疑惑
「そうなると、俺たちの負担が増えるってワケだ。」
執政所を後にする道すがら、ヒュウガが伸びをしながらぼやきを入れた。
「そうなるね……そこのところ考えに入れてくれたの? レオン。」
ミナトがレオンハルトの顔を、不服そうに覗き込む。
「無論考えた。
だが正直なところ、シュヴァルベがエレナの命を狙っているというのは、どうも本気ではないように思える。」
「どういうこと?」
名前を出されたエレナが、疑念の言葉を口にする。
レオンハルトはその言葉に答えを返した。
「もし本気で君の命を狙うとしたら、わざわざミーナと全力でやり合う必要なんかない。
ましてコムまでいるんだ。余程の策を弄しない限り、そうそう命を狙う事なんかはできないだろう。
それを承知で奴は君を狙っているというが、奇襲すらしてこない。
ここまでされては、向こうの本気を疑いたくなる。」
「違いねぇ。
せめて夜討ちぐらい仕掛けてこねぇと成功なんざしねぇわな。」
「加えて組織の連中だ。
エレナの命を組織ぐるみで狙うと宣言したにも関わらず、シュヴァルベと同じく本気が見えん。
君の命を本格的に狙うなら、俺と同じく人形を用意してもいいだろう?」
「だからと言って、私の護衛をおろそかにされちゃ困るわよ。
『狙われてないかもしれない』であって、『狙われてない』と断定できてないんだから。」
「解っている。
だからヒュウガ。君もシュヴァルベの対応に回ってくれ。
二対一なら、絶対だ。」
「まあな。素人さん相手に大人げねぇかもしれんが、それだけの覚悟持ってるってんなら相手してやるのも礼儀だ。」
「それなら絶対……か……。」
どことなく不満そうな表情でエレナは視線を逸らす。
かき上げた髪の奥に蒼いイヤリングが日を受けて輝いた。
ミナトの目にその光が飛び込んだ瞬間、胸の内に妙な怒りが湧き上がる。
ミナトはその感情に戸惑いながら、それを何とか押しとどめようとしていた。
かつて感じていた黒い感情を思い出したが故に。