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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十五章-暗雲
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焦燥

「妙だな……?」


 草むらの陰から洞窟の入り口の様子を窺うヒュウガが、ボソリと漏らした。


 確かに入り口付近で動いている人影はない。

 レオンハルトは真剣な眼差しで、魔法を展開した。


 数秒の後、レオンハルトは口を開く。


「今、『探査』の魔法を使用した。

 周囲五十クラム四方に人の気配なし。

 全くもって不可解だな……。」


「これってチャンスじゃない?

 一気に遺跡まで入っちゃえばいいよ!」


 ミナトがニコニコ顔で提案する。


「どうするの? レオン。

 もたもた考えている暇はなくてよ?」


 エレナがレオンハルトに決断を促す。

 だが、その言葉はどことなく苛立ちを感じさせる節がある。


「よし、遺跡まで突入する。

 一回、遺跡内で休息を取り、連中を待ち受けよう。」


「先は俺だ。

 ミーナ、殿は頼むぜ。」


「了解。」


 そう短くやり取りを行うと、ヒュウガが周囲を注意深く観察しながら草むらから姿を出した。

 続いてレオンハルト、エレナ、ミナトと洞窟へ向けて足を踏み出していく。


 周囲には何も異常は見られない。レオンハルトの『探査』の結果通りだ。

 洞窟にたどり着き、中に入ってもなお、何の気配も感じられない。


「なあ、コムの奴が嘘をついたってのはないよな?」


 周囲を探りながら洞窟を進むヒュウガがレオンハルトに尋ねる。


「それはないな。

 あいつは冗談は言っても嘘はつかない。

 それに先遣隊がいるなんて嘘をついてどうなる?」


「じゃあ、どうして連中はいないんだろう?」


 ミナトの言葉に再びレオンハルトが答えた。


「部隊の展開が間に合ってないのかもしれんな。

 そう考えると連中の規模は予想以上に小さいのかもしれんぞ?」


 そんなやり取りを三人が行っている中、エレナだけが黙々と洞窟を進んでいる。

 やがて突き当りの空間で、遺跡の扉が露出している箇所へ到着した。


「さて、コムの仕事ぶりはどうだったか……。」


 操作盤のコネクタに、レオンハルトは万年筆大の解錠装置を接続する。

 ほどなくして、ロックが外されたことを示す『ピーッ』と言う電子音が鳴った。

 泥だらけのパネルが赤から緑に点灯し、解錠の成功が確認された。


「よし。急いで中に入ろう。

 今度は俺が殿になる。」


 開け放たれた扉に滑り込む三人。


 レオンハルトは魔法を使い、周囲に何者もいないことを確認してから、遺跡に入り扉を閉じた。

 施錠もまた器具を使ってのもの。つまりは、コムの施錠と同程度の鍵暗号という事だ。


「これで一安心か?」


 一息ついてつぶやいたヒュウガの声に、レオンハルトが答えた。


「いや、管理室まで向かう必要がある。

 中にいる警護を黙らせておかないといけないからな。」


 レオンハルトの言葉を聞いたミナトが言う。


「じゃあ奥に行かないと。

 場所はわかるの?」


「大体の構造は既に頭に入っている。

 あとは突発的な事態がないことを祈るしかない。」


「早く行きましょう。

 のんびりやっているのは、どうも御免だわ。」


 妙に急かすエレナに対し、レオンハルトは違和感を感じた。


 彼女はもっと冷静で、性急な判断は下さないはずだ。

 にも関わらず、今回の件に関しては苛立だしげな様子を隠そうともしない。


 何が彼女の癇に障るのか、それが変に気にかかる。


「どうした? レオン。」


「いや、彼女の苛立ちが妙に気になってな……。」


「女にはそう言う日があるのさ。

 知っとかないと、後々面倒だぜ?」


 ニヤリと笑いながらレオンハルトに耳打ちするヒュウガ。


 だがレオンハルトは、ヒュウガが言うような事とは全く別の、何か不気味な不安を感じとっていた。


 言い知れぬ、ドス黒い不安を。


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