お買い物
何だかんだで眠れた俺は、再び憂鬱な朝を迎えた。
──────ことは無かった。
「おはようございます。スミト様」
「お、おはよう……ロメリア」
はっ! これが……朝チュン!?……ではないか。
ロメリアは俺よりも早く起きて、単に起こしてくれただけだ。
そもそも朝チュンってのは、大体がベッドで二人で寝ている所から始まるわけだし、俺は床で寝ていたから……って俺は朝から何を考えて────
「え......!?」
俺の記憶が確かなら、俺は床で眠ったはず……それなのに何で……?
「何でソファーで眠っているんだ......?」
ベッドで寝ていて、起きたら床に落ちていたとかなら分かる。
しかし、今は床からソファーに上がっている......なぜ低い位置から高い位置に昇っているんだ。
眠っている間に立って動いたとしか─────
「申し訳ございません。スミト様が眠ってらっしゃる間に、私がソファーへ移させていただきました。床は眠りづらそうだったので」
「え……あ、そ、そう……なんだ」
犯人はロメリアだった。
「よく起こさずに運べたな」
「魔法を使ったので」
そうだった。
ロメリアは魔法世界出身だったのだ。
しかし、魔法というものは便利だな。俺も使えるのなら、是非とも使いたいものだ。
「そう言えば、ロメリアはエルフだよな?」
その特徴的な尖った耳。
俺の知っているエルフは、そんな感じだった。
「はい。詳しく言えば、ハーフエルフ.....ですが」
「ハーフエルフ?」
「その反応から察するに、この世界にはハーフエルフも存在しないのですか?」
存在しない。
これも魔法と同じだ。
「ハーフエルフどころか、エルフすらも存在はしない」
そう言うと、ロメリアは何故かホッと胸を撫で下ろした。
何か不味い事でもあるのだろうか。
「私の居た世界では、エルフはその.....他の種族から嫌われておりまして.....特に、ハーフエルフ差別の対象となる事が多いです」
そうか、なるほど.....どういう事情か詳しくは分からないが、向こうの世界ではロメリアは虐げられていたのだな.....。
ロメリアの過去が、少しだけ分かったような気がした。
「安心してくれ。さっきも言ったが、この世界にはエルフもハーフエルフも存在しない。だから、そんな差別なんか存在しないんだ。少なくとも、お前をハーフエルフだからと言って嫌う奴らは居ないよ」
そう言うと、ロメリアは一層安心したようだった。
まぁこの世界のエルフ達は、むしろ愛され過ぎていると言っても過言では無い。創作の世界でのエルフは、人気の種族だ。
「.....そうですか。安心しました」
俺も、また一つロメリアのことを知ることが出来て嬉しいよ。
ロメリアがこの世界のことを知らないのと同じように、俺もロメリアのことを知らない。だから、もっと知りたい。
異世界人だからというだけではなく、ロメリア=アルメリアというハーフエルフに興味があるのだ。
「さて。そろそろ起きるか」
俺は体を軽くポキポキ鳴らしながら起き上がる。
実は、床よりソファーの方が寝心地悪いのだ。
しかしそれは内緒にしておこう。また面倒なことになりそうだからな。
「よし。じゃあ、今日は買い物に行こうか」
いつも通りの朝。
では無かったけれど、やることはあまり変わらなかった。
ただ、朝食を一人で食べなくなったことは、一番大きな変化かもしれない。
ただのトーストでも、今は美味しく感じられるようになったからだ。
「さ、準備はできたか?」
「はい」
まぁ、準備も何もないだろうけど。
俺は身支度をし、家を出た。
今日はデパートへお買い物だ。
ロメリアの日用品が全く無いのだ。服も、メイド服の一張羅じゃ厳しいだろう。
そんな時に便利なのが、近くのデパートなのだ。
車とかは無いから徒歩で向かう訳だが、そこまで遠い距離でも無いので案外早く着くのだ。
「暑いですね……」
「あぁ、部屋はエアコンがついてたからな。今は夏だし、外は暑い」
「えやこん……」
ロメリアの世界にも四季はある……よな?まぁ四季が無い国かもしれないが。
そう言えば、ファンタジー世界で衣替えなんて聞いた事ないな。
「今日は日曜だからな。人多いだろうけど、あまり目立つことはするなよ?」
「目立つこと……ですか?」
「『様』を付けて呼ぶとか、魔法を使うとか」
そんなこと言い出したら、そもそもメイド服を着て外を出歩くなと言いたいが、そこは我慢だ。
俺の服を着せて外を歩かせる方が、全然恥ずかしい。
いや、これはメイド服姿をずっと見てきている俺の感覚が、麻痺してしまっているだけか?
