの顔に含みのある笑いが見えた。
レオンハルトは自身の内に、エレナへの疑念が芽生え始めたことを無視できなくなってきていた。
疑念の正体。それはまだ解らなかったが。