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喫茶店

見違えるほど変わった図書室。

俺は、一人で静かに本を読んでいる。

以前はここにいる人が俺と先輩くらいしか居なかった。

しかし現在は、溢れるとまではいかないが、結構な人数がいる。

未だイベントは継続中。皆、他人のオススメの本に興味津々なのだ。

しかし、人が多くても静かなのが図書室。

こうしてゆっくりと本を読んでいられるのは、図書室の良いところなのだ。

......まぁ、今は朝早いから誰もいないが。

さすがに朝一で図書室へ来る人は中々いない。

文恵も、図書委員になったとは言え別に忙しくなったという訳では無い。寧ろ暇なのは継続中だ。たまにその暇な時間が、この図書室へ当てられるというだけのようだ。そんな事なら、ロメリアを入れても問題なかったかもな。


「ちょっとアンタ、手伝いなさいよ」


と、突然背後から声がした。

俺は本は閉じずに振り返る。


「なんだ詰田か」

「ちょ、『なんだ』とは何よ!傷つくじゃない」


一瞬誰だか分からなかった。

詰田の腕の中には大きな広辞苑が何冊も乗っかっているからだ。

その広辞苑のせいで詰田の何割かが見えずにいたものだから、顔の半分と声で判断するしか無かった。

というか、結構力持ちだな。


「何やってるんだ?こんな朝早くに」

「広辞苑を教室に運ぶの。授業で使うって聞いてたでしょ?」

「あぁ......」

「その反応......忘れてたでしょ」

「いいや。忘れてなんかいない」


そもそも聞いていなかったからな。


「どうせ聞いてなかっただけでしょ」

「バレてる......だと......?」

「はぁ......」


詰田は「やれやれ」と言った顔をすると、抱えている広辞苑を俺の目の前に落とすようにして置いた。

本とは思えないような音がする。まるで凶器だ。


「おい、何のつもりだ?」

「だから、手伝ってって言ってるでしょ。忙しいの?」

「いや別に忙しくは無いが......はぁ、なんで俺が......」


そう言いつつも、目の前の広辞苑を持ち上げてしまう俺は何だろう。

お人好しとでも呼んでくれ......って重っ!?

ズシッとのしかかる重み。

こんなものを一人で持っていくつもりだったのか......化け物だな。


「大丈夫?」

「あ、あぁ問題ない......気にするな」

「そ。じゃあ行こ」


てっきり、俺が持ったので全てだと思っていたが、詰田が奥から同じぐらいの量の本を持って来て驚いた。

半分こだそうだ。

もし俺が手伝わなかったら、一人で往復して持って行ったのだろうか。まさか全部一度に持って行くつもりでは無かっただろう。


「......なぁ」


後ろを歩く詰田に話しかける。


「なに?」

「委員長ってのは、いつもこんなことしてるのか?」

「いや?そんなにやることないわよ。今回はたまたま先生が忙しかったらしいから、手伝ってるだけ」

「先生もなんで詰田に頼んだんだろうな。こんなの、普通の女子なら持ち上げられないぜ」

「なっ!?」


詰田は驚いたような声を上げた。

広辞苑が重た過ぎて後ろを歩く詰田の方を見ることが出来ないが、できるだけ顔を向けようとする。


「どうした?大丈夫か?」

「あ、あーなんか凄く重たい。私、こんなに持てないわぁ」

「......」

「非力な私では持ちきれないー」


棒読みだ。


「今更何を可愛子ぶってんだ。一度それを持ち上げてる時点で、普通の女子じゃ無いんだよ」

「し、失礼ね!私は歴とした普通の女子ですぅ!」

「どうだか」


プンスカ言いながらも、広辞苑を運んでいる詰田。根っからの真面目なのだろう。

しかし、ギャーギャー言いながらも息一切らさない所は本当に普通の女子ではないな。

根っからのゴリラなのだろう。


「ありがと。お陰で助かったわ。じゃ、またなんかあったら手伝ってよね。私非力だから」

「へいへい」


教室に広辞苑を置いて、俺の朝は終了した。

まったく、相当重たい荷物だった。恨むぞ先生。

一日分の体力をほとんど使い果たしてしまった俺とは逆に、疲れた様子が見えない詰田。

化け物か......?


