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7.ランクアップ

「樫かよ!ちょっとそれはねえんじゃないの?俺は這竜を討伐したんだぜ?金とは言わないけどせめて銀には上がれるんじゃないのか?」


 オザドの言葉を聞いたエヴァンは呆れたように天井を見上げた。


 冒険者は大きく分けて下位、中位、高位のクラスに分かれており、エヴァンが提示された樫級は下位冒険者の中で最上級ランクになる。


 下位冒険者のランクは全て植物に関係した名前が付けられていて認定証(ライセンス)が鉄でできているため、冒険者の間で鉄や草は下位冒険者に対する蔑称になっていた。


 中位になるとランクの名前が動物で認定証(ライセンス)は銀製に、高位冒険者は魔物の名前で認定証(ライセンス)が金になる。


「た、確かに這竜の討伐難易度は高位に指定されています。しかしギルド連合の規約によってそのクラス内で上級ランクにならなくては次のクラスへ上がることが許されていないのです。誠に申し上げにくいのですが今までのエヴァン様は下位の中でも最下級の麦束級でしたので…」


 オザドが汗をぬぐいながら申し訳なさそうに首を垂れる。


「…しょうがないな。ランクを上げていかないと実入りの良い依頼を受けることができないんで早いとこランクアップしたかったんだけど、ここでごねてもしょうがないもんな」


 エヴァンは肩をすくめて納得するとシャツに縫い付けていた麦束級の認定証(ライセンス)を引きちぎってオザドに渡し、代わりに樫級の認定証(ライセンス)を受け取った。


「で、では納得していただけたということで、報酬の方へと入らせていただきます」


 安堵のため息と共にオザドが羊皮紙を取り出した。


 他の冒険者たちの視線が一斉にエヴァンの背中に注がれる。


 魔物討伐の報酬授与、それはこの酒場で最も盛り上がるイベントなのだ。


「まず、竜骨のダンジョン攻略とボス討伐、この報酬が大金貨2枚となります」


 おお~、と静かなどよめきが沸き起こる。


 大金貨2枚は大人1人が数か月は遊んで暮らせる額だ。


 満足そうに頷くエヴァンを見てオザドは申し訳なさそうに額の汗を拭くと話を続けた。


「それでですね…またも申し上げにくいのですが…這竜に関してはまだ討伐依頼が出ていなかったので報酬はないのです」


 再び酒場の中にどよめきが起こったが今回は落胆と失望が入り混じっている。


「ま、仕方ないわな」


 分かってはいたがそれでも残念だ、と言うようにエヴァンは肩を落として口をしかめた。


 それを見たオザドが不意に口元を緩める。


「しかしながらエヴァン様が持ち帰ってきた這竜の魔核に関しては規定に基づき当ギルドで買い取ることもできます。価格は…」


 そこでオザドが一息入れる。


「大金貨8枚です」


 うおおおおおおっ!!!!


 それを聞いて酒場全体が喝采に包まれた。


「大金貨8枚といえば2年は遊んで暮らせる額じゃねえか!」


「このギルド始まって以来の高額報酬なんじゃねえのか!?」


「畜生!やるじゃねえか!エヴァン!」


 酒場の中を口笛や歓声が埋め尽くす。


 それが落ちつくのを待ってオザドが話を続けた。


「それでは支払いはいかがいたしましょうか?今すぐ入用でなく安全に保管したいのであれば手形にすることもできますが?」


「いや、今すぐ全額払ってくれ。それも小金貨以下の貨幣で頼む」


「かしこまりました。それでは少々お待ちください」


 オザドは一礼して奥へと引っ込み、ずっしりと重たげな革袋を手に戻ってきた。


「それではお確かめください。細かくなって申し訳ありませんがギルドの金庫をひっくり返して集めざるを得なかったもので」


 エヴァンはテーブルの上に広げた無数の貨幣を確認すると羊皮紙で出来た領収書にサインを記し、オザドの行う認証魔法に合わせて血判を押した。


 血判がエヴァンに呼応して淡い光を放つ。


 これでエヴァンが間違いなく報酬を受け取ったと魔法によって保証された。


 全ての手続きが終わるとエヴァンは革袋から数枚の金貨を掴み取ると酒場のカウンターに放り投げた。


「今日はお祝いだ!みんなこれで好きなもんを頼んでくれ!」


 酒場の中が再び喝采に包まれる。


「やったぜ!流石はエヴァン!いや、エヴァンの大将!」


「おい!酒だ!ありったけの酒を持ってこい!」


「食い物もだ!今夜はエヴァンの大将の奢りでとことんやるぞ!」


 エヴァンを讃える言葉と酒や料理の注文が混ざり合って混沌となった酒場の中、当のエヴァンはというと浮かれる冒険者たちの間を縫って呆然と成り行きを見守っていたザックロンの前に立っていた。


「な、何の用だ」


 ザックロンはエヴァンを見てきまり悪そうにそっぽを向く。


「いや、よく考えてみたらお前さんの言い分にも一理あると思ってな。申し訳ないがこの剣をやることはできないんだが、今回の報酬を分かち合うことはできると思うんだ。だから何も言わずに受け取ってくれないか」


 エヴァンはその手を半ば強引に取ると一掴みの貨幣を取り出して握らせた。


「少しで申し訳ないがほんの気持ちだと思ってくれ」


「エヴァン…」


 ザックロンは言葉を詰まらせてエヴァンを見つめた。




「やるじゃねえかエヴァン!見直したぜ!」


「大した度量じゃねえか!なあそうだろ!?」


「みんな!我らが英雄エヴァンに乾杯だ!」


「エヴァン!」「エヴァン!」「エヴァン!」



 酒場の中がエヴァンコールに包まれる。


 エヴァンは歓声を手で制しながらにこやかに笑いかけた。


「まあまあ、今日はもう疲れたから俺は一足先に休ませてもらうぜ。あとはみんな楽しくやってくれ。メフィストフェレス、そろそろ俺たちは帰るぞ」


「え~~、あたしはまだ全然元気なんだけど」


 先ほどから一心不乱に飲み続けていたというのにメフィストフェレスはまだまだ足りないと言いたげに口を尖らせる。



「まあまあ、そう言わずにお(いとま)するぞ。ほら立った立った」


 そんなメフィストフェレスを引っ張るようにしてエヴァンはギルドを後にした。


 外はすっかり日が落ちていた。



「なあ、やっぱり戻らないか?せっかく盛り上がってるんだしさあ」


 尚も未練タラタラなメフィストフェレスだったが、エヴァンはその手首をがっしりと掴みながら小声で耳打ちした。


「馬鹿、何言ってるんだ。さっさと逃げるぞ!」


冒険者のランク

・下位冒険者

麦束級

小麦級

大麦級

柳級

杉級

樫級


・中位冒険者

小鶏級

軍鶏級

猟犬級

狼級

銀狼級

獅子級


・上位冒険者

小鬼オーク

大鬼オーガ

巨鬼トロル

巨獣ベヒモス

ドラゴン

魔人デモリアン


お金について

大金貨:小銀貨10枚と同価値

小金貨:大銀貨10枚と同価値

大銀貨:小銀貨10枚と同価値

小銀貨:大銅貨10枚と同価値

大銅貨:小銅貨10枚と同価値

小銅貨:最小通貨


【読者の皆様】

いつも読んでいただきありがとうございます!


「面白い」「もっと読んでみたい」と思われたら是非とも広告の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へとお願いします!


モチベーションアップにつながりますので何卒よろしくお願いします!


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