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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十四章-兆候
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目的

 被害は惨澹たるものだった。


 アルバーン公並びにその妻、子息、令嬢たちは皆殺しとなり、警備の兵も全滅。

 遺跡内部の損傷こそ少ないものの、熱線砲は壊滅的なダメージを受けていた。


「すまねぇな……ようやく楽になった……。」


 主となったはずの公爵家がいなくなり、がらんとした管理室内で、ヒュウガは大きく深呼吸しながらレオンハルトに礼を言う。


 人工心臓の過負荷による呼吸困難。これが如何様なものなのか、レオンハルトはようやく目の当たりにした。

 もはや呼吸がほぼ完全に止まってしまうほどの負荷が、人工心臓にはかかってしまうようだ。

 そして全力を出したヒュウガは、必要な酸素が全く足りない形に陥り、十分に息を吸わなければ絶命しかねない。


 この症状を緩和するための制御装置は残り四本。

 だが、このままあの人形(ひとがた)との戦いが続けば、四本どころか十本あっても足りなくなってくるだろうことは間違いない。


「情けねぇぜ……どうにもよ……。」


 悔しさを満面に浮かべ、怒りの声音でヒュウガがつぶやく。


「ここ一番でどうにかするのが、俺の強みだったはずだ。

 それがこのザマじゃ、お前ぇの足手まといにしかならねぇ……。」


「そんなことを言うものじゃない。」


 レオンハルトはヒュウガを窘めるように語りかけた。


「お前がいるかいないかで、戦略を大きく変えることができる。

 お前でなければ頼めない事もあるだろう。

 だから、そこまで自分を卑下するな。」


「それにしてもとてつもない破壊力ね……。」


 奥に存在していた熱線砲を調査したエレナが言う。


「頑強な構造材を引きちぎって、内部を爆散させていたのよ?

 怪物以外の何物でもないわ。」


「でもさ、レオンはどうしてこの事に気付いたの?

 どういうからくりで、あの人形は入り込んだの?」


 ミナトの疑問を受けたレオンハルトは、ぽつぽつと語り始める。


「まずは……俺が戦ったあの人形に対する違和感だ。

 彼奴は俺に対し、肉弾戦しか仕掛けてこなかった。

 オルセン公を襲ったモノは、魔法、もしくはそれに類する能力(ちから)で命を奪ったはずなんだ。

 俺との戦いで、わざわざそれを封印する必要はない。」


「言われてみればその通りね。

 相手は魔導士なんだから、なりふり構っちゃいられないだろうし。」


 エレナの相槌を受け、さらにレオンハルトは言葉を繋げる。


「もう一つは、彼奴の言った『我々』という単語だ。

 初めは『リューガーの亡霊(ガイストフォンリューガー)』の事かとも考えたのだが、それにしては妙な違和感があった。

 俺を殺すという矮小な目的を、組織全体に浸透させられるかどうかは甚だ疑問だったからな。」


「つまり、どういうことだ?」


 ようやく立ち上がろうとするヒュウガにレオンハルトは手を貸しつつ、自身の中にある結論を口にした。


「俺の考えを言おう。

 教授は、複数の人形に己を移し替えた。

 これは恐らく二体、三体と言う話じゃない。

 最低でも五体以上、場合によっては十体単位で存在している可能性もある。」


「待って!? あの化け物が何体もいるってこと!?

 それメチャクチャだよ!!

 一体だけでもこんななのに、それが何体もいたらどうにもならないよ!!」


 怒りとも焦りともつかぬ声音で、ミナトが叫んだ。

 レオンハルトは冷静に答えを返す。


「だが、きっと万能型と言うのは存在しないと見た。

 光線や光弾を使用しながら、格闘も可能といったタイプは、少なくとも今の状態では存在しない。」


「なぜ、そう言える?」


「もしそのタイプが投入できるなら、いの一番に投入して俺を狙ったことだろう。

 それができていないということは、今のところはまだ存在していないということと同義だと言える。

 だが、今後も存在しないということにはならない。

 恐らくそれを最終形にして、俺にぶつけてくるだろうな。」


 レオンハルトの言葉が切れたのを見計らい、エレナが質問を続ける。


「ここに侵入したのは、その『魔法』ということでいいのかしら?」


「恐らくはな。ただ正確に言えば、『魔法』を模した機械の機能だろう。

 彼奴の持つ機能の一つに遮蔽フィールドがあったはずだ。

 このフィールドを展開した場合は感知が頗る難しい。コムのセンサーでも、特定の検知器を使わなけば感知不可能という代物だ。

 それを利用され、大尉が扉を開けたのに乗じて内部に侵入した。そんなところだろう。」


 皆が一斉に押し黙る。


 沈黙がしばし続いたところで、コムが声を上げた。


「でもレオン様。

 そうなると連中の目的は何だったんです?

 公爵閣下の命一つ奪うためにこれだけのことを仕組んだんでしょうか?」


「俺はそう考える。

 奴らの最終的な目的は、公爵の殺害、遺跡と遺物の奪取だったはずだ。

 だが、俺たちと言うイレギュラーによって、予想以上の抵抗があった。

 だから、絶対的な目的である公爵殺害と、遺物を俺たちに渡さぬよう、破壊工作に切り替えたんだろうな。」


「いや、それは違うぜ。」


 レオンハルトの言に、ヒュウガが反論を始める。


「俺としちゃぁ、奴らは俺らがここにいることを知っていたんじゃねぇかと考えるがね。

 よく聞いてくれ。シュヴァルベはお前ぇたちがどこへ行くかの情報を、既に仕入れていたんだぜ?

 つまりあの隠し球である『教授』は、お前ぇ専用の隠し球だった。

 ハナっからお前ぇを潰すつもりで用意しといたんだ。

 だが、通用しなかったってのが実際だと思うがね?」


「う……む。」


 レオンハルトはヒュウガの言葉に考え込んだ。


 確かにその通りなのだ。

 この遺跡を落とし、公爵の命を狙うだけなら、五十余りの兵を投入すれば十分だったはずなのは既に証明済みだ。


 それ以上の、まさにオーバーキルを狙った、人形二体の投入。


 これはひょっとして実験だったのではないか?


 人形の稼働実験……そして完成形への情報収集……。


 可能性は高い。


 行き着いた自分自身の予想に、レオンハルトは言い知れぬ不安を感じていた。


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