プロローグ
この世には真の神がいる。神という種族が八百万いる。
神は見ている、わたしたちの行いを。
そしてわたしたちは次世代の神を目指す。神を目指す権利を与えられたものを神子と呼び、巡礼の旅をさせ神が次の神を決めるのだ。
いろんな思いを持った少年少女が神を目指す中、わたしは……?
葉の隙間から差す朝日の眩しさに、少女は眼を覚ました。澄んだ空気を胸いっぱいに取り込んで、深呼吸をする。数回深呼吸を繰り返し少女は覚醒した。何処からか食欲をそそる香りがふわっと漂い、空腹になった少女を刺激した。食事当番はアレンだったな……彼の作る料理はとても美味しい……と考えるうちに、食事場所に向かう少女は自然と足早になっていた。
「おはよう、ノエル」
匂いのする元まで行くとアレンとダグラスがいた。簡易テーブルの上には5人分のオムレツが置いてあった。携帯コンロを使ってスープをアレンはコトコト煮込んでいる。ダグラスは椅子に座って欠伸をしている。
「おはよう」
笑顔のアレンに無表情で挨拶を返す。すると、空腹に耐えかねたのかダグラスが口を開いた。
「飯まだー?」
「もうすぐできるからみんなの食器を並べてくれ」
「えぇーめんどくさ」
「食べたかったら手伝えよ、じゃねぇとお前飯抜きな」
ダグラスはぶつぶつ文句を言いながら人数分の食器を並べ始め食事の支度が進んでいく。そうしている間に少女が伸びをしながらテーブルに向かってきた。
「おはよう、マイラ」
アレンがマイラに気づいて挨拶をする。
「あぁ、おはよ。やっぱり宿は取るべきだね。野宿は腰が痛いや……」
「山の麓まで辿り着けなかったんだから仕方ないじゃんかー俺だってベッドで寝たかったわ」
「ダグラスは犬の姿になって寝てたんだから1番楽だったじゃない!」
「犬じゃねぇ!狼だ!!」
腰をトントン叩きながらマイラがダグラスと色々言い合っている。
ノエルがお皿の数と今テーブル付近にいる人数が合わない事に気づく。いつも食事の支度を手伝う彼がいないことに気づいたノエルはアレンに尋ねた。
「ねぇ、ブランは?」
「さぁ?もうすぐ飯だし探してきてくれないか?」
「それは、別に構わないけど……」
「じゃあよろしく〜」
そう言うとアレンは食事の支度に戻っていってしまった。
ブランはノエルと同じ神子の子。人当たりがよくて成績も優秀、孤児院で1番期待されていた神の候補。それくらいしかノエルは知らなかった。1人で考えながら歩いていると、歩いていると、見晴らしの良い崖に1人の少年が佇んでいた。彼がブランだ。
ブランの綺麗な銀髪が風になびき、陽の光が当たっているのが美しくノエルは少し見惚れていた。
ブランはノエルに気がついた様で手を振って手招きをする。
「ここ、街が綺麗に見えるよ!見てごらん?」
ブランの視線を追うと綺麗な街が広がっていた。
「こんなに大きな街始めて見た……」
「ぼく、この景色気に入ったんだー……そういえばノエルちゃん急に神子候補になって大変じゃない……?」
「……うーん、大変とかは……あんまり思ったことない……それが使命だから」
そうノエルが答えるとブランが少し考え込む。
「悪魔や死神の討伐で命を落とすのも怖くない?」
「それが使命だから、別に……それに、記憶取り戻せるかもしれないし」
「そっか、記憶ないんだもんね…ノエルちゃんは強いなぁ。ぼくはちょっと怖い」
ノエルはブランが言った言葉に少し困惑して思わず聞き返した。
「……怖い?どうして」
「巡礼に失敗した神子、選ばれなかった神子がどうなるか誰も知らないでしょ?だから真っ暗で怖いなって」
ノエルはブランの言ってる言葉が理解できなかった。困った顔をしているとブランが何かを思い出した顔をして言った。
「そういえばぼくを探しに来るの珍しいよね?何か用?」
「あ、ご飯だからブランを呼んできてって……」
「そっか、ありがとう!じゃあ急いで行かなきゃね!今日は山を降りないといけないから体力つけないと!」
ノエルとブランはみんなが集まったキャンプ地へ向かう。ブランはどこか嬉しそうにわたしに歩幅を合わせてくれた。
そんな彼女達を覗き見る人影がいた事に今は誰も気付いていなかったのだ。