学校
「「すみませんでした」」
「もう遅れるなよー」
コーヒーの香り漂う、涼しい職員室から出た俺と詰田は、真っ先に愚痴がこぼれた。
「全く、なんで私まで怒られるのよ。そもそも私は、たまたま先生に用があって話しかけただけだってのに。ついでだの何だの言って進路希望書を集めさせて......人使いが荒いのよあのクソゴリラ」
「そうだな」
「アンタが出してれば丸く収まったってのに」
「ごめん」
確かに俺が悪かった。
昨日、詰田に言われたというのに。結局俺は、進路希望の紙を提出しなかったのだ。もちろんわざとでは無い。単に忘れていただけだ。
「ま、まぁ分かればいいのよ。次からはちゃんと気を付けなさいよね」
「おう」
こういう時は、素直に謝っておいた方がいい。
なぜなら俺が悪いからな。自分が悪い時は、ちゃんと謝ることが大切だ。
「......やけに素直ね」
「まぁな」
「ん......何ニヤニヤしてんのよ」
おっと、ニヤニヤしてしまっていたか......気を付けないとな。
いつもならそこそこ反抗して来る俺が、今日は普通に謝って来たことに詰田が同様している様を楽しんでいたのだが。
自分が何かやらかしてしまったかと思っているのか、顔を赤らめる詰田。相変わらず面白い反応をしてくれる。
「なんか、うざいッ!」
そう言って、一人で先に行ってしまった。
廊下だから走ることはせず、早歩きで行くという妙に律儀なのが可愛いところだ。
だが、すぐに怒ってしまう所は玉に瑕。顔は可愛いんだがな......。
そうだ、律儀と言えば。
今日はロメリアに部屋の鍵を渡したんだったな。得体の知れない人に、部屋の鍵を渡すなど何事だ!と言う人もいるかもしれないが、俺は別に構わなかった。
それよりも、学校に行っている間に買い物に行っていて貰う方が嬉しいのだ。
一応一通り教えているし、買い物を済ませたら自由にしていいと言った。ただ、鍵だけは無くすなと念を押して置いたから、無くすことだけはしないだろう。
しかし心配ではある。出来れば俺も一緒について行ってやりたかったが......そう言っていられるほど余裕がある訳では無い。
これもロメリアの為だと思い、割り切った。
──────────
今日の晩御飯は「肉じゃが」というものです。
肉と「じゃがいも」という「いも類」の食材を使うそうです。やはり、この世界の料理は想像もつきません。
そんな事を思いながら、私は近くのスーパーへと向かっています。
私が初めて出会った、この世界の人族であるスミト様は、とても良い人です。
こうして買い物に行く前も、スミト様はとても心配してくださりました。
「本当に大丈夫?」「俺も着いて行くよ」と。
しかし、私はお断りさせていただきました。
先日もお飲み物をこぼしてしまった事ですし、これ以上スミト様にご迷惑をおかけするわけにはいきません。
お買い物くらい、自分一人で出来るようにならないと。
「あっ」
家を出てしばらくしてから気付きました。
先日スミト様に頂いた服を気忘れ、いつもの仕事服で来てしまいました。
しかし、あれは『私服』だと仰っていました。であれば、仕事中である今はこの服装が正しいですね。
あの服は、スミト様と一緒に外へ出る時に着させて貰うことにしましょう。
「えっと......」
教えていただいた道順を辿っていると、あっという間にスーパーへと着きました。
私は、躊躇なく中へと入ります。まだよく分からないことも多いですが、スミト様のお手を煩わせるわけにはいきません。少し怖いですが、周りにいる方々に助けてもらいながら何とかお買い物をしていきます。
「すみません、『じゃがいも』......という物は、どこにあるのでしょうか?」
「私店員じゃないわよ」
「え?あ、し、失礼しました!......それで、えっと......その店員さんという方は、どこに居られるのでしょうか」
「あんた変なこと言うわねぇ、あそこにいるじゃない」
どうやら、あの緑色のエプロンを身につけている人が店員さんという人らしい。他にもエプロンを装着している人がいるので、恐らく緑色のエプロンが目印なんだと思います。
「すみません、『じゃがいも』という物は、どこにあるのでしょうか?」
「え?じゃがいもなら......」
