謎
崖下の遺跡から数十ロークラム程、かなり離れた森の中で、『リューガーの亡霊』たちは自軍の現状を確認していた。
「あの女はどうした?」
隊長である装飾のある鎧を身に付けた騎士は、脇に控える副官へシュヴァルベの所在を尋ねた。
「はっ……用件があると、魔法で……。」
副官の報告を受けた騎士は、渋面を作って言葉を漏らした。
「腕は立つ。情報も正確だ。
そして『回路』による魔法を使えるのは何物にも代え難い。
だが、こうも勝手をされると、こちらの統率にも影響が出る。」
「仰る通りです。
なお、損害ですが……。」
「芳しくないか?」
「はっ……。」
副官の報告では、今回の襲撃に割いた人員は六十四名。
うち、帰投できたのは重軽傷者含みで三十三人だったという。
「半数か……。」
「加えて、先のクロウフでも、先走った兵が十名近く戦死しております。
合わせれば全兵員の約四割が、この二件の作戦で損耗しているのが現状です。」
「だが、好機であることは間違いない。」
不安げな表情を見せる副官に、断固とした表情で答える騎士。
「今回、我々は仇敵である三公爵のうち、二人を討ち滅ぼした。
残るはザウアーラントのみ。
これにあのバルメスの遺物を用いれば、帝国の転覆も十分可能だ。」
「しかし、それをあの小癪な英雄たちが黙って見ているでしょうか?」
「それはあの人形に任せる。」
「教授の置き土産……ですか?
皮肉なものです。公爵閣下を亡き者にした男の研究結果で復讐を成すのは。」
「だが、魔法の威力は、今回の襲撃で十分に味わったはずだ。
それに加えて、気功術の狼もいる。
人外には人外をぶつけるしかない。」
水筒に口をつけ、水を流し込む騎士に向け、副官が再び口を開いた。
「隊長……どうしても一つだけ、気になる問題があります。」
「何だ?」
「あの人形に意思はあるのでしょうか?」
「それについては以前姫君ご自身が話された通りだ。
ただ模擬的に人格と記憶を用意したに過ぎない、とな。」
「そうですか……ただ、自分にはどうしても、それが信じられないのです。」