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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十三章-亡霊
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『教授』

 ミナトは『神速』を用い、新たに飛び込んできた五人の兵を相手取った。

 次々と襲い来る敵へと大斧が鮮やかに閃き、紙のように斬り裂かれていく。


 後ろに控える数人の兵たちの口元が苦々しく歪み、半歩ほど後ずさった。


(わたくし)が相手です。牡牛のミーナ。」


 シュヴァルベが兵たちの前に進み出て、細身の剣を抜き放った。


 左手には魔導銃、右手には細身の刺突剣(レイピア)

 半身になった独特の構えで、ミナトを牽制するシュヴァルベ。


 警戒して様子を見ていたミナトは、シュヴァルベのタイを留めるピンに気付き、目を凝らした。


 何か蒼い輝きがある……。


「しまった!!」


「少しばかり遅かったようですね!」


 魔法『神速』。


 シュヴァルベもまた、『回路(サーキット)』を利用しての魔法が可能な人間だ。


 これで状況は五分。

 あとは、自身の技量と武器の相性がものをいう世界になった。


 レオンハルトとヒュウガは、件の人形(ひとがた)と対峙している。


 レオンハルトは憤怒の形相で人形へと叫んだ。


「ランドルフ・カウフマン! 貴様か!!」


「ほう……私の正体を一発で見破るとはな。

 なかなかの賢察だ。及第点だぞ。」


 以前のような、何かに怯え、焦っていた様子は微塵も感じられない余裕の声音で、人形は答えた。


 その相手に対し、ヒュウガもまた声高に怒鳴る。


「おい外道! ここで会ったが百年目だ。

 否が応でもその首置いてってもらうぜ!!」


「ふん……?

 私をそこまで憎むとは……なにかあったのかね? 狼君。」


「なんだと!?」


「私の記憶の最後のピースが埋まっていないのだよ。

 多分何かの事故だと思うがね。

 そこで君に何か失礼をしたら謝るよ? 狼君。」


 ギリッ……とヒュウガの歯が軋る。


 その脇を、風が一迅吹き抜けた。

 レオンハルトが冷徹の表情で間合いを詰めたのだ。


 猛然と繰り出される拳。


 全てが正確に人体の急所を捉え、ほぼ致命打になる威力。

 だが、人形は怯むどころかびくともせず、冷静に言い放った。


「ほう、驚いた。

 人間とはここまで速く動けるものなのだな。

 さすがは魔導闘法だ。素晴らしいよ。」


 半笑いの声音。レオンハルトを小馬鹿にしているのは明らかだ。


 だがレオンハルトは、この状況を冷静に分析する。


(やはり無駄か。

 烏兎、人中、三日月、秘中、水月、そして金的、いずれも効果がない。

 材質強度は高く、直接の打撃、斬撃はほぼ意味をなさないだろう……。)


「レオン!」


 分析を続けるレオンハルトの脇にヒュウガがやってきた。


「ヒュウガ、お前もエレナの護衛だ。

 下がっている兵を牽制してくれ。」


「待てよ! 冗談じゃねぇ!!」


「俺の攻撃を見たはずだ。彼奴は人体のセオリーが通用しない。

 気功術のないお前ではどうにもならん!」


 ヒュウガは忌々しげに歯を食いしばると、人形からの攻撃を警戒しながら、ミナトの元へと駆け寄っていく。

 それを見た人形は呆れたような声で、レオンハルトに語りかけた。


「君は……自分一人で私に勝てると思っているのかね?

 どんな物事でも、過信というものは足元をすくってくるものだ。

 君ほどの人間が知らぬとは思えんが……。」


「その言葉はそっくり返させてもらおう。

 貴様のその身体、無敵ではない。」


 超速の魔導球(サーキットスフィア)収斂。


 レオンハルトは、わずか数秒で『神速』と『強力』をその身に宿し、再び臨戦態勢を整える。

 そのまま『神速』を宿した身体(からだ)で一気に攻めへと転じた。


 踏み込んでからの正拳、左右。

 だが、それを人形は大きな動作で躱していく。


 流れるような連続攻撃を繰り出すレオンハルトだが、その動きはどことなく緩慢にも感じられる。

 攻撃を仕掛けるというより、演武を舞っているかのようだ。


(やはりな……。)


 レオンハルトは、さらに状況を分析していく。


(彼奴は攻撃が『見えて』いるが、『見切って』はいない。

 これで攻撃を誘えば、どうなる?)


