二人の神子5
時計塔からお昼の鐘が鳴り響く頃、ノエル達は街に着いた。街の食堂で昼食を食べ、宿に向かった。宿は少し早めのチェックインを快く受け入れ、客室に通されるとダグラスがベッドにダイブした。
「疲れたー!今日はもう動けねぇ!寝る!」
「まぁ今日は疲れただろうし自由時間ってことにするか!俺は人の集まりが良い場所を探してくる」
アレンは荷物を降ろしして整理しながら言った。
「あたしも精霊の情報集めてくる!」
マイラはパタパタと駆けるように部屋を飛び出していった。よくまだ元気あるな……なんてアレンは苦笑した。
「いってらっしゃい、ぼくは休もうかな。ノエルちゃんは?」
「街を見て回りたいかな……」
「そっか、気をつけてね。体調少しでも悪いと思ったらすぐ帰ってきてね」
「もうそんなに心配しなくて大丈夫だよ」
「でも……」
ノエルはブランの手を優しく握り、大丈夫と安心させるように言った。
「うん、わかった。いってらっしゃい」
ブランは笑顔でノエルを送り出した。
ノエルが街を見て回る。市場は前の街より活気が溢れていてノエルの心が少し踊った。すると街に向かっていた頃から見えた大きな時計塔に辿り着いた。中に入ると綺麗なステンドグラスが目についた。どうやら教会のようだが人は誰もいなかった。奥に進むと、大きな螺旋階段があった。
「塔の上にいけるのかな……?」
ノエルは興味本位で階段を登っていく。階段が凄く長く、自分が今どこにいるのかを完全に忘れかけた頃、上の方に光が差し込んでいるのが見えた。ゆっくりと登り、着いたのは広い空間。古い建物なのか歩くと床がミシッと音がする。
「誰かいるの?」
上の方から女性の声がした。ノエルはびっくりして慌てて
「あっ、勝手に入ってごめんなさい……えっと……」
すると、上から髪を大きな三つ編みで結った女性が降りてきた。女性はゆっくり着地すると、ノエルの目を見てにっこり笑った。
「私はオルロージュ、この塔の管理人よ。貴方は?」
「わたしはノエル……神子のノエル」
「まぁ、貴方がノエルちゃん?この前死神と対峙して生還した……?」
「なんで、その事を知ってるの?」
ノエルはどこか安心感があり、全てを見透かすような瞳のオルロージュの言葉に素直に話していく。
「ふふ、私ね、時間の精霊なのよ。それでこの塔に集まってくる鳥さんや他の動物さん達がいろんな外の話を教えてくれるの。ねぇ、ノエルちゃんのチームはどんな人達がいるの?」
ノエルは今までの旅の話や自分のチームの話を少しずつオルロージュに話していく。オルロージュはにこやかに頷いて話を聞いていた。
「まぁ!素敵な人達なのね!あら、私ったらお客様にお茶も出さずに……ごめんなさいね」
「そんな、気を遣わなくても……大丈夫」
「久々に人と話すしお茶を飲んでもう少しお話を聞かせてほしいわ!カルタ!お茶を用意して頂戴」
しばらくするとふわふわな髪の毛の少年がお茶とクッキーを持ってくる。
「俺はカルタ。この塔に居候させてもらってる。これでも紅茶を淹れるのには自信があるんだ」
カルタはドヤ顔で紅茶を差し出す。ノエルは紅茶を飲んで
「美味しい……!アレンの紅茶も美味しいけどカルタ、さんのも美味しい」
カルタは自分が一番と言われなかった事が不服だったのかすこし黙ってから
「カルタでいい、オルロージュより俺の方が歳近いだろうし」
「じゃあ、わたしはノエルでいいよ。カルタはずっと此処に住んでるの?」
「あぁ、ガキん時に親とはぐれて此処に辿り着いた時からオルロージュと暮らしてる」
「ふふ、あの頃は素直でとっても可愛かったのに今は思春期?かしらね。そんなカルタも可愛いけど」
「オルロージュは喋りすぎ!少し黙っててよ!もう、俺仕事に戻るからね!」
顔を真っ赤にしたカルタが身のこなし軽やかに塔の上の方に登って行った。
「オルロージュさんは此処から出てないなら、いつもどんなことしてるの?」
「私?そうねぇ……朝と昼に鐘を鳴らして、後は街の人に頼まれた物を直したりする事をしてるわ。わたしは触った物の時間を動かせるの……といっても未来には動かせないんだけどね」
「すごい……どんな物でも直せるの?」
「全部じゃないわ。無機物だけよ……もっと力の強い精霊だったら植物とかも動かせたり未来に動かせたりできたのかもしれないけど」
オルロージュは少し悲しそうに笑う。
「……そういえば、マイラが精霊使いなんだけど、オルロージュさんは契約できる……?」
「できないわ。私はこの時計塔と契約を結んでるもの……でもノエルちゃんの力にはなりたいわ……契約できる精霊……ねぇ……うーん、そうだわ!街の西の街道を進んで一番近い街に、湖の乙女って名乗ってる精霊がいたわね。あの子とも随分話してないけど、どうかしら?」
「ありがとう……マイラに教えたら喜んでくれると思う」
カラスが塔に入ってきて鳴いた。
「あら、もうこんな時間!この街は夜の人通りが少なくて危ないから、女の子1人で歩か せるわけにもいかないわ。お話の続きはまた今度にしましょう!日が暮れる前にお帰り」
オルロージュは夕暮れを見て笑顔でノエルを見送った。宿に着いたノエルは皆と合流し夕飯を食べていた。
「マイラ、街の西の街道から一番近い街にね、湖の乙女って呼ばれてる精霊がいるんだって」
「……!ホント?!あたしがどれだけ探してても全然情報が手に入らなかったのにどうして知ってるの?」
「今日、精霊さんと会ってお話したの」
「いいなぁ……そうだ、次の街そこに行ってもいい?精霊使いなのに契約してる精霊が一人しかいないのやっぱ不便だし」
「俺は別に構わないぜ?」
「ぼくも大丈夫……むしろ今は戦力をつけないとダメだと思うから、チャンスが少しでもあるなら行きたい」
夕飯を食べ終え部屋に戻ると窓から白い鳩が入ってきた……と思ったら、鳩が人間の姿に変わった。ノエルは見覚えのある姿に驚いていた。そこに立っていたのは昼間に会ったカルタだった。
「カルタ……?」
「なんだお前ら知り合いなのか?」
「うん、ちょっとね……」
「俺の職業は郵便配達人!どんなとこでも手紙を届けるぜ!ってことで神子様のノエルとブランさんにお手紙だ。大事な書類だから失くすなよ」
そう言ってカルタは窓から飛び降り鳩の姿になって闇夜に消えて行った。
「あれが噂の異界まで配達できるポストマンか」
アレンはどこか感心した様子でカルタの姿を追っていた。
「なぁ、手紙にはなんて書かれてんだ?」
ブランとノエルが手紙を開けると
「第一回神子集会。正装を着て異界の門を潜った先の施設が集合場所……だって」
「異界の門って鏡の中に入るやつだよね……?」
「そうだな。鏡は異界と繋がってるからな。俺達も孤児院の鏡からこっちの世界に来たわけだし……ちなみに日時は?」
「明日、だって」
「めっちゃ急じゃん……」
「急ぎの話があるのかも……?」
「じゃあ今日は早めに休んで明日に備えないとな」
その日の就寝は皆疲れているのもあってか、すぐに寝付いた。神子集会という言葉に緊張していたブラン以外は。