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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十四章-兆候
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地下室

「報告を。」


「はっ。」


 ランプの灯り一つ。暗い地下室に、女の声と男の声が響く。


 上座の椅子に座る女の顔は暗闇に隠れ、よく解らない。

 だが彼女の相手をする男の声は、間違いなく『リューガーの亡霊(ガイストフォンリューガー)』、その実行隊長のものだ。


「ザウアーラント公への包囲網は完成しつつあります。

 ただ、ヴェルミナの遺跡については確保に失敗したとの事でございます。」


「投入人員は?」


「現在投入できる予備兵も投入し、包囲網には五十人規模。

 ヴェルミナの警護には四十人を考えております。」


「ヴェルミナの確保に失敗したとあったが?」


「はっ……申し上げにくいのですが、考えられない邪魔が入りました。」


「どういうことか?」


「レオンハルトに付き従う小型の機械が遺跡を施錠したらしく、解錠の機械が通用しませんでした。

 また兵からの報告には、その機械が魔法を使用し、『教授』を完全に破壊したとの事。」


「機械が魔法に似たことを行なうのは今に始まった事ではないが?」


「いえ、魔法です。

 魔導球の発動を確認したと、明確に返答しております。

 さらにその機械は、あの女を『姉さん』と呼んだとか。」


 わずかな間、静寂が場を包んだが、すぐに女の声がそれを破った。


「姉さん? どういうことかしらね……。」


「いかがいたしましょう?」


 女はさらに考え、結論を導き出した。


「包囲網にもっと人員を割く。

 こちらには『教授』という切り札がある。

 ザウアーラントを取り逃さぬよう絶対の包囲を敷いて、止めを刺すべきね。」


 女の声に、男が困惑した声で聞き返す。


「しかし遺跡の警護は……。」


「ヴェルミナの遺跡は放棄。

 これもあの女と『教授』に任せます。

 今用意できる『教授』の数は?」


「先の戦いで損壊した射撃型は修繕完了との報告を受けております。また格闘型の調整も終了したとの事。

 それを鑑みれば、射撃一、格闘三、合計で四。」


 てきぱきとした返答を受け、女はしばらく考える。


 やがて考えがまとまったらしく、ボソリとつぶやいた。


「稼働可能な『教授』は残り十体。そのうち四体でどこまでやれるか……。

 いいわ。ザウアーラントの本拠を攻めるのは射撃型のみで十分。

 ヴェルミナには格闘型を全て回しなさい。

 あと、ダミーで人員は十程度必要ね。」


「では私が出ましょう。」


「やってくれるか?」


「姫君のために。」


 男は静かに女へとかしずいた。


「そろそろ仕上げかしらね。

 やりたくはないけど、上手く誘導しないと……。」


 女の言葉にはっとした表情で顔を上げる男。

 そんな男の肩に、女はそっと手を置いて、椅子から立ち上がる。


 地下室の出口が開いて、わずかではあるが、昼下がりの光が差し込んできた。

 女はその光へ向け歩みを進める。


 蒼いイヤリングを、チリン……と鳴らして。


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