力の在処
数回の『転移』の後、人通りもなくなった街道筋で、レオンハルトは不意にコムへと呼びかけた。
「コム。ここならいいだろう。
一回姿を見せて、ヒュウガに挨拶しておけ。」
「あ、そうでしたね。
今、姿を見せます。」
そんな声が聞こえたかと思うと、レオンハルトの顔の横辺りに、コムが遮蔽フィールドを解いて姿を現した。
その様子に少なからず驚いた様子のヒュウガを見て、ミナトからもエレナからも笑いが漏れてきた。
「なんなんだ? コイツぁ一体……。」
「僕、コムと言います。
レオン様の相棒です。」
「俺の仕事の上での相棒だ。
様々な検査器具の代わりになる機能が満載された、自律稼働の機械になる。
疑似的ではあるが人格もあるんでな。一緒にいても退屈はせんよ。」
「ああ……そういや教授の家でも見たな。
あン時は世話になった。助かったぜ。」
「いえ、それほどでも……。」
どことなくはにかんだ風の声を発するコム。
そんな様子を見たヒュウガは、またどこか驚いた表情を見せた。
「慣れてくると、結構かわいいんだよ、この子。
ちゃんとしたお話もできるし、相談相手にもなってくれるから、あんまり『機械だ』なんていう偏見は持たない方がいいよ?」
ミナトはニコニコ顔でヒュウガに語りかける。
ヒュウガは少し何かを考え、改めてコムに質問した。
「なあ、お前ぇさん何ができる?」
「いえ、検査や探査機能は一通り充実してますが……。」
「いや、そうじゃねぇ。戦闘用の機能さ。
この間見せたのは、防御用の障壁だったな。
他にはどうだい?」
「大したことはできませんよ?
相手を電撃で一時的に戦闘不能にしたり、目くらましの閃光を発したりするぐらいです。」
「ナルホドね……。」
ヒュウガはさらに考えこみ、ややあって再び口を開いた。
「あと、レオンの義手をどうにかした……ありゃぁ、なんだ?」
「あれはこいつが義手のセーフティシステムだからだ。
客観的に見て、状況が危険、もしくは大きい問題があると判断された場合のみ、俺の左手に埋め込まれている『回路』を起動させられる形になっている。」
コムの代わりにレオンハルトが答えた。
その答えに納得がいかないような表情を見せ、ヒュウガがまた疑問を口にする。
「そんな判断を、お前ぇが他人任せにしてるってのは信じられんな。
以前なら、手前ぇの力は全て手前ぇが制御する雰囲気だったぜ?」
「そうしたいのは山々なんだが、なにせこの義手はブラックボックスの塊だ。
この二年でようやく基本機能をコピーした複製品を作るところまできたんだ。
この『回路』の解析はこれから始める形になる。」
「フ……ン?
ま、それがお前ぇの方針なら文句は言わんが、あの力はできるだけ制御下に置いておいた方がいいぜ?
イザって時に『使えません!』は致命傷だ。」
ヒュウガはそれだけ言うと、コムへと鋭い視線を流した。
コムはその視線を受けて、若干後ずさるような動きを見せる。
それを見たレオンハルトは、重い表情でヒュウガの言葉に一言だけ答えた。
「そうだな、その通りだ。」