推論
翌朝。
朝食の席で、レオンハルトが昨夜の件を切り出した。
「皆聞いてくれ。コムによる施錠は完了した。
これによって、実質的に遺跡の封印は完了したと言える。」
「鍵深度は?」
エレナが真剣な眼差しでレオンハルトに尋ねる。
「十六だ。これだけあれば間違いなく外敵を弾くことができる。
問題は、コムが既に『リューガーの亡霊』たちを発見したということだ。」
レオンハルトの言葉に今度はミナトが反応した。
「思ったより早い……。」
ミナトもまた、真剣な表情を見せ、うつむいて考えこむ。
それを見たヒュウガが、昨夜聞いた話を思い出し、口を挟んだ。
「そうだな。正直、俺も聞いて驚いた。
だが、そうなってくるとわからんコトがある。」
「なんだ?」
「敵の規模さ。
先だっての遺跡襲撃は、罠を仕掛けるために五十人以上の兵をつぎ込んだ。
その前の遺跡でも十人ほどやられてたんだろう?
だとしたら全体規模でどれぐらいになる?」
「ざっと百人は見ないといけないわね。
いえ、それとももっと?」
エレナが自らの見解を述べたところで、再びレオンハルトが口を開いた。
「難しいところだな。
百人では少ないが、二百人では多いかもしれん。」
「んー……でも、敵の規模は大きめに見ておかないとまずいよ?
侮るのとは違うかもしれないけど、できないだろうとたかをくくっていたら、火傷しかねないからね。」
ミナトの言葉を聞き、レオンハルトは真剣な表情で頷いた。
「君の言う通りだ。
まず次のヴェルミナでは、ほぼ間違いなく二正面作戦を取ると見た。
だとしたら、遺跡にしても、ザウアーラント公暗殺も、各々それなりの兵数を割いてくるだろう。
最大規模で考えれば、各々に百の兵となる。」
「それに『教授』とシュヴァルベだな。」
ヒュウガの言葉に、レオンハルトが瞳を閉じる。
「どうした? レオン。」
「いや、『教授』の総数がまるで解らないのが痛い。
恐らく十数体という所だと推測はできるが、断定できないのがな……、」
「どちらにしても多くはなさそうだとは思うけどね……。」
「どういうこと? エレナ。」
ミナトの質問に、エレナは真剣な表情を崩すことなく答え始めた。
「いい? ミーナ。
残る数が一体だったら、そもそも『我々』なんて言葉は使わないでしょう?
じゃあ、数体だったら? その場合は、貴重な一体を囮にするような真似は、勿体なくてできない。
逆に数が多かったら? それだったらわざわざ遠慮して一体一体で攻めることなく、一斉に数で押してくるわ。
そのどちらでもないということは、おおよそ十数体前後ということになるんじゃないかしら?」
「ま、こいつぁエレナの言う通りだろうな。
なあ、レオン。あまりごちゃごちゃ考えても始まらんぜ?
どうあったとしても、ザウアーラント公まで助けられはしねぇんだ。
コイツばかりは割り切るしかねぇし、そもそもお前ぇの仕事じゃねぇ。」
ヒュウガの言葉に、ミナトも頷いた。
「そうだよ。
できないことまでやろうとするのは、レオンの悪い癖だよ?
あたしたちの仕事は遺跡の探索と封印。それ以外の何物でもない、でしょ?」
この言葉にようやく納得できたのか、レオンハルトはため息交じりに答えた。
「その通りだ。
無駄だとは思うが、公には何らかの形で危険を通達しておこう。
次の関所で、学術院の通信回線を利用して連絡するのが一番だろうな。」
「ザウアーラント公も馬鹿じゃないわ。
既に二人の公爵が殺されているのを聞き逃すはずもない。
手は打とうとしてるわよ。きっと。」
エレナの言葉に皆が頷いた。
レオンハルトはコーヒーを啜り、さらに考えた。
ヴェルミナの遺跡にて最も重要視される要素は何か?
シュヴァルベの思惑はどこにあるのか?
そして『教授』の真の意図は?
全ては闇の中だ。
何はともあれ、まずは遺跡へと向かうしかない。
ミナトの言葉通りに。