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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十四章-兆候
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「で、アイツはいつ帰ってくる?」


「今夜中には帰るはずだ。

 ま、何かあったら連絡を寄こすさ。」


『金羊亭』の部屋の中で、グラスを傾け合うヒュウガとレオンハルト。


 つまみのチーズとソーセージがなくなりかけたところで、窓が、コツコツ、と鳴った。


「帰ってきたか?」


 レオンハルトは鷹揚に席を立つと、窓を開け、そこにいるはずのコムを部屋へと迎え入れた。

 スゥっと薄衣がはがれるように、部屋の真ん中の空間にコムが現れる。


「施錠完了しました。

 ただ、報告しておくことが一つあります。」


「何だ?」


「『リューガーの亡霊(ガイストフォンリューガー)』の先遣隊が既に到着しています。

 さらに言うなら、シュヴァルベと『教授』が一体。」


「何だと!?

 ソイツぁ本当か!?」


 ヒュウガが血相を変えて立ち上がり、コムに詰め寄る。

 コムは怯んだように後ろへ下がり、報告を続けた。


「ただ、僕は施錠を行なってそのまま逃走を図りました。

 僕は戦闘が苦手ですから。」


「それでいい。

 施錠はどこまでやった?」


「鍵深度十六です。

 全力の魔法でも連続で十時間は魔力を注ぎ込む必要がありますね。」


 自慢げなコムの説明を聞いたヒュウガは。不思議そうにレオンハルトへ尋ねた。


「どういうことだ、その鍵の話は?」


 レオンハルトは窓を閉めながら語り始めた。


「『開錠』の魔法は遺跡の電子式錠を開くためにあるんだが、それをやるためには鍵の持つ『深さ』が重要になってくる。

 これが深ければ深いほど、魔法をかける時間は長くなる。」


 一区切りしたところでレオンハルトは席に戻り、酒で口を湿らせた。


 さらに説明は続く。


「理論上、この魔法で解けない電子錠はないが、鍵深度が深ければかかる時間は長くなるし、それに応じて注ぎ込む魔力も大量に必要となる。

 人間が連続して魔力を注ぎ込める時間は最大で三十分ほど。もし『教授』が『開錠』を利用できたとしても、今度は稼働時間の問題も出てくるだろう。」


 再び酒を少しだけ口に含み、レオンハルトは微笑みながら言った。


「いずれにせよ、十時間魔法を展開し続けることができる存在はほぼいない。

 そう言った意味では、実質的に鍵は開けられないということだ。」


「ナルホドな……大体わかった。」


 どことなく釈然としない様子のまま、ヒュウガも席に座りウィスキーを飲む。


「しかし、コトだな。

 もう先遣隊が到着しているとなると、今度は連中と直にやり合う必要がある。」


 グラスを手で回しながら、ヒュウガはボソリとつぶやいた。


「だが、今回は同時にザウアーラント公の命も狙う必要があるだろう?

 戦力が分散する公算は高い。」


「だとすると、『教授』がどれだけいるか……だな。」


「ああ……。」


 言葉が途切れたところで、二人は同時に酒をあおった。


「あの……僕が言うのは変ですけど、深酒はやめておいた方がいいかと……。」


「ん……そうだな。

 どうやら明日は出立できるようだ。早めに休もう。」


 それだけ言うと、レオンハルトはヒュウガに目配せをした。

 それを悟ったヒュウガは、苦笑いをしてゆっくり席を立ち、二人は各々のベッドへと沈み込んでいった。


 どうやらコムが予想していた以上に、二人は飲んでいたらしい。

 気が付けば、あっという間に二人は高いびきをかいて眠り始めていた。


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