「おはようアルメリアさん!」

「おはようございます」

「ロメリアちゃんおはよー」

「おはようございます」

「おはよう!アルメリアちゃん今日も可愛いねぇ」

「おはようございます。ありがとうございます!」


教室に来たことだし、ホームルームが始まるまで席に座って本でも読もうかと思い、しかし本ならさっき読んでいたから他のことでもしようかと考えながら本を開いていた俺の元に、廊下から声が聞こえて来た。

今日も沢山の挨拶が聞こえる。

それは全て、たった一人へ向けてのものだ。

教室から身を乗り出し言いに来るものがいれば、時間を合わせてわざわざ遠いクラスから挨拶しに来る奴もいる。

それほどまでに、未だ人気を誇っていた。


「スミトさん!おはようございます」

「おはようロメリア」


ロメリア。恐ろしい娘だ。

挨拶して来る人達の一人一人全員へ、律儀に挨拶を返している。

こういう所は、やはりメイドと言ったところだろうか。


「おはようアルメリアさん。相変わらずの人気ね」

「ありがたい事です。こんなに人に挨拶されたのは初めてで、なんだか恥ずかしいですけれど」

「そうなの?それだけ可愛ければ、もっと声とか掛けられたことありそうだと思ったけれど」


詰田の意見には同感だ。俺も、始めに学校で会うなら挨拶したくなってしまう事だろう。しかし、俺はまず朝起きてすぐに「おはよう」なのだ。


「街とか歩いてても、話しかけられたりとかしないの?」


ロメリアがここに来たのは最近のことなので、詰田の言っている経験は異世界にいた時の話になる。

異世界には、ロメリア並かそれ以上の美人が多くいたということなのだろう。


「あまり外に出たことが無かったんです。話す人も、いつも身内の方々ばかりで......ですから今はとても楽しいんです。話しかけてくださる方が沢山いらっしゃり、皆さんお優しくて」

