二人の神子2
朝日が昇り部屋に陽の光が差し込み、眩しさにノエルは目を覚ます。大きな欠伸をして、腕を思い切り伸ばすがほんのり瞼は重い。
先に起きていたアレンとダグラスがノエルに気づく
「おはようノエル」
「うん、おはよう」
「うわ、アレンハモんなよ!」
二人は声を揃えて、ノエルに声をかける。ノエルはいつも通り無機質に返事を返す。ダグラスはアレンと声をかけるタイミングが、被ったのが気に入らない様子で少しむくれていた。アレンが別にそのくらいいいじゃないかとなだめる。まだ眠そうなノエルの様子を見たアレンが口を開く。
「眠気覚ましにコーヒーはどうだ?ダグラスも飲むか?」
うん、もらってもいい?」
「あぁ、構わない」
「砂糖入れろよな!」
「ダグラスは舌がお子様だな。わかった淹れてくるよ」
「うるせー」
ダグラスは少し不機嫌そうに腕を組んだ。アレンはコーヒーを三人分持ってきた。口の中に広がる苦味が頭を刺激するような感覚になり徐々に目が冴えてくる。コーヒーの匂いが部屋中に漂い、匂いにつられてかマイラとブランも起きる。ブランのお腹が鳴る音が部屋に響いた。ブランは少し恥ずかしそうにはにかんだ。
「もうすぐ、宿の朝食の時間だ。支度はじめるか!作らなくていいのは楽で助かるな〜」
「そうだね、でもぼくはアレンの作るご飯美味しくて大好きだよ」
五人は身支度を終えて食堂へ向かった。パンとバターの香りが充満すると食欲を刺激された。ふわふわな白いパン、ソーセージと野菜のスープが並んでいる。
「いただきます」
かなり空腹だったのか誰一人喋らず黙々とご飯を食べていく。ふわふわなパンはノエルの好物だ。よく噛んで味わった。ある程度食べると余裕が出てきたのかアレンが口を開く。
「今日の予定は俺とダグラスがまた街で稼いでその後買い出し……ブランが次の巡礼の地の情報集めだっけ?マイラとノエルはどうする?」
「あー、あたしは契約できそうな精霊がどの辺にいるか調べたいんだけどいい?」
「戦力が上がるのはいいことだ!じゃあマイラも情報集めだな」
「わたし…アレンとダグラスに着いていきたい……ダメ?」
「構わないよ。じゃあノエルにも買い物の荷物運び手伝ってもらおうかな。そろそろこの街を出るから色々揃えたいものがあるし」
「ありがとう」
「ノエルがいた方が華があるもんな〜俺とアレンだけじゃむさ苦しいって」
ダグラスはパンを飲み込んで言った。アレンとダグラスは先に食べ終え部屋に戻った。次にマイラが食べ終え、ブランとノエルも追うように食べ終えた。三人が部屋に戻るとアレンが大道芸用の道具を整備していた。
「これを使うの?」
「あぁ、これはダグラスが犬になって潜る輪だな」
「だーかーら!!犬じゃなくて狼だって言ってんだろ?」
「はいはい」
「適当に流すな!!」
そんなやりとりを遮るようにブランが部屋を出ようとした。
「じゃあ、ぼくは先に行くね」
「あっ、あたしも」
ブランとマイラが先に部屋を出ていく。しばらくして大道芸の道具の整備を終えてノエルとアレンとダグラスは街に向かった。
狼の姿になったダグラスとアレンはかなり注目を浴びた。三人は街を歩いていく。そういえばこの街をちゃんと歩くのは初めてだな、とノエルは思いながら大きな噴水広場に三人は着いた。道具を取り出しやすいように整え大道芸が始まる。
「えー、レディースアンドジェントルメンこれから世にも不思議な大道芸をやりますよー!見なかったら損しちゃう!そこのお嬢さん方も見ていくだけでいいから!ほーらかわいいワンちゃんも頑張っちゃうよ!」
「ワフッワン!」
アレンの必死なアピールで数人集まるとアレンはノエルにアイコンタクトをした。ノエルは事前の打ち合わせ通りにシルクハットをアレンに渡す。