とは言えそのまんまメイド服というのはそれこそ目立つこと間違いない訳で、一応上から羽織るものは着せている。暑いだろうが、少しの辛抱だ。
「分かりました。それで、お買い物というのは具体的には何を購入なさるのでしょうか?」
「まずは日用品だな。それと、ロメリアの服とか、夕食とか」
これから二人分作らなければならなくなる。食費がかさむなぁ……日用品だけでも結構必要となるってのに。まぁでも、困ってる子を放っておくわけにもいかなかったしな。
「私にはお構いなく」
「いや構うよ。せっかく同せ────同居しているわけなんだし、お互い快適に凄そうぜ」
と、そんなこんな会話をしているうちに、目的地へ着いた。
ここら辺では一番大きなデパートだ。
ここで手に入らないものは、ほぼ無いと言えるだろう。
「うわぁ……凄いですね!こんなに広くて、大きくて。美しい建物です」
「ここでは、ほとんどのものを買うことが出来るんだ。そう考えると凄い所だな」
「武器もですか?」
え?武器?
「いや……それはちょっと無いかな」
あったら困る。
「この世界は平和だから、そういう物は無いんだよ」
「そうなの……ですか」
まぁ、完璧に平和とは言えないけど。
少なくともここ、日本は平和と言っていいだろう。
今のところは。
「それじゃあ行こうか。まずは食器類から」
俺達は、まるで新婚夫婦のように買い物を始めた。
これはデート……これはもはや、デートと言っても過言ではないだろう。
まさかこんな美少女とデートする日が、俺なんかに訪れるとはな。
「えーっと……コップと、お皿と……」
色々買っていくうちに、俺の金がどんどん減っていく感覚に襲われた。
まぁロメリアためだと思えば、何でもない。
あまりお金のことばかり気にしていると、小さな男だと見られてしまうしな。ここは太っ腹に行こうではないか。
「次は服だけど……」
ここで問題発生。
下着だ。
どう頑張っても、これだけは出来ない。
女の子の下着を選んで、買うだなんて。
「えっと……好きなものを選んでくれ」
「はい、分かりました」
ふぅ、自分で選んでくれるようだ。
それなら、俺は別に何もしなくても良いな。
とは言え女性下着売場付近にいること自体、俺としては結構恥ずかしいものがある。
ここは素早く決めてもらって、早く次へ行きたい。
「スミト様」
「終わったか」
「はい。次へ参りましょう」
……うん。特に何も無かったら無かったで、何となく残念な気持ちになるのは何故だろうか。
どちらがいいと思いますか?とか言って下着見せてきて「うわぁ!やめろぉ」ってなるかなぁとか、密かに期待し─────て無かったよ。全然。
いけないいけない。このままだと俺がスケベキャラとして定着してしまう。
俺は一般的は男子高校生だ。決してそういう事を、毎日思い浮かべながら過ごしている訳では無い。
いや、むしろそういう事を考えている方が健全な男子高校生らしいのか?
