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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十三章-亡霊
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攻勢

「まいったね……。」


「ああ、波状攻撃とはやってくれる。」


 ミナトのつぶやきにヒュウガが答える。


 あれから二十分。敵は入れ替わりで攻撃を仕掛けてきていた。


 崖の上から、あちこちの岩陰から、川床の向こうから……退いては攻め、攻めては退きを繰り返してこちらの戦力を少しずつ削っていく敵。


 兵の直接的な損耗は少ないものの、士気が落ちているのは誰の目にも明らかだ。


「こうも敵が分散していては魔法も効果が薄い……。

 狙ってやっているとしたら、こいつらは訓練された軍だ。」


 レオンハルトは口の中でつぶやくと、『防壁』の魔法を練り上げながら、一歩前へ進み出た。


「どうするの!? レオン!!」


 背後の岩陰から、エレナの焦った声が聞こえてきた。


「コム! エレナの護衛は任せるぞ!

 俺は攻める!」


 そう叫ぶと、レオンハルトは攻撃を仕掛けてきた一群に向け、猛然と突き進む。


 魔導球(サーキットスフィア)が右の掌に輝いた。


 握りしめるように収斂。


 輝きを宿した拳が敵に叩きつけられると同時に、輝きは雷へ変わり敵を襲った。


 受けた敵は、その場に崩れ落ちるように絶命する。


 攻撃のインパクトに合わせ、魔法を直接、敵へと叩き込む。

 それが魔導闘法だ。


 レオンハルトが特に得意とするのは、稲妻を繰る『雷撃』の魔法。

 高電圧・高電流の一撃を生身で喰らえば心臓麻痺は避けられない。


 敵が一瞬怯んだ。

 それを見逃すことなく、次の敵へと踊りかかる。


 続いて蹴り足に合わせて魔導球が生み出された。

 大きく体を捩り、後ろ回し蹴りを放つ。


 この蹴りを、敵は大きく避けた……はずだった。

 だが、その脚の軌道を追いかけるように紫の炎が立ち上り、敵へと襲いかかる。

 顔面を焼け爛れさせて、のたうち回る敵。


 魔法『紫焔』は超高温の炎を発現させる魔法だ。

 通常の生物ならば、ものの数秒で大火傷を負う。


 残る敵は八人。


 だが、その場に居合わせた敵、全てが完全に及び腰となっている。

 好機と見たレオンハルトは、魔導球を一気に練り上げ、周囲に向けて爆発的な電撃の魔法『轟雷』を発動させた。


 電撃の網が周囲を包みこみ、八人の敵を一網打尽にする。


 全ての敵は黒焦げの物言わぬ死体となり、川床の一隊は全滅した。


 崖下で十人余りに包囲されているヒュウガとミナトではあったが、かかる敵はやはり及び腰なところが見られる。

 つまりは知っているのだ。

『時計塔の英雄』と『牡牛のミーナ』の通り名を。


「どうしたい!?

 雁首揃えてにらめっこかい!?」


 威圧感いっぱいのミナトの挑発が崖にこだまする。

 だが黒い鎧の兵たちは、そんな挑発を受け流し、無表情で包囲を縮めていく。


「コイツぁ何言ってもムダだな……。

 やるぞ、ミーナ。」


「合点!」


 その言葉を合図に、ミナトとヒュウガが、一気に前へと踏み込んだ。


 大斧が唸りを上げて振り上げられ、真正面の敵を捉える。

 とっさに剣で受けようとする敵。


 だがミナトの大斧は、その剣もろとも敵の身体を真っ二つに斬り裂いていた。


 ヒュウガもまた、目にも止まらぬ速さで敵を討ち倒していく。


 飛び蹴りで頭蓋を砕き、裏拳で顎を割る。

 閃く剣を躱し、背後を取って首の骨を折り、瞬く間に三人の息の根を止めた。


 それでも当のヒュウガは息一つ乱してはいない。

 彼の本気はまだまだ先なのだ。


 三人の活躍は、アルバーンの私兵たちに喝を入れたらしい。

 一時は沈み込んでいた士気も、ある程度は持ち直し、再び戦況は膠着状態にまでもつれ込んだ。


 川床の敵を討ち倒したレオンハルトと崖下の敵を全滅させたミナトとヒュウガ。

 三人が再びエレナの元に集まってきた。


「これで状況は五分……か。」


 つぶやくように口を開いたレオンハルトへ、ミナトが答える。


「敵兵の数はおよそ五十。結構な部隊だよ?

 こんな連中に心当たりある?」


「俺にはねぇな……。

 レオン、お前ぇは?」


「いや、俺にもない。

 とにかく一人でいい、捕虜を捕えよう。

 無事ならば『読心』で意識を汲み取れる。」


「その必要はありませんよ、皆さん。」


 三人の声に割り込んできた女の声。


 見上げれば、エレナが身を隠していた岩の上に太陽を背にして立つ、黒い人影があった。


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