交錯
「すみませんね旦那方。
今日はロクな仕入れができてなくて、こんな物しか出せませんで……。」
宿屋『大鷲亭』の酒場で夕食をとろうと集まった四人だったが、給仕の男から差し出されたのは手書きのメニューだった。
それも、かなりの数を削ったような風が見え隠れしている。
「ま、これだけの大騒ぎじゃ仕方ねぇさ。
ソーセージと黒パン大目に見繕って、あとはシチューだな。」
ヒュウガが状況を判断して、すぐに用意できそうなものをメニューの中からササッと決めていく。
レオンハルトも苦笑いしながら、その注文に賛同し、ミナトからもエレナからも反対意見は出てこなかった。
給仕が下がったところで、レオンハルトは小声でヒュウガに尋ねた。
「そっちの用件は完全に片が付いたようだな。」
「ああ。とりあえず十本追加だ。
これで少しは余裕が出る。」
続いてレオンハルトはエレナに尋ねた。
「友人のご様子は?」
「ええ、少し不安そうだったけど何とかするって言ってたわ。
ねえ? ミーナ。」
「え? あ……うん……。」
何やらはっきりしない返事をするミナトを、レオンハルトは訝しく思い、さらに声をかける。
「どうした? ミーナ。」
「ゴメン、なんか頭がボーッとするんだ。
疲れてるのかな?」
「かも知れん。
今日は食事をして、早く休むようにした方がいいだろうな。」
「うん……。」
やがて注文した品がテーブルの上に並び、夕食の支度が整った。
めいめいが黒パンを取り、ソーセージを取り分けて、シチューに口をつける。
「おっ、結構イケるぞ。
なあ、レオン。『青龍亭』のシチューを思い出さねぇか?」
「え? ああ……そうだな。」
スッと暗い影を落としつつ、曖昧に返答するレオンハルト。
ヒュウガが何か気付いたような顔をして、さらにレオンハルトへ尋ねる。
「どうした? お前ぇさんも疲れてるクチか?」
それを見たミナトがレオンハルトへフォローを入れる。
「ねぇ、ヒュウガ。『青龍亭』のシチューってどんなの?」
「ああ、それはな……。」
ヒュウガはミナトの言葉に、気分良さげに答えてきた。
レオンハルトはただ無言でシチューを口に運んでいく。
エレナはそんなレオンハルトを、皆に悟られぬよう冷徹な視線で見つめていた。