「ということは、あんまり友達と遊んだこと無いってこと?」

「はい」


詰田がニヤリと笑顔を浮かべた。

俺はてっきり、友達がいないというロメリアを馬鹿にしているのかと思ったが、そんな笑顔でないことはすぐに分かった。

そもそもそんな事をするような性格のやつじゃないしな。


「それなら帰りに、最近出来た喫茶店へ行きましょ!あそこなら駅に近いし、何より美味しそうな物がいっぱいあったのよ!パンケーキとか」


嬉々として語る詰田。

恐らく、その喫茶店に行きたいだけなのだろう。

目をキラキラさせている。


「し、しかし......」


困ったような顔で、こちらを見てくるロメリア。

「俺のことは気にするな」と言ってしまいそうになり、言葉を選ぶ。


「良いんじゃないか?喫茶店。まだ友達と遊びに行ったこと無いだろう?」


カラオケなどには誘われていたらしいが、まだ実際に遊びに行ったことは無い。

俺も行かせる気は無かった。心配だったからだ。

だが詰田になら、ロメリアを任せても大丈夫だと分かる。それは俺の知り合いということだけでなく、詰田の性格を知っての事だ。

ロメリア自身も口は硬いし、安心できる。

......これじゃ、まるで過保護な親だな。


「この国の事をもっと知れる良い機会だな。二人で楽しんで来てくれ」

「何言ってんの?アンタも来るのよ」

「......は?」

「三人で行くに決まってんでしょ。何をアンタだけ帰ろうとしてんのよ」


いやいや、ここは女子のお二人で行くところじゃないのか?何で俺まで......。


「嫌なの?」

「そういうわけでは......」

「決まりね。それじゃあまた、帰りに」


半強制的に、俺も喫茶店へ行くこととなってしまった。

まぁ、ロメリアを見守らせてくれるのであればそれも良いのだが、たまには俺抜きで過ごして欲しいものである。

ずっと主人がそばに居たら、心も落ち着かないだろうに。

いや......この世界のことをまだ全然知らないロメリアからすると、事情を知っている人が近くに居てくれた方が安心出来るのだろうか。




──────────




学校の帰り。

今俺は、新しく出来たという喫茶店に居る。俺はオシャレというのはよく分かっていないが、ここがオシャレだということは雰囲気で分かる。

外も中も、当たり前だがとても綺麗だ。

......そして、人が多すぎる。

並ぶこと約40分。

俺達はやっと入店出来た。これでも早い方だと言うのだから驚かされる。

カフェに寄るというだけで、こんなクソ暑い中40分も外で立たせられるなんて......俺一人だったら絶対にやらない事だ。


「混んでるわねぇ」

「まぁ最近出来たって言うなら、こんなもんじゃないのか?」


どんな店でも、最近出来たというだけで人が多く入るだろう。

ましてや喫茶店だ。

詰田のように、女子が興味を持たない訳が無い。

案の定、制服姿の女子が多く見られた。

......というか、俺は場違いな気がしてならなかった。

ほとんど男がいない場所。居るとしても、カップルでオシャレなイケメン男子だけだ。

異世界の美少女とゴリラを連れたモブ顔男子など、ここに居るべきでは無い。


「やっと入れるわよ。ほら琴代海、アルメリアさん、早く座りなさいよ」

「あ、あぁ」

「失礼します」


詰田は既に席に座っていた。

ロメリアは相変わらず俺のそばを離れない。

だが俺が着席をすると、続けてロメリアも隣へと着席した。

驚いた。普段は俺が座っている後ろや横でずっと立っていて、お茶を注いだりなんやかんやしてくれていた。

まぁそれを俺は「メイドだなぁ」と思いつつも、慣れない事で過ごしにくいとも思っていたわけだが。

今は違った。メイドのようなことはせず、俺と共に席に着いた。

ロメリアも学んで来たということだろう。俺がロメリアの方を見ると、ロメリアも俺を見てニコッと微笑んだ。まるでドヤ顔をしているようにも見えたその表情は、とても可愛いものだった。


「......あ、アルメリアさんそっち座るのね。いや別に、全然良いんだけどね」

「えっ、な、何か私間違ってましたかっ!?」


間違ってはいない。

ただ、詰田、ロメリア、俺という三人のメンバーで席に着くのに、女子同士で隣の席に座らず、わざわざ俺の隣に座ったというのに違和感があっただけだ。

これではまるで、カップル+ゴリラという構図になってしまう。

......流石にゴリラ弄りし過ぎか?俺の脳内だけとは言え、これ以上は詰田に失礼だな。


「えっと、ロメリア。どうせなら女子同士で隣に座った方がいいんじゃないかな?なんかこう、話をしやすいとかあるだろう?」


我ながら焦っているのが分かる。

それは、美少女が隣にいるから緊張するとかではなく、詰田に怪しまれていないかという心配からだ。

よく考えれば、外国人という設定のあるロメリアにすれば距離が近いのはおかしな話ではない。


「そうですね。そうさせていただきます」


ロメリアは大人しく、詰田の隣へと移った。

俺とテーブルを挟んで、正面に詰田。その横にロメリアという形になった。


「......」


何だか、詰田の顔をこうして真正面から近くで見るのは、中々新鮮な気がする。

距離の問題ではない。それは別に、普段と同じくらいの距離のはずだ。

そうではなく、場所とか雰囲気とかそういう事なのかもしれない。


「なによ」

「いや別に。なんにも」


学校では、こんな風にお互い席に向かい合って座ることなんてあまり無いからな。

詰田を見ていた気付いたが、以外とゴリラじゃないのかもしれない。ロメリアに勝るとも劣らない美少女だ。

間違いなくそう言えるだろう。

やはり見た目ではなく、ゴリラなのは中身だけのようだ。


「アルメリアさんは何頼む?」


詰田は自然に聞いたが、ロメリアにとっては何が何だかサッパリだろう。

まずメニュー表を見て、目をぐるぐる回していた。見たことの無い物が大量に載っているからだろう。


「あ、そうか。ごめんまだ読めな──────」

「この『かふぇらて』というのは、どのようなものでしょうか?」

「「────!?」」


よ、読めた!?