「さ、結構買ったからな……」
後はロメリアの私服と、今日発売の限定フィギュアだけだ。俺が今ハマっているアニメのフィギュアが、遂に今日発売するということで、今日の目的はそれを買うために来たと言っても過言では無い。
突然生活費が嵩んだとしても、これだけは譲れない物なのだ。
それだけ楽しみにしていたという事。早く買ってしまいたい。予約しているとはいえ、無くなってしまうのでは無いかと心配になる。
だがそんなワクワクとドキドキを抑え、服のコーナーへと足を運んだ。お楽しみは後だ。
「んー......」
正直、俺はファッションに疎い。
どの服がオシャレだとか、今の流行りだとか、全く分からない。
そしてそれは、異世界から来たばかりのロメリアなら尚更の事だった。
「見たことの無いようなお洋服ばかりですね」
「そうだろうね……ここでも、好きなものを選んでくれ。と言いたい所だけど……」
何せ服は高い。
下手すれば、めっちゃダサいものを購入してしまって、大損する可能性もある。
「......」
こういう時は自分の財布と相談するのが良いと思い、財布を開いた。
すると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「なっ......」
広がっていたのは財布だった。
安物の折り畳み式の財布に、出かける前に沢山入っていたはずの紙幣が見当たらない。
あれ......どこかで落としたか?それとも、盗まれたとか?
いや、答えは簡単だ。
使い切ってしまったのだ。
「スミト様......?」
こんなダサいことがあろうものか。
物は計画的に買うべきだと、改めて思う。
何度財布の中を見返して見ても、お金は湧いて出てこない。
......こうなってしまっては仕方がない。別で用意していた、フィギュアを買うための金.....これを使う他無い。
「何でもない。さ、服を選ぼうか」
こんなこと、何でもない。本当に何でもない事だ。
ただ俺が楽しみにしていたフィギュアが買えなくなっただけ。
だが、こうして笑顔で服を選んでいるロメリアが見れるのなら、その方が何倍も俺は嬉しい。
フィギュアなんていつか買える。だが、ロメリアの服が無いというのは一大事なのだ。
それが主人としての......いや、俺の男としての覚悟だ。
「しかし、本当に宜しいのでしょうか?私なんかのために......無理していらっしゃるのではありませんか......?」
「いや、いいんだ。これでいい」
ロメリアの喜ぶ顔が見れるなら、それが一番なんだ。
誰かに喜んで貰えるということが、こんなに嬉しいものだとはな。
まだまだロメリアとは出会って間もない。だが、そう思えてしまえるほど、俺はもうロメリアに魅了されているのかもしれない。
「どうですか?スミト様。似合っているでしょうか」
「あぁ、とても似合っているよ」
「この世界の服はどれも新鮮なデザインで、変ではない服装がどのようなものか分かりませんでしたが.....大丈夫でしょうか.....?」
俺から見れば別に変ではないと思うが......なにせ俺もファッションに疎いものだから、オシャレかどうかまでは分からない。まぁそれでも、ロメリアならどんな服装も着こなせてしまうだろう。
雑誌やネットで流行りのファッションを調べ、ロメリアの服装は良い感じにまとまった。
思っていたよりも費用はかからなかったので、これで良しとしよう。
用事は全て済んだ。後は帰るだけだが、少し喉が渇いたな。
「ジュースでも飲むか?」
「じゅうす?とは、何でしょうか」
えっと......何と説明すれば良いのか。
「味の付いた水......?甘かったり、酸っぱかったりする」
「砂糖水ですか?」
「いや......まぁ、そんなところだ」
あながち間違いではないが。
少し違うな。
「どれが良い?......って分からないか」
俺達は、自販機の前に立つ。
ロメリアは興味津々に自販機を見つめるも、謎の機械に対して首を傾げるばかりである。
そうだな......とりあえず炭酸でもどうだろうか。
きっと異世界には、炭酸というものは無いことだろう。
俺は小銭を入れて、グレープ味の炭酸ジュースを買った。