店員さんはお優しい方でした。
私の質問に対し、丁寧に対応してくださいました。
こんなに広いお店の中のもの把握しているなんて......私も見習わなくてはなりません。
「後は......」
レジというものは凄く難しくて、店員さん三人係で対応させてしまう事になりましたが......無事に済ませられて良かったです。
しかし、お買い物が終われば後は家に帰るだけ。
私はスーパーを出ると、元来た道をそのまま帰ります。
スミト様には、お買い物しか頼まれておらず、その後は自由にしていいと言われたのですが......。
「何をしましょうか......」
色々と考えを巡らせ、空を見上げながら、お散歩気分で帰ります。
この世界の空は、私がいた世界ととても似ています。
しかし、鳥や虫などの生き物。人の見た目や服装。それに、言葉まで。私の知らないものばかりです。
「はぁ、はぁ、はぁ......」
「......?」
息遣いの荒い人。
輝く頭に、少しの白い髪。皺のある肌。スミト様に比べると、少しご高齢に見えます。
何かを持っているように見えますが、何でしょうか。
「大丈夫ですか?」
「へ?」
「大変辛そうですが、何をしていらっしゃるのでしょうか?」
「あ、あぁ......家にある本をね、この荷車に乗せようと思って」
荷車。
確かに、目の前には少し大きめの荷車があります。中を少し覗くと、沢山の本が見えました。
「これがまた重たくてねぇ、いやぁ参った参った」
おじ様は、ポケットからハンカチを取り出すと、頭の肌の部分をペシペシと叩くついでに汗を拭き取ります。
「あの、よろしければ手伝い致します」
「え?な、何を言ってるんだ。そんな、見ず知らずの人に手伝わせるなんて、出来ないよ」
「いえ。辛そうなお姿が見えましたので、私で宜しければ」
「そんな事言われてもなぁ......気持ちはありがたいんだけど、お嬢ちゃんじゃ重たくて────」
おじ様がそう言うので私は、近くに積み重ねて置いてあった本を、全て一気に持ち上げました。
「え!?」
重たいはずの本を軽々と持ち上げてしまった私を見て、おじ様は驚く顔を隠せていません。
もちろん、私にそんな力はありません。
魔法です。
スミト様には「魔法だけは絶対に他人に見せるな」と言われていたのですが......見せなければバレないと思い、使ってしまいました。
身体強化系の、弱めの魔法。
「おぉ、こりゃ凄い......」
「お気になさらずに」
スミト様。
目の前の困っている人を放っておけず、スミト様とのお約束を破ってしまいました。
お許しくださらなくてもいいです。ですが、もし何かあった時にはスミト様を巻き込まぬように全力を尽くします。
「次はどれをお運びしましょうか」
「じゃ、じゃあ......お言葉に甘えさせて貰って......」
おじ様はそう言うと、家の中から本を持って来てくれます。それを私が、荷車に乗せます。
家にお邪魔しても良いのですが、さすがにそういう訳にはいきません。
「はい」
「はい」
沢山持って来て、沢山乗せる。それを繰り返しているうちに、あっという間に荷台は本でパンパン。もう乗せる場所が無いほど、ピッタリ収まりました。
「助かったよ、ありがとう。それにしても、凄い力持ちだねぇ。何か運動でも?」
「はい、まぁ......そんなところです」
「悪いねぇ......こんな、見ず知らずのおじさんを手伝って貰っちゃって」
「いえ。困っている人がいるのなら、お手伝いするのが当たり前です」
と、私がそう言うと、おじ様は目を大きくさせて驚いたような表情をされました。
どうしてでしょうか。
私、何か変なことを言ってしまったのでしょうか。
「はは。君のような素晴らしい子が、私の娘だったらなぁ......いや、年齢的には孫かな?」
「褒めていただいていると受け取ります」
するとおじ様はニコリと笑ってくださり、私も自然と笑みがこぼれます。
「これから、どうなさるのですか?」
「この大量の本が乗った荷台を押して、近くの学校まで行くんだ」
「学校......!」
スミト様が仰っていた学校......。
そこに、今から行くのですね。
「そう言えば君は、見た目は結構若く見えるけど......その服装だと、どこかのメイドさんみたいだね。学校行ったことないの?興味ありそうだけど」
