洞窟
暗黒の洞窟の中、緑の光が瞬いている。
コムの目だ。
そのコムの前には、半分土に埋もれた遺跡の扉の制御盤が存在している。
コム何一つ言うことなく、施錠処理を行っているようだ。
コネクタを展開している胸の制御盤に、明かりの明滅が繰り返されている。
作業は滞りなく済んだらしい。
コムはコネクタを扉の制御盤から取り外し、胸の中へと格納した。
同時になぜか遮蔽フィールドを展開し、その中へと隠れていく。
その理由はすぐに明らかになった。
数分と経たぬうちにカンテラの灯りがちらちらと見え隠れし始めたからだ。
「ここでいいのか?」
闖入者は男の声で、そう仲間に告げる。
「その通り。
ここが遺跡に通じる洞窟で間違いありません。」
女の声――シュヴァルベの声だ。
角を曲がり、やや小広い空間に遺跡の入り口はある。
カンテラの灯りに照らされたその空間に入ってきたのは、合計四人。
シュヴァルベ、黒い鎧の男二人、そして……『教授』だ。
「どうやら、何か隠れているな?」
『教授』はそう言うと、肩から光線砲をせり出させ、何もない空間に向けて、光線を射出した。
遮蔽フィールドが破られ、コムが姿を現す。
「コイツは!?」
驚く鎧の男たちに対して、『教授』は冷静に口を開く。
「ふん、レオンハルトに付きまとうお坊ちゃんか。」
「その呼び方はやめてもらえませんか?」
コムが不平そうに発声する。
コムは続けて『教授』に声をかけた。
「『教授』、あなたはあと何体いるんです?
そもそもあなたは、本当にランドルフ・カウフマンなのですか?」
「その質問に答える義務はあるのかね?」
嘲笑うかのような『教授』の声に、コムの目が青く光った。
「それはもっともだ、ランドルフ。
では今ここにいる君を破壊しておこう。」
コムはレオンハルトの声でそう言い放つと、自身の身体の前に魔導球を展開した。
その魔導球の紋様を見たシュヴァルベは、慌てた声で叫ぶ。
「いかん! 下がれっ!!」
魔導球が収斂し、魔法が発動した。
その瞬間、『教授』の上半身が抉られたように消滅し、そのまま制御を失った身体が、ドサリ、と倒れこむ。
高位魔法『穿孔』。
空間そのものを穿ち、あらゆる物質を消滅させる魔法。
レオンハルトでもかなりの集中力を必要とする魔法だ。
「こいつ……機械の癖に魔法をっ!?」
鎧の男の一人が驚愕のあまり声を上げる。
そんな男の叫びに、コムは再びレオンハルトの声で答えた。
「君は勘違いをしている。
本来魔法は機械が使うものなのだ。
むしろ人間が魔法に適応してきたといっていい。
魔導士とはそういった『人を超え始めたもの』なのかもしれないな。」
それだけ言うと、コムは再び遮蔽フィールドを張り、その中へと姿を消した。
「では……また会おう、姉さん。」
洞窟の中に、コムの最後の言葉が響く。
取り残されたシュヴァルベの表情は、憤怒とも、恐怖とも取れるものだった。