「これはペットボトルと言って、このキャップを取り外して飲むんだ」
そう言いながら、ペットボトルキャップを回して見 開けて見せた。
ロメリアは、これまた興味津々に見ている。
プシュッ。
「ひゃッ!?」
炭酸の音に驚くロメリア。
可愛い。
俺は、キャップを外したペットボトルを、ロメリアに手渡した。
「はい」
「あ、ありがとうございます」
ペットボトルを色々な方向から凝視し、中身を覗く。
そして、恐る恐る口をつけた。
「ッ!!?」
その刺激に驚いたのか、ロメリアはジュースを吹き出してしまった。
「な、なんですかこれぇ」
「それが炭酸だ。シュワシュワするだろう?」
「はいぃ......」
「まぁ体に直接害は無いから。もう少し飲んでみな?あまりにも苦手なようだったら、別に俺が飲むが......」
「いえ、大丈夫です!」
ロメリアは覚悟を決めたのか、もう一度ジュースと向き合う。
そして、一気にグイッといった。
「!!」
「どうだ?」
ロメリアはゴクッと飲み干すと、目に少しばかりの涙を浮かべていた。
まぁ、炭酸強めのを一気飲みするとそうなるよな。
「何だか、面白いお飲み物ですね。この世界ではこのような物があるのですか」
言われてみれば、確かに飲み物の種類だけでも豊富だ。
やはり、当たり前となってしまっていて気付かないことは、意外と多いんだな。
そう考えるとこの世界は、ロメリアにとっては何もかも分からないことだらけで、そりゃあ気軽に外へ出る気も起きないほどに怖い場所だ。
......早く元の世界へ戻してやらないとな。
そう思い、俺達は家へ向かった。
──────────
「よし。最近ロメリアに任せてばかりだからな。たまには俺が夕飯を作るよ」
「作る......?スミト様がですか?」
「うん」
俺だって簡単な料理くらいは作れるさ。
伊達に一人暮らしはしていない。
とは言え、美味しいかどうかは別だ。俺は、自分が食べられる程度の実力しか持っていないと思っている。他人に食わせた事なんてないから、それが美味しいかどうかは判断することが出来ない。
「まぁ任せてくれって」
正直、自信は無い。
だが、これから先ずっとあのカップ麺を食べさせる訳にもいかないだろう。
俺は、今日買った食材を使って料理を始めた。
作る料理は......カレーだ。
これだけ言っておいて簡単な料理にするのは、少しダサいかもしれないが、それでもやはり簡単な料理を作りたい。
だってカレーは、誰が作っても大体美味しいのだから。
「......何を作っているのでしょうか?」
ジーッと見つめてくるロメリア。
他にやる事が無いのだろうが、そんなに見つめられると緊張してしまう。
「カレーだ。そっちの世界には無いものだろう?」
「カレーですか!それなら、私も存じております!」
「本当か!?」
驚いた。まさか異世界にも同じ料理が存在するとはな。
カレーの歴史なんて知らないが、もしかしたらカレーは結構古い頃から存在するのかもしれない。だとしても、魔法があってファンタジーな世界にもこの世界と似たような所があるとは。
「辛い料理です」
「ふむ。同じだな」
よく考えてみれば、もしロメリアが辛いものが苦手だった場合、とても申し訳ないことになってしまう。しかし、他にどんな料理を出せばいいのか分からない。ただでさえ料理のレパートリーが少ない俺には、カレーぐらいしか作れるものは無いと思ったのだ。
「そう言えばロメリアは、普段どんな料理を食べてるんだ?」
異世界というと、謎の生物の肉とかが思いつくが......まぁメイドだしそんなワイルドでは無いだろう。
もっとお上品で豪華な......そう、ステーキとかだ。
貴族に仕えていたらしいからな。それはもう、高級なものなのだろう。
「そうですね......主人が食べたいと仰った物の残りを食べておりました。例えば、ステーキやお魚などですね」
「残り......」
「はい。主人がどれだけ召し上がるのか分からないので、多めに作るのです。それでも大抵余ってしまうので、私達はそれで十分でした」
「......」
次は、ロメリアの食べたい物を食べさせてあげよう。