「はい!このせか......私は、学校というものをあまりよく知らないもので......楽しそうな所だと思っています」
「学校をよく知らない......?」
おじ様は、少し真剣そうな表情で俯きました。何か考えていらっしゃる様子ですが......また私は、変なことを言ってしまったのでしょうか。
「じゃあ、一緒に来るかい?」
「よろしいのですか!?」
「うん。別に見学くらいなら構わないよ」
私は、内心凄く喜びながら「是非!」と大声で言ってしまいました。
私欲のためだけにおじ様に迷惑をかけてしまうのは、良くない行為だと分かってはいるのですが......。
おじ様は、大きく笑ってくださいました。
「で、では学校までお手伝いします」
また微量の魔力を使って、荷台を押します。
これだけ本が乗っていれば、一人の力では押すことは困難です。
登り坂に下り坂。凸凹とした道を、押して歩きます。
「どうして、このような事を?なぜこの本を学校に持って行くのですか?」
「寄付するんだよ。もう私は全て読んでしまったからね。だったら、他の人達に読んでもらった方が本も嬉しいだろう。本とは、人に読まれるためにある物なのだから、読み終わった私が持っていたって仕方がない」
なるほど......確かにそうかもしれません。
これだけの量を読み返すという可能性も低いですし、ならいっそ他の人に渡した方が良いとお考えのようです。
「まぁ、今の若い子達が、こんな古い本を読むとは思えないけどね」
はっはっはと、おじ様は笑います。
若い方々が古い本を読まない......?私のいた世界では、古い本というのは決まって魔導書や魔術書のことを指します。
若い方々は、むしろその本を参考にする機会が多いのですが......この世界はそうでは無いようです。
「でもきっと、読んでくださると思います。だって、これだけ頑張って運んだのですから」
「......!そうだね。そうだと良いね」
しばらく道を進むと、大きな建物が見えて来ました。
とても立派な建物です。どのような方の御屋敷でしょうか。
スミト様のお住いしている所は、私のいた世界で言うところの宿のような場所だとお聞きしました。しかし、このように大きな豪邸に住んでおられる方もいらっしゃるのですね。
「よし、着いたね」
「え?ここ......ですか?」
「そうだよ。ここが学校さ。今は丁度お昼だから、外にも少し人が居るみたいだね」
ここが......まるで豪邸のように大きな建物。
私のいた世界では、考えられない大きさです。
おじ様は、入口から中へ入って行きます。私も、荷台を押して中へと入りました。見回りの人や警備が一人も見えません。それに、入口も簡単に開きます。
侵入されたら、どうするのでしょうか。
「本当に助かったよ。それにしても情けないねぇ......大の大人が、こんな可愛らしいお嬢ちゃんに助けられてしまっているのだから。それも、力仕事で」
「いえ、たまたまです。あまりお気になさらずに」
「せめて何かお礼でもさせて欲しいけど......そうだ。言い忘れてたけど、実は私はこの学校の校長を勤めていてね」
「コーチョー......?」
「知らないか。えっと、この学校で一番偉い人って言えば伝わるかな」
「そ、そうでしたか。申し訳ございません、知識不足なもので......」
「いやいや、気にする事はない。それで君に相談なんだが......」
「......?」
「うちの学校に入学しないかな?」
「............えっ?」
入学?というのは、この学校へ私も通うことになるということでしょうか。
それはつまり......えっと......。
「最も、私にそんな権限がある訳では無いけれど、手伝う事ぐらいなら出来るからね。まぁすぐには決められないだろうけど、良かったら考えておいてくれないかな」
「し、しかし......私は本当に何も知らなくて......知らないことばかりで......」
「学校とは学びの場所、知らないことを知る場所だよ。何も気にする事はない。それに何より、君は凄く良い子だ。素直で、人の為に何かをすることが出来る。格好はちょっとおかしいけれどね」
「え?」
格好?