俺と詰田は、思わず声にならない驚きをしてしまった。

カタコトながらも、カフェラテを読むことが出来た。

凄い......勉強している様はずっと見てきていたが、実際にそれが生かされているところを見ると感動する。

俺は、少しロメリアを甘く見ていたのかもしれない。このくらいの文字なら、もう読めてしまうのだ。

俺はロメリアに向かって親指を立てて、こっそりとグッジョブしてやった。

ロメリアも嬉しそうに微笑み返してくれた。


「アルメリアさんの国にはカフェラテは無かったの?」

「は、はい。私が住んでいた場所は随分と田舎なものでして......」

「へぇー......海外の田舎って、何だか想像できないわ」


良い返答だ。

これでロメリアが、どれだけ初めてだと言おうがそれは田舎に住んでいたからという事になる。まぁあまりにも世間知らず過ぎると怪しまれるだろうが......まぁ怪しんだところで、まさか異世界人だとは思わないだろうがな。


「アンタは?」

「俺も同じものを」

「何よそれ、つまんないわね。ちょっとは違うのにしなさいよ」


えぇ......何頼もうが俺の勝手だろう。

別に俺もこだわりがある訳じゃないが、だからと言って俺が頼んだものにケチを付けられるのは納得いかない。


「じゃあカフェモカで」

「なら私はキャラメルにしようかしら。タピオカってのも良いわね......ん?」


詰田は、メニュー表にデカデカと書いてあるパフェに目をつけた。

新発売だそうだが、ジャンボパフェと書いてある。


「このパフェ、どれくらいの量あるのかしら」

「結構大きそうだな。さすがに一人じゃ食い切れないだろ」

「んー、でも食べたい......」


悩む詰田。

考えた末、導きだした答えは。


「アルメリアさんも食べたい?」

「わ、私ですか......?」

「こんなに多いと食べきれないかなぁと思って、良かったら一緒に食べない?」


ロメリアも考える。

今まで、一緒に食べようなどと言われたことが無かったのだろう。初めての誘いに、困惑しているようだ。


「私で良ければ、お手伝いさせてください」

「ふふ、ありがと」


特大パフェを注文した。

俺はまぁ、ご飯前だしコーヒーだけでいいか。


「楽しみね」

「はい」


しばらくして、コーヒーが届いた。

カフェラテ、カフェモカ、キャラメルラテだ。

結局、詰田はキャラメルラテも注文したのだ。

パフェが来るまで時間がかかるそうなので、それまで俺達は優雅にコーヒーを飲んで過ごす。


「美味しい」

「上手いな」

「美味しいです」


二人がちまちまと飲む中、俺はあっという間に飲み干してしまった。


「よくこんな熱いの飲めるわね」


と詰田が言う。俺はホットを頼んでいた。

しかし、あまりにも普通に飲むものだから詰田が驚きの表情を浮かべたのだ。


「あぁ。慣れてるからかな」

「毎日飲んでると、そうなるってこと?」

「そうなんじゃないか?」


俺もよく知らない。

それより、もうやる事が無くなってしまった。

もう少しゆっくり飲んでもよかったと、後悔していると


「お、来た来た」


店員さんが巨大な何かを机に置いた。

一瞬、それが何かわからなかった。

見上げてしまうほど背の高いそれは、横にも大きく広がっており、向かいの席の詰田が見えなくなってしまうほどの大きさだった。


「でっか......」

「す、凄いですね」

「思ってたよりも大きわね」


それはパフェだった。とてもパフェとは思えないほどの大きさを誇るオブジェは、食えるものなら食ってみろという店員さんの悪戯心によるものだとしか思えない。

これいくらするんだっけ......


