混乱
フルシエンの関所は、大変な混乱にあった。
なにせ直轄ではないにせよ、領地を治める大領主がいきなり殺害されたのだ。
逃げ出そうとする者、潜り込もうとする者。混乱が混乱を生み、さらにそれに乗じようと人が集まり混乱を広めていく。
いきおい人は殺気立つ。些細なことで騒動が起こり、それがまた混乱の種になってしまう悪循環が、関所の雰囲気を険悪なものにしていた。
「ひどいわね、これは。」
検問所に人が殺到し、あちこちで罵り合いが起こっている状況を見て、エレナが暗澹たる表情でつぶやいた。
そのつぶやきを耳にしたヒュウガが忌々しげに口を開く。
「これがテロってヤツだ。
下らねぇワガママを力ずくで他人に押し付ける。
結果、一番割を食うのは何もできねぇ善人だ。
今だって逃げられるヤツぁ逃げ出そうと躍起になっちゃいるが、その裏じゃどれだけの人間が泣き寝入りだと思ってる?」
「そうだね……それがあるからやりきれない……。
やっぱりアイツらは放っておいちゃいけないよ。
頼むよ、ヒュウガ。『影の兵士隊』の本気ってのを見せてやってよ。」
「わかってる。
だから、ここで少しばかり個人行動だ。」
ヒュウガが旅装を肩に担ぎ直しながら言った。
「何をするんだ?」
レオンハルトの問いに、ヒュウガがニヤリと笑いながら答える。
「なに、仲間に連絡を、な。
ここなら手段も豊富だから、今日中に本部へ連絡も取れる。」
「時間はかかるのか?」
「いや、半日もありゃ十分だ。」
ヒュウガの言葉に考えこむレオンハルトを見たエレナが、いかにも面倒そうな様子で語りかける。
「レオン。どうせこの混雑は一日、二日じゃ捌き切れないわよ?
覚悟を決めて、しばらくは長逗留しかないんじゃなくて?」
「それしかないな。
そうなると、学院長へ現状を詳細に報告して裁断を仰ぐしかない。
場合によっては軍が動くかもしれん。
その時の折衝は、ヒュウガ、君に任せるぞ。」
「了解だ。」
「宿は……そうだな。
ここにある『大鷲亭』にしよう。
夕方にここで落ち合う。
それでいいか?」
「ん、わかった。」
ヒュウガはそれだけ言うと、右手を軽く上げて雑踏の中へと入っていく。
続いてエレナがレオンハルトに言った。
「私も別行動いいかしら?」
「何かあるのか?」
「ええ、近くに友人がいるのよ。
さすがにこんな状況では心配になってくるわ。」
「だが、一人では……。」
「じゃあ、あたしが一緒に行くよ。
一応体術も心得があるし。」
ミナトが微笑んで名乗りを上げる。それを見たエレナとレオンハルトは、安心した表情で頷きあった。
「じゃあ、ミーナ。護衛よろしくね。」
「OK。まかせてよ!」
「なら俺は学術院支部で報告だな。
コム、お前も付き合え。」
「解りました。」
中空から小声で返答が返ってくる。
それを見て女性陣はクスリと笑い、その場から離れていった。
残されたレオンハルトたちもまた、市街地中央へと向かう。
目的地は学術院支部だ。




