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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十三章-亡霊
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破壊

「礼を言おう、君たち。」


 大尉は態度をさらに軟化させ、レオンハルトたちへ語りかけてきた。


「正直なところ、君たちがいなければここは全滅だっただろう。

 あの波状攻撃で、士気がかなり挫かれていたからな。」


「いえ、礼には及びません。

 我々もまた、個人的に敵対する存在を迎撃したに過ぎませんので。」


「だが、損害はかなり大きいぜ。」


 レオンハルトの返答を待って、ヒュウガが不機嫌そうに口を開く。


 事実、洞窟の入り口付近では、手当てを受ける者、戦死者を埋葬する者、される者と、かなりの人間が忙しなく動いていた。


「レオン、手伝って頂戴!

 魔法の出番よ!」


 怪我人の手当てをしていたエレナが、レオンハルトを大声で呼ぶ。


 その声に応え、治療現場に向かおうとしたレオンハルトに、大尉がさらに語りかけた。


「君たちの調査の件、公への進言を約束する。

 全ては無理だろうが、できるだけ要望に沿うよう努力してみよう。」


 一瞬レオンハルトもヒュウガも驚いた顔を見せたが、レオンハルトはすぐ真顔に戻り、感謝の言葉と要望を述べた。


「ありがとうございます。

 当方としては、遺跡並びに遺物の調査と封印が目的です。

 最低限、遺物のみでも封印させていただきたい。」


「防衛拠点としては認めてもらえるのだろうか?」


「一時的には。」


「分かった。それで十分だ。」


 短いやり取りではあったが、大尉の誠実な人柄がレオンハルトには十分に伝わってきた。


 大尉は大股で洞窟へと向かっていく。

 それを見たヒュウガが、レオンハルトへと語りかけてきた。


「どうやら見誤っていたようだな。」


「そうだな。あの人は悪い人じゃない。

 ただ職務に対し忠実すぎるだけだ。」


 そう笑いながら答え、怪我人の元へ速足で向かうレオンハルト。


 見れば、ミナトも怪我人に手際よく包帯を巻いている。

 レオンハルトは、その脇に横たわる、重傷の人足に『治癒』の魔法をかけた。


「あの時もこんなだったね。」


 急にミナトがレオンハルトに話しかけてきた。


「あの時?」


「帝都で爆破テロが起きた時だよ。

 あの時もあなた、こんな風にみんなを治療してた。」


「ああ、そうだったな……。」


 しばらくすると、人足はうっすらと目を開け、レオンハルトの顔を見た。

 涙を流し、口をかすかに動かしている。

 必死になって『ありがとう』の言葉を出そうとしてるのだろう。

 その様子を見たレオンハルトは、その男に微笑みを見せ、次の重傷者へ取り掛かった。


 十分もしただろうか。手当を続けていたミナトが、レオンハルトへ声をかけた。


「おかしいね……。」


「何がだ?」


「大尉だよ。生真面目そうなあの人なら、交渉が長引きそうな気配を伝えに来てもおかしくないのに……。」


 漠然とした不安が、レオンハルトの内側に湧き上がる。


『魔法』で殺されたオルセン公……。


 肉弾戦しかしなかった人形(ひとがた)……。


 そして人形の遺した『我々』という言葉……。


「いかんっ!!」


 漠然とした不安が形となり。レオンハルトの中で確信に変わっていた。


 今回の襲撃は、罠だ!


 アルバーン公を狙うための、大掛かりな罠だったのだ!


 血相を変えて洞窟の中へと向かうレオンハルトを見たヒュウガは、レオンハルトと共に遺跡の入り口まで向かっていく。


「レオン、一体どうした!?」


「嵌められた……完全にしてやられた!!」


 施錠されていた遺跡の扉を魔法で開くと、中から異常な物音が聞こえてきた。

 何かが弾けるような音、砕かれるような音、剣戟の音も混じるが、それ以上に何か破壊を伴うような音ばかりが耳に届く。


 レオンハルトだけでなく、ヒュウガの顔色も変わった。

 急ぎ奥まで向かうと、そこには先ほど爆散したものと同じような人形(ひとがた)が、肩や背中から様々な端子を引き出して、光弾、光線を放っている真っ最中だった。


「カウフマン……貴様ぁっ!!」


「おや、勘が鋭いな。

 計算では全て終わらせて、『ご愁傷さま』の予定だったが。」


 レオンハルトの怒号を冗談で受け流す人形。


「おい、大尉……大尉ッ!?」


 レオンハルトの後ろでは、胸を光線で貫かれたらしい大尉の遺体が地面に横たわっていた。

 その遺体にヒュウガは自らの上着をかけ、人形を睨みつけながら立ち上がった。


「レオン……ちょいと無茶するぜ。

 後始末、頼めるかい?」


「解った。全力で行け。」


 ヒュウガの言葉で全てを悟ったレオンハルトは、背中を押す言葉を彼に向けた。


 同時に人形の肩からせり出したレンズが輝き、光線が射出される。

 その光線がまさに直撃しようとした瞬間、ヒュウガの姿が歪み、消えた。


 誰もが目を疑ったその直後、ヒュウガの姿は人形の懐の中に現れていた。


 そのヒュウガは、両手を腰だめに構えている。

 同時に、光る『何か』がヒュウガの両手の間に現れ、見る見るうちに輝きを増し、眩いばかりの光球となっていく。


「破ッ!!」


 気合一閃、光球を人形の胴体に叩きつけるヒュウガ。


 ドンッ!! という、大砲が発射されるような音と共に、その一撃は人形を大きく壁面まで吹き飛ばし、五体を激しく叩きつけた。


 そのままヒュウガは、『神速』もかくやとも言える超速度で一気に間合いを詰め、鬼神のごとき形相で、猛然と連撃を繰り出し始めた。


 拳が、手刀が、蹴りが、人形の関節に叩きつけられ、確実に破壊していく。


 だが、人形は、そんなヒュウガの攻撃を成すがままに受け止めている。


 その様子を窺っていたレオンハルトは、ある事実に気が付き、それをヒュウガに向けて叫んだ。


「ヒュウガ! 胸だ!!

 何かを仕込んでいる!!」


 その叫びと同時に、人形の右胸を覆う装甲が弾け飛び、内部の機械が露出する。

 光の粒子がその胸部にある開口部に集まっていくのを、ヒュウガは見た。


「チィッ!!」


 ヒュウガは自身の中に鳴り響いた警戒警報に従った。


 人形の右胸へ全力の跳び蹴りを叩きこみ、反動で大きく間合いを測る。


 着地したヒュウガの前へレオンハルトが立ち塞がり、魔法『防壁』を準備。

『防壁』が発動したと同時に、人形の右胸から高出力の熱線が放たれた。


 熱線は周囲を、そして兵の遺体や遺物の残骸などを焼いて、煌々と輝く。

 その熱線の向こうから人形の声が響いてきた。


「目的は達成した。今回のゲームは互いに一勝一敗だな。

 私はここでおさらばしよう。

 次回会えるのを楽しみにしているよ、諸君。」


 その言葉を残し、人形は叩きつけられた壁面から姿を消していた。


 レオンハルトとヒュウガは、沈痛な表情で、大尉の遺体に目を向ける。


 レオンハルトが自らの不明と無念に歯噛みしたその瞬間、ヒュウガが膝から崩れ落ちた。

 息が大きく乱れ、蒼白な顔で胸を押さえている。


 レオンハルトは急いで遺跡の外へ駆け出した。

 ヒュウガの旅装。その中にあるはずの『命綱』を持ってくるために。


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