「......!?」


メニュー表を見て驚愕した。

い、一万......か。

量だけではなく、乗っているフルーツも結構な値段がするのだろう。

こんなもの、誕生日くらいしか頼むべきでは無い。道理で周りに頼んでいる人を見ないわけだ。


「じゃあアルメリアさん」

「はい」

「「いただきます」」


ロメリアと詰田は、席を立ってパフェを食べ始めた。

そうでもしなければ、パフェの上の方に届かないからだ。

苺や梨、桃、パイナップルに、ぶどう。

チョコ、ゼリー、クッキーなど、フルーツからお菓子まで色々な物が乗ってる。

おいおい本当に食い切れるのか?と思っていた俺だが、どうやらその心配も無さそうだ。

二人は美味しそうにバクバク食べる。


「とても美味しいです」

「ね!夢のようなパフェだわ」


そりゃあ良かった。

こっちは見ているだけで腹がいっぱいになりそうだ。俺は甘いものが苦手な訳では無いが、そんな量の甘いものを食べていたらすぐに限界が来そうなものだ。


「アルメリアさんって、なぜ日本に来たの?」

「え?」


唐突な質問。

驚いたロメリアは、必死に言葉を探しているようだ。


「答えにくかったらごめんなさい。アルメリアさんと仲良くなりたくて、もっとアルメリアさんのことを知りたいなぁと」

「そ、そうですか......分かりました。お話しましょう」


ロメリアは少し焦っていたようだが、落ち着いて話し始める。


「私が日本に来た理由は、語学の勉強です」

「語学?日本語を学びに来たってこと?」

「はい。言語を学ぶには、その土地で生活することが一番の勉強になるので。それと、日本という国には、一度行ってみたいと思っていました」

「へぇ、もう日本語はペラペラだと思うけど......後は読み書きね」

「は、はい......難しいです」


上手い返しだ。

これは、俺とロメリアで作り上げた設定だ。

学校に入るにあたり、海外から来た理由は必ず問われることになるだろう。

そこで答えられるか答えられないかで、信頼度は大きく異なる。まぁ答えられなかったからと言って、まさか異世界人だと疑われる訳では無いだろうが、良い友達関係を築くには秘密を極力減らした方がいい。


「今度は、私から質問してもよろしいでしょうか?」

「え?」


意外だった。

ロメリア側から質問するとは......いつもは俺に質問するというのに。

とても珍しい事だ。


「詰田さんは、なぜ私に声を掛けてくださったのでしょうか」

「いやいや、私以外にも声を掛けて来る人いっぱいいたでしょ?むしろ、なんで私に付き合ってくれてるのか......」

「他の方を悪く言うわけではありませんが、クラスの皆さんは珍しい私に興味本位で話しかけておられると感じています。しかし、詰田さんはなんと言うか......小坂さんもそうでしたが、私を特別扱いしていないような気がします」

「そう?」

「はい」

「......」


詰田は照れていた。

こういう時、どうしていいか分からないといった顔だ。

確かに、真正面からこうも言われてしまえば誰だって照れてしまうことだろう。


「私を同等の種族として扱ってくださいます」

「しゅ、種族......?」


ロメリアは、自分を特別扱いしないで欲しかったのか。

アイドルのような存在ではなく、ただの友達として話をしたかった。

そういう事なのだろう。

すると詰田が、ふふっと笑い出した。


「多分それは、私があなたを助けたように見えたからよ。別に皆と何も変わらない。私もただ、興味があったからってだけかも」

「で、ですが......」

「別の場所で話しかけたから、そう思ってるだけよ。まぁそれでも、私としては凄く嬉しいけどね。私を選んでくれてありがとう」

「い、いえ!こちらこそありがとうございます」


詰田らしいな。

一方的にお礼を言われるだけでは終わらない。むしろ、感謝し返してやるのが