「ここにタネも仕掛けもない普通の帽子が……よっと!」
アレンはシルクハットをくるりと回し観客に中身を見せてからポンと帽子をステッキで叩き大量の白い鳩が飛び出てきた。歓声があがりそれにつられて観客は増えていく。それからいろんな手品を披露した後、アレンはノエルに再度アイコンタクトを取り、ノエルは輪を設置する。アレンが指を鳴らすと輪に火が燃え上がり観客は驚きの声をあげた。
「ここでうちの可愛いワンちゃんダグラスくんが火の輪をくぐってくれます!みんなで三からカウントダウンしましょう!」
観客とアレンが声を合わせて三からカウントダウンをする
「ゼロ!!!」
ダグラスが助走をつけて走り火の輪をくぐると観客からの拍手が鳴りやまないくらい盛り上がっている様子を見て、ノエルは達成感を感じた。胸が高鳴り少し頰が緩む。シルクハットの中に次々とお金が入っていく
「ありがとうございました!」
アレンとノエルは片付けをした、ダグラスは人気のない裏路地で人間の姿に戻ってから、二人に合流した。
ノエルとアレンとダグラスの三人は市場を歩いていた。日用品を買い食材を買おうとした時ダグラスは何かの匂いを感じ止まった。
「ダグラス?どうした?」
「悪魔の匂いがする……あっちの建物の方!」
嗅覚の良いダグラスは悪魔の気配を匂いで感じ取れる。今までの旅もダグラスが嗅ぎつけて退治することのが多かった。三人は走ってダグラスが指した方向に向かった。
そこには人気はなく複数の悪魔が歩いたり飛んでいたりした。
アレンは武器を取り出し、ダグラスは耳と尻尾と鋭い爪を出した獣人に変化した。ノエルも右手を鎌に変えて飛び立つ。
「空中のは任せて」
ノエルは悪魔を追いかけていく、ノエルの大きめな翼のおかげで悪魔に追いつき切り裂いていく。アレンが火の魔術を使って悪魔の周囲を囲い、炎の球を当てていく。ダグラスが火に囲まれた中に入り爪で切り裂き噛みちぎる。炎に囲まれた悪魔達がたくさんの黒い粒子となり散っていく。ノエルも最後の悪魔を倒し降りてくる。
「二人共怪我はないか?」
「わたしは大丈夫だけど……」
「軽く腕を火傷したけど大丈夫だろ」
「よくねぇわ、ちょっと見せろ」
アレンはダグラスの袖をまくり魔術で冷たい水を付着させた。
「しばらくこれで冷やしてろ」
ダグラスはめんどくさそうな顔をした直後、大きな何かが飛び立つ音と悪魔に近い匂いを感じた。
「まだ残って……?いや、これは悪魔の匂いじゃない……なんだ?もっと強力な……死神か?」
「マジかよ……」
「死神が悪魔を使役してたのかな……だったらこの街にいる死神を倒さないとまた湧いてくるね……」
「じゃあもうしばらくこの街に滞在だな……食料品買わなくてよかった」
「もう日も暮れそうだしブランとマイラとも合流して話さないとだな」
「だな」
三人は市場で買った荷物を抱えて宿に戻る。ブランもマイラも先に宿に戻っていたようで今日の出来事を二人に話した。
「そっか、死神か……まだ対治したことないけど神と同じくらい強いんだよね……?死神と戦って死んだ神子もいるらしいし……大丈夫かな」
「しけたツラしてんじゃねぇよ、お前は孤児院一の優秀な神子なのは俺達が保証するし俺達は最強のチームだ、絶対に倒す」
不安げなブランにダグラスが肩を叩いて元気付ける。ブランは少し顔を緩めてそうだね、と呟いた。そんなくらい空気に耐えられなかったのか、マイラが口を開く。
「もうすぐ夕飯の時間だね!あたしお腹すいたよー!」
「じゃあ食堂に行くか」
「うん」
五人は荷物を少し整理して食堂へ向かった。ノエルはダグラスが死神の気配を察知してからなんとも言えない不安感と頭痛が襲っていた。
本当に、大丈夫かな……?嫌な予感がしたがみんなに心配かけまいと数歩遅れて四人の後を付いていった。