亡霊
「我々は『リューガーの亡霊』。
今は亡きリューガー家の復興を願う者。」
五人の背後から声が聞こえた。
振り向けば、そこには黒く塗られながらも、様々な装飾の施された立派な鎧を身に付けた騎士が剣を構えている。
脇には三人ほど険しい顔をして剣を構える者たちもいた。
恐らくこの騎士が部隊を率いているのだろう。
「成程な……繋がってきたぞ。
亡霊たちが忘れ形見のシュヴァルベを当目に据え、暗躍していたということか。
クロウフの件も貴様たちだったな。
熱線砲を奪取する腹と言うのは、十年前の意趣返しか!?」
「それもあります。」
シュヴァルベは岩から華麗に飛び降り、レオンハルトへ向き直った。
「だが、それ以上に全ては復讐なのだ。
リューガーを滅ぼした三公爵への復讐。
再興の芽を摘み取った、ユリウス・リーマンの裏切りへの制裁。
そして何より、現在の帝国の悪しき因習の打破。
これら全てを成し遂げた上で、リューガーによる新たな帝国を打ち立てること。それこそが我らの悲願。」
「冗談じゃないわ!」
騎士の言葉にエレナが叫ぶ。
「そんな下らない考えのために私は狙われているの!?
私と父は別物だと、どうして理解できないのよ!!」
激昂して叫ぶエレナの前に、レオンハルトが歩み出た。
「彼女の言う通りだ。
貴様たちの支離滅裂な主張には反吐が出る。」
レオンハルトの横にヒュウガが立つ。
「全くだぜ。
ご大層な理想でも掲げるかと思いきや、蓋を開けりゃ下らねぇ反体制ときた。
せめて個人的な恨みを捨てちまうんなら、少しは見直してもやるんだがな。」
ミナトもまた、レオンハルトの横まで歩を進めた。
「傭兵のあたしが言うのもなんだけど、それで血を流して何がしたいのさ?
結局あんたらも、いつかは『悪しき因習』を作り出して、同じように潰されるだけじゃないか!」
そんな彼らの言葉が届いているのか解らぬまま、騎士たちは一斉に剣を構え、戦闘態勢を取った。
「全ては姫君のために!」
異口同音に叫ばれる言葉――まるで海鳴りのような語気にエレナは気圧された。
だが、彼女の前に立つ三人には、そんな威圧などはそよ風にも感じていない。
「コム。お前はエレナの護衛を続けろ。
フィールドは最大出力でいけ。」
「はい。ただ、全開では十分しかもちません。
それ以上かからないようにお願いします。」
五人目――コムがレオンハルトの後ろから声をかけた。
レオンハルト、ヒュウガ、ミナトの三人が各々戦闘態勢を取った直後、シュヴァルベが静かに口を開く。
「さて、では我々も隠し球を使いましょう。」
微笑みながらそう語ると、彼女は指を、パチンと鳴らした。
ゆらり……と空間が歪む。
その歪みから染み出すように現れた『それ』は、まるで蝋人形のように滑らかな、そして均整の取れた人間の肉体を持っていた。
だが、顔はまるで単純化された形での人間の顔のようだ。
レンズの輝く二つの目、若干盛り上がった鼻、申し訳程度の耳に、口はまるでマスクをつけているようなそんな造形。
『それ』は数歩歩み寄り、聞き覚えのある神経質そうな声でレオンハルトに語りかけた。
「久しいね、レオンハルト君。」