 一瞬、攻撃の隙を作るレオンハルト。

 人形は、そこへ猛然と拳を突きこんできた。


 強力な右フック。それをレオンハルトは義手で受け止める。

 大きく横へと吹き飛んでいくレオンハルト。


 人形は、満足そうな声を発し、天を仰いだ。


「ああ、いい気分だ。

 人を殴り飛ばすのがこんなに気分がいいとは思わなかったよ。

 君もそうなのだろう? レオンハルト君。

 そうでなければ、そこまで体を鍛えるはずもない。」


 ゆっくりと人形が近づいてくる間にも、分析は続いていた。


(攻撃力は高い。だが、飽くまでも力任せの一撃だ。

 全てに技術が伴っていないのは、教授の知識と経験の問題だろう。

 あとは弱点だ。自分の予想が正しければいいのだが……。)


 大きく足を振り上げ、倒れているレオンハルトの胸板目掛け振り下ろす人形。

 それを瞬時に躱して、レオンハルトは再び右手に『雷撃』を宿した。


「まずは……ここだっ!!」


 レオンハルトは、そう叫ぶと同時に、目にも止まらぬ超速度で、右ストレートを人形の右肩へ叩きつける。


 インパクト。同時に『雷撃』発動。


 強力な電撃が、肩の球体関節を包み込み、青白い稲妻が周囲に飛び散っていく。


「無駄だよ。

 この程度の電撃では、私の身体は破壊できん。」


「そうかな?」


 レオンハルトはそう短く言うと、ニヤリと笑って構えを緩めた。

 好機と見たのか、侮蔑と見たのか。人形は一足飛びに襲い掛かってきたが……。


「ぬっ……!?」


 右腕が上がっていない。まるで麻痺したかのように力なく垂れ下がっている。


「やはりな……。」


 そうつぶやくと、レオンハルトは飛び込んできた人形に向け回し蹴りを放った。

 渾身の一撃は宙を舞う人形を捉え、その身体を崖に向けて勢いよく叩きつける。


「まさか……そうか、そういうことか!」


 右腕を庇い、叫びながら起き上がる人形。

 それに向けて、レオンハルトが叫んだ。


「貴様の身体の駆動方式は基本的に電気制御によるものとみた!

 故に、『雷撃』の魔法の直撃を受ければ、最低でも動作は麻痺するはず!」


「全く……君に発掘品の調査を任せ続けたのは失策だったよ。

 短時間でここまで推測できるようになっていたとはな。」


 大したダメージも見せることなく、人形は立ち上がった。

 パラパラ……と、土埃が全身から流れ落ちる。


 だが、次の瞬間、人形の眼前からレオンハルトの姿が消えていた。


「ど……どこだ!?」


 焦った声で無様に首を左右へと振る人形。


 その直後、レオンハルトは人形の眼前へ上空から降り立ち、両の手刀を肩口へと叩きこんでいた。


 一瞬、レンズの赤い両目と、澄んだ琥珀の両目が互いを映し合う。


 パチリ……と火花が走ったと同時に、凄まじいまでの電撃が周囲を包み込み、衝撃波と爆音が崖の内側に轟いた。


 魔法『轟雷』。


 先の『雷撃』とは比較にならぬ爆発的な電撃。


 この一撃をまともに受けた人形は、完全に動作を停止し、真下へと膝から崩れ落ちた。

 魔法がひとしきり発動したのを確認したレオンハルトは、ザッ、と大きく飛び退き様子を窺う。


 果たして決着は……。


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