「私何か、間違った格好をしていますか?」
「え?あ、いや......まぁそれは良いんだ。気にしないでくれ。それよりも、肝心なことを聞き忘れていたよ。年齢を教えてくれないかな?見たところ高校生くらいだと思うんだけど」
「申し訳ございませんが、私は自分の年齢というものを知らずに育って来たもので......」
スミト様に聞かれた時にも、答えられなかった質問です。
スミト様は「まぁ、俺と同じくらいじゃない?」と仰ってくれましたが......どうでしょうか。
十五年......か、あと少しくらい生きてきたような気はします。
「うぅん......」
「あ、あの......」
しかし、気持ちを伝えなければ。
私の、この気持ち。学校へ通いたいという気持ちを、上手く伝えなければなりません。
「私、学校に通いたいです!何も知らないような私ですが......それでも、学校に通いたいです!!」
私も学校に通えば、この世界のことをもっと知ることが出来るかもしれません。
そしたら、もっとスミト様に......仕えることが出来ます。
「スミト様と同じ学校に......あっ」
「スミト......?あぁ、もしかして琴代海君のことかな?」
「......!スミト様を知っておられるのですか!?」
「まぁ、うちの生徒だからね」
うちの生徒......ということは、スミト様もこの学校に......!
「知り合いならば丁度いい。色々と学校の事も教えて貰えるね。それじゃあ、えっと......そう言えばまだ、君の名前を聞いていなかったね」
「私はロメリア。ロメリア=アルメリアです」
「えっ、外国人......まぁそっかぁ、確かに見た目がそうだもんね」
「何か......問題でも?」
「いやいや、問題ないよ。外国人だろうと関係なく入学出来るさ。そっか、だからあまり常識が通じなかったわけだ」
何だかよく分かりませんが、何か納得してくれたみたいで良かったです。
「私は校長の守高 博文。これからよろしくね」
「はい!よろしくお願いします」
こうして、私の入学が決定しました。
この世界の学校というものを、私はよく知りません。ですが、スミト様と同じ学校で、楽しい日々を過ごせたら......あぁ、いや!スミト様のお近くで少しでもお手伝いすることが出来れば、メイドとしても本望です。
私が元の世界に帰れるようになるまでは、この世界で生きていかなくてはならないのです。そのためにも、スミト様のお力を借りながら、スミト様にお仕えする。
この世界を知るために、私は学校へ行きます。
学校......一体どんな場所なのでしょうか。
とても、楽しみです。
──────────
「えっ!?」
「どうした?琴代海。楽しい夢でも見たのか?」
「あ、いや......すいません」
今、外にメイド服のようなものを着た女性が見えたような気がした。
ここ最近の記憶で、メイド服と言えば心当たりがある。
それがまさか、学校内に見えるなんて......っていやいや、そんな馬鹿な。
嫌な予感はするが......まぁ、幻覚でも見てしまったのだろう。
疲れているのかもな。こういう時は眠るのが一番だ。
「おい、眠るな」
「すいません」
──────────
家に帰ると、ロメリアが迎えてくれた。
玄関までわざわざ来てくれたのだ。俺の心も、そりゃあ嬉しくなっちゃうな。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
「お食事になさいますか?先に御入浴なさいますか?それとも......」
え......まさか。
おいおいまさか、この展開は......!
