二人の神子7
「ダメだ……この街にも教会があるはずなのに全然情報がないよ……」
日が傾き沈みかけた頃ブランがそう言って部屋に戻ってくる。みんなの服のほつれを直していたノエルは今日の情報集めを全てブランに任せていた。
「教会……」
「確かに広い街だからなかなか見つけるのも時間かかるかなって思ったけど……全然情報がないとは思わなかった……ノエルちゃんは知らない?」
「教会……っぽいのどっかで見た気がする……」
「ほんと!?」
ブランが顔を上げてノエルに近寄る。ノエルは必死に思い出そうと、この街を歩いてた時のことを考え始める。時計塔に行ってオルロージュやカルタと出会って話をした。その前に時計塔に入ってみた景色……は、思い出した。時計塔の下に教会があった事を。
「時計塔の下に……教会があったよ。誰もいなかったけど」
「そっか、明日行ってみようか。たまたまその日だけ居なかったのかもしれないし」
ブランはどこか嬉しそうにベッドの縁へ腰掛けた。アレンとダグラスとマイラが帰ってきて、夕飯を食べながら時計塔にある教会の話をした。アレンはそれならもうすぐこの街を出れるなと笑っていてマイラは次の街で会う精霊に想いを馳せた。ダグラスは翌日の巡礼の護衛を担当することになった。
小鳥のさえずりが聞こえ、日が昇り、朝が来る。ノエルは部屋の窓を開けて換気をすると、パタパタと白い鳩が飛んでいって、カルタのことをぼんやり思い出していた。
「おはよう、ノエル。起きてたか」
「うん、おはようアレン」
アレンがコーヒーを飲みながら部屋に戻ってくる。少し談笑をするとダグラスが起き上がってきて
「はい!俺肉が食べたい!……ん……はっ!?夢?!」
「おはようダグラス、さっき厨房の前歩いたけど、ベーコンの焼ける良い匂いがしたぞ」
「お、おはよ。ホントか!?」
ダグラスは寝言に少し恥ずかしがりながらもベーコンの話題に食いついた。
「もーダグラスうるさいよー」
「ふふ、ダグラスの声はよく通るね」
マイラとブランも起き上がってくる。ノエル達は服に袖を通し、身支度を整えて朝食を食べ始めた。
「ベーコン!ベーコン!俺のベーコン」
ダグラスは適当に歌いながら真っ先にベーコンに齧り付く。その様子を見てアレンとブランが笑った。
「コーヒー吹きそうになった……なんだその歌」
「今俺が作った歌」
「いや、それはわかってる」
そんなやりとりを見ながらノエルは白いパンにバターを塗って黙々と食べていた。白いパンはふわふわしてて美味しいな、でも硬いパンも好きだななんてことを考えていた。
「じゃあ今日は俺が買い出し、マイラが情報収集、ノエルとブランは巡礼で、ダグラスは神子の護衛な」
朝食を食べ終えたアレンが今日の予定を話した。四人が頷き、各々の予定してる場所へ向かう。
「大きな時計塔だよなぁ……近くで見るとめちゃくちゃでけぇ」
「そうだね。ぼくも時計塔は気になってたけど来るのは初めて……入るよ」
扉に手をかけて開けると、ノエルが以前見た、誰もいない風景と全く同じな人気のない教会があった。
「留守か?」
「前も人がいなかったよ」
「神父様がいないなんて不思議……というか誰もいないのに勝手に始めるのもアレだし……すみませーん、誰かいませんか?」
ブランが人を探し始めた。ダグラスとノエルも人を探し始めるが不気味なくらい人気が感じられず物は綺麗に清掃されていて三人共違和感を感じた。
「ノエルちゃんは前にも時計塔来たんだよね?他に何かあった?」
「うん……あ、いるかもしれないから呼んでくる!待ってて」
ノエルは奥の階段を上り前にオルロージュと出会った場所まで行き
「オルロージュ!いる?」
「あら、この声はノエルちゃん?どうかしたかしら?」
天井の方からオルロージュがゆっくり降りてくる。
「祈りの儀をしたいんだけど、誰もいなくて……」
「あぁ、そういうことね!ここの塔は私が管理してるから私が担当するわね」
ノエルはオルロージュを連れてブランとダグラスの元に戻った。
「まぁ、貴方がもう一人の神子のブランくんね!それとダグラスくんであってたかしら?」
「よろしくお願いします」
「お前がノエルの言ってた奴か?まぁいいや始めようぜ」
オルロージュはノエルとブランを連れて教会の奥に行くと彼女はベルを取り出し鳴らした。
「我、祈りの儀を神に捧げる」
リンとベルの音が響き渡り祈りの儀を終えて
「三人ともお疲れ様!よかったら上でお茶して行かない?もうすぐこの街を出るでしょう?」
「いいね!俺、喉渇いてたんだよな」
「ご迷惑でなければ、お邪魔します」
四人は長い階段を上っていく。ダグラスは途中で疲れたのかまだかよ……と何度か言っていた。広い空間まで上りダグラスが伸びていると、カルタが人数分のお茶とスコーンを持ってきた。
「美味しい……!」
「だろ?俺は茶を淹れるのが得意なんだ」
「おーアレンのと同じくらいうめーな」
ダグラスが悪気なく言うとカルタは少しむくれてから
「俺、仕事行くから……じゃあな」
カルタは鳩になって塔の外へ飛んで行った。オルロージュは湖の乙女のいる街について色々と話をした。
「あらもうこんな時間!皆も聞いててね」
オルロージュは上へ昇り昼の時間の鐘を鳴らし始めた。鐘と鐘の音が重なり合い綺麗なハーモニーになって街中に鳴り響く。大きな鐘が起こす振動に三人は感動をしていた。
「どう?素敵だったでしょう?」
「すげーよかった!」
「綺麗ですね」
「心がスッとした……」
オルロージュが降りてきてにっこり笑った。ブランはハッとした様子で口を開く。
「そういえばこの街に来てから、悪魔や死神に出会ってないのはどうしてかわかりますか?」
「あら、良い質問ね。私はこの街の時計塔と契約をして結界の役割も持ってるの。朝と昼に鳴らす鐘にも浄化の効果があるわ」
「だから夜は危ないって言ったの?」
「そうね、だいたいそんな感じよ。まぁ今更悪魔達も寄ってこないけど」
「へぇーすげぇな、精霊って」
「じゃあ、そんな精霊を使役してるマイラもすごいね」
「えぇ、精霊は自分が認めた相手としか契約しないから仲間にするのは大変だけどね」
四人が談笑をしているうちに日は赤くなり
「あらあら、もうこんな時間ね惜しいけどまた会った時にお話ししましょう」
「うん、またね、オルロージュ」
「ありがとうございました!」
「おう、鳩のガキにもよろしく言っといてくれよな」
三人は宿に帰るとアレンとマイラは既に着いていて、オルロージュと鐘の話や次に行く街について話をしながら、夕飯を食べた。湖の乙女と呼ばれる精霊は一体どんな精霊なのか、マイラは心を躍らせ興奮して少し眠れない夜を過ごした。