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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十五章-暗雲
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護衛

「単刀直入に申し上げます。

 公爵閣下の身を守って頂きたいのです。」


 執政所に向かう馬車の中、少佐はレオンハルトへそう切り出した。


「この度のオルセン公並びにアルバーン公暗殺を聞き及び、ザウアーラント公は防衛のための戦力増強を図っております。

 そこへ魔導士として高名なフォーゲル先生がお見えになるという情報を入手し、是が非にでも我らにご助力いただきたいと……。」


「あらましは理解しました。

 まずは話し合いの場において返答します。」


 レオンハルトはそれだけ言うと、瞳を閉じ、口を噤んだ。

 隣ではエレナがその様子を窺っている。


 十分としないうちに馬車は執政所に到着し、二台の馬車から人が降りてきた。

 どうやらミナトの斧の件は大丈夫だったようで、馬車は壊れていない。


 一行は執政所の応接室に通され、簡単な自己紹介の後、改めて少佐から現状の説明を受けた。


「現在、ザウアーラント公の居城であるベルセンの城が、敵の包囲を受けている気配があります。

 明確な攻撃は受けておりませんが、不審な人影が幾度となく見られていることから、ほぼ疑いはないかと。」


「ベルセンは相当キツい山城だったよね。

 ガッチリ守れば普通の兵は手も足も出ない。」


「そうなると問題は人形(ひとがた)だな。

 ソイツだけ潰せば勝負はつくと見たが?」


 ミナトとヒュウガが少佐の説明に答える。

 そんな言葉に横から大尉が疑問を口にした。


「人形とはどういう事でしょうか、少尉?」


「連中は暗殺を確実なものにするため、人形を持ち込んできやがるのさ。

 性能はとんでもなく高ぇぜ? ヤツにかかっちゃどんな名刀も木剣同様、鎧なんざ紙っぺらだ。

 しかも魔法まがいの兵器で人を殺す。

 十分……いや、五分経たずに二十人からの重武装した兵士が文字通り皆殺しだ。

 俺はこれを実際に見ている。全くなす術がねぇのがどうにも腹立たしい……。」


 ヒュウガの言葉は先方の三人にとっては想定外のことだったようだ。

 軍人同士でのひそひそ話に加え、秘書の女性も眉を顰めている。


「で、どうするの? レオン。

 助力の要請は受ける? 受けない?」


 エレナがどことなくつまらない様子でレオンハルトに尋ねてきた。


 レオンハルトは、延々と黙り続けていたが、エレナの問いに対して口を開いた。


「この件、お受けする訳にはいきません。」


「ちょっと、レオン!」


 この返答にミナトが先方より早く大声を上げる。


「あんなにザウアーラント公を助けたいみたいなこと言ってたじゃない!

 ここにきて言葉を翻すなんて、らしくないよ!」


「待ちな、ミーナ。

 ここはレオンの意見を聞こうじゃねぇか。」


 勢いよく立ち上がったミナトを、ヒュウガが改めて着座させる。

 ミナトは渋々それに従い、レオンハルトの言葉を待った。


 それを確認したレオンハルトは、緩やかに自説を切り出した。


「まず一つ目。我々は大公の命を受け遺跡の調査に向かっているという点です。

 さらに言うならば、これには期限があり、あまり余計な時間を割くことは望ましくない。」


 レオンハルトは少佐へと視線を向ける。

 視線を受けた少佐は、考え込むようにわずかにうつむいた。


「第二に、遺跡の状況です。

 現時点において、遺跡には既に暗殺組織の先遣隊が到着しているという報告を受けています。

 もし混乱を収束するために公爵閣下の護衛を引き受けたとしても、その間に遺跡の護衛が増強されては本末転倒だ。」


「では、遺跡調査の際、その遺跡での貴方たちの警護を我々が引き受けます。

 その条件では?」


 大尉が取り繕うように提言する。

 それに対し、レオンハルトは静かに否定の言を告げる。


「先にも申しました通り、組織は人形を用います。

 その性能は、先ほど少尉が言ったままです。

 彼奴らと対等以上に戦うことができるのは、特殊な戦闘技能を用いる事のできる者に限られるでしょう。

 有体に申し上げれば、一般の兵では死体の山を築くだけになる。

 それだけ恐ろしい手合いなのです。」


「だとすれば、私たちにはなおの事先生のご助力が必要です。」


 今まで黙っていた秘書が口を開いた。

 秘書の強烈な視線はレオンハルトを射抜かんとするほどだ。


「その人形が公爵閣下のお命を狙っているとすれば、対抗できる人間を用意せねばなりません。

 フォーゲル先生。貴方のご助力は何をもってしても不可能なのでしょうか?」


 秘書の視線を真っ向から受けて、レオンハルトは深く考え始める。


 たっぷり三分も考えただろうか。

 熟考の末、レオンハルトはようやく口を開いた。


「方法はあります。」


「それは!?」


 色めき立つ三人の前に、コムが正にフェードインするかのように姿を現した。

 驚きの表情を浮かべる三人に、コムが挨拶をする。


「初めまして。コムと言います。

 レオンハルト様の相方を勤めている、観測用の機械です。」


「自分の最後の隠し球です。

 彼の持つ防御壁を抜ける兵器は、現在の所存在しません。

 恐らく人形の兵器でも、十分に渡り合えるでしょう。」


「はぁ……。

 しかし、機械に護衛を任せるというのは……さすがに……。」


 大尉がいかにも不服そうに口を開く。

 だが、それを意に介すことなく、秘書がレオンハルトに質問を投げかけてきた。


「この……彼……でよろしいのでしょうか?

 彼は自分の意思で行動できるのですか?」


「人間と同程度には意思疎通もできますし、思考も行います。

 必要ならば、今までお見せしていた通り、姿を隠すことも可能です。

 攻撃こそできませんが、防御の面においては、自分を凌ぐ働きを見せてくれるでしょう。」


「しかし、攻撃できないのでは……。」


 続いて少佐が難色を示す。


「戦闘用の人形は、連続稼働できる時間が限られているんです。

 逆に言えば、その時間を稼げさえすれば、防衛は成り立ちます。

 加えて、二度、三度と攻めてこられないように一般の兵力を削いでおけば、しばらくは行動も起こせなくなると思うんですが、どうでしょう?」


 少佐に向けて、コムがスラスラと説明を行った。


 その様子を見た少佐と大尉は、再び目を丸くして驚いている。


 秘書は満足そうに微笑むと、レオンハルトにこう尋ねた。


「では、先生は彼を私たちにお貸し頂けるという事なのでしょうか?」


「そのつもりです。

 ただし、一点だけ注意して欲しいことがあります。

 いいですか? 公を避難させるのは、逃げ道のある場所にしてください。

 塔の上や地下室の中など、逃げ道のない場所に隠れないように。」


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