「少し睡眠なさってからにしますか?」
「............食事」
俺達は、いつも通りご飯を食べる。
今日もロメリアの手作りだ。レシピ本を買ったら、思ってたよりも読んでくれて、どんどんこの世界の料理が上手くなっている気がする。驚くべきはその学習能力だ。
簡単な本なら読むことが出来るし、字も小学生レベルであれば書くことが出来るようになって来ている。
そして、レシピも一度読んだだけで完璧に作れる。
これは、さすがはメイド。というよりも、さすがはロメリアだ。
異世界人というのは、この世界の人よりもずっと優れているのかもしれない。
「スミト様、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「うん」
「なぜ、魔法を隠さなければならないのでしょうか」
「......あぁ」
そう言えば、魔法を人に見せるなと言ったが詳しい理由までは言っていなかったな。
「実は、この世界の人類は魔法を使えないんだ」
「え......?魔法が、使えない......ですか?」
「そう。代わりに科学というものを手に入れた......とは言え、それはただの時代の流れだ。ロメリアの世界も、時が経てばこの世界のように科学力を手に入れる事だろう」
魔法が存在しない。
それは、こちらの世界からすれば当たり前のことだ。
しかし向こうからすれば、魔法が使えることを当たり前としている。
下手したら、魔法が使えない事など考えたことも無かったかもしれない。
「魔法という言葉は存在する。だがそれは、こっちの世界では想像上のものなんだ」
「想像......?」
「実在はしないけれど、あったらいいなという夢のような事。そういうことを、フィクションって言うんだ。だから、実際に見た人は驚いて腰を抜かしてしまうことだろう」
それどころか、話題になったり有名になったり......最悪の自体は、実験体にされてしまう事だ。まぁそれこそ、フィクションかもしれないがな。それだけは、何としても避けなくてはならない。
「とにかく、俺以外の人の前では絶対に魔法を使わないこと。これは、俺との約束だ」
「は、はい!分かりました。約束します」
「うん......なんか、顔が引き攣ってる気がするぞ。大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
そうか......ならいいんだが。
やはり、ロメリアは物分りが良くて助かる。異世界から来たのが主人公っぽい奴じゃなくて、メイドだったからだろうか。
いや......きっと、ロメリアだったからだろう。
ロメリアだからこそ、こうして俺は毎日楽させてもらっている。
ロメリアだからこそ、平凡だった日常が退屈では無くなったのだ。
「一つよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「魔法が存在しないということは、魔族はどうなるのでしょうか。もしかして、魔族すら存在しないのですか?」
「あー......魔族というより、元から人間以外の種族は存在しないんだ」
「え!?そ、そうだったのですか......」
そう。魔族というのが、俺の知っている魔族であるのなら、間違いなく存在しない。もちろん魔物もだ。
知性をもった生物は、細かい話抜きにすると我々人間だけになる。
「ロメリアは、もしかしてエルフだったりするのか?」
「どっ、どうしてそれを......!」
「いや、耳が......」
尖っていたからだ。
人間でも耳が尖っている人はいるだろうが、そこまでのあからさまに大きな耳の人は見たことがないし聞いたこともない。
「いえ、実を言うと私はエルフではなく......ハーフエルフなんです」
「ハーフエルフ?」
「はい.....エルフと人間の混血種です」
ロメリアは、恐る恐る答えた。
なるほど、ハーフエルフか。しかし、元々のエルフを見たことがないわけだから、何が違うのか全然分からないな。
「何をそんなに脅えているのか分からないが、何も心配することは無い。ここには、ロメリアを脅かすものなど何も無いからな」
「し、しかし......」
きっと、ハーフエルフという種族には何かしらの事情があるのだろう。
だが、そんな事情を抱えているのにも関わらず、俺にその事を教えてくれた。それは、主人だからということだけでは無いはずだと俺は信じたい。
だから、この世界にはロメリアに恐怖させるものなど存在しないと教えてやりたい。
「大丈夫だ。教えてくれてありがとう。何があったのかは分からないが、もう大丈夫だ。さっきも言った通り、ここには人間しか存在しない。エルフだろうがハーフエルフだろうが、魔族だって関係ない。俺と同じ『人』だ」
ロメリアは、少し笑顔になった。
目には涙を浮かべている所を見ると、やはり何かあったのだろう。
ハーフエルフか......きっと異世界では、蔑まれている存在だったりするのだろうが、そこら辺の事を聞き出しても仕方がないことだ。
ロメリアの口から自然と言い出してくれる事を待とう。
「楽しいことを考えようか。よし。それじゃあ、また今度どこかへ連れて行こう。せっかくこの世界に来たんだ。楽しめるなら楽しまなくちゃな」
「い、いえ!私にはお構いなく」
「そう言うなよ。俺からのお願いだと思ってさ」
「......では、その時が来たらよろしくお願いします」
「ふっ、なんだそりゃ」
面白い奴だ。
それから俺達はまた二人で片付けを済まし、二人で眠った。学校であれだけ眠ったというのに、まだ眠れるというのは自分でもビックリだ。
しかし、何だか今日はロメリアのテンションが高かった気がするな。
本当に何となくだが、いつもよりも元気だった気がした。
何かいい事でもあったのだろうか......まぁ何にせよ、この世界で楽しみを見つけられたのならそれでいいか。
早く帰してやりたいな。
そう思い、ロメリアが帰るための方法を考えながら眠る事にした。
今日もロメリアの寝息で、眠れなかったのは言うまでもない。