まぁ、この世界にどんな料理があるのか知らないだろうから、まずは俺の料理のレパートリーを増やす所からだが。
「よし、出来た」
「これが......この世界のカレーなのですね。この白いものは何でしょう?」
ロメリアは、ライスの部分を指さしてそう言った。
そうか。米の歴史も別に詳しい訳じゃないが、ロメリアの世界には米は無かったのか。いや、存在はしたのかもしれないが、ロメリアの国では米はまだ食べられていなかったようだ。
「これはお米って言って、世界三代穀物と呼ばれている。小麦、とうもろこし、そしてこの米だ。俺達日本人......つまりこの国の人達は、米を主食として食べている」
「へぇ!凄いですね!私の世界では、主にパンを食べていました。その代わりという事でしょうか?」
「パンも食べるぞ。まぁロメリアの国よりは、食べるものの種類は多いかもな」
俺達は、それぞれ食卓につき、カレーライスを目の前に手を合わせた。
ロメリアはカレーを知っていると言っていたが、果たして異世界のカレーとの違いはどのようなものだろうか。
「「いただきます」」
今回は箸ではなくスプーンで食べるため、ロメリアも苦労せず口へ運べる。
ただカレーライスはカレーとライスに別れており、どちらから食べればいいものかと迷っているようだ。
「ロメリア」
「......?」
「この真ん中から救って、半分づつ食べればいいんだ」
「なるほど。教えてくださり、ありがとうございます」
本当はどうだっていいけど。
どんな食べ方をしようが、本人の自由だ。
だが、ロメリアはこういう時に迷ってしまう性格のようだ。そういう人には、いっそこちらが決めてしまった方が良い時もある。
この食べ方は、俺の食べ方だ。
「こ、こうですか?」
ロメリアは、スプーンの中でカレーとライスを大体半分ほどの量で分けて掬った。
そして口へ運ぶと、一口でその小さなカレーライスを食べた。
「ッ!?」
「ど、どう......?」
ロメリアは口に手をやり、驚きの表情を見せた。
そしてゆっくりと咀嚼し、飲み込んだ。
「美味しい......美味しいです!」
「おぉそうか。それは良かった」
「はい!私のいた世界と似ている味ですが、少しだけ違います。それにこの『オコメ』というものがとても美味しいです!モチモチしていて、何だか不思議な感じです」
そう言って貰えると、作った側としてはとても嬉しいものだ。
「ありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございます。他の人に料理を使ってもらったのはとても久しぶりですので、新鮮な気分です」
久しぶりか。
普段は自分達で作っているから、かな。
ロメリアの料理か......俺も食べていたいものだな。
「次は、私がスミト様にお作りします」
「え?」
一瞬、俺の心が読まれたかと思って驚いてしまったが......そうか。
それなら、是非ともいただきたいものだ。
「楽しみにしてるよ」
「はい!」
俺たち達は食べ終わると、片付けてから直ぐに寝る支度をした。
昨晩とは違い、今度は歯ブラシがある。
着替えは相変わらず俺のシャツだが......まぁ仕方あるまい。
「スミト様」
「ん?」
「今日一日、お体を痛めていたようにお見受けしました。恐らく、ソファーで眠っていたのが原因かと思われます。もしそれが理由でしたら私の責任です。申し訳ございません」
お見通し......って事か。別に痛そうにしていた覚えは無いのだが、無意識にそんな動作をしていたのだろう。
さすがはメイドだ。よく見ている。
「心配しなくていい。俺はいつも体が痛いんだよ」
「ベッドでその痛みが解決するというのなら、お譲りします」
「いや、それはロメリアが使ってくれ」
いや待てよ。
ロメリアの香りが染み込んだベッドというのは、もしや最高なのでは?
......いやいや、正気を保て俺。何を考えているんだ。それは何かこい.....ずるい気がする。
「でしたら、スミト様が宜しければ御一緒にでも─────」
「おやすみ」
俺は、すぐさまソファーで横になった。
変なことは考えるな。
俺は純粋な男子高校生だ。純粋無垢な高校生なのだ。
もう体の痛みなど、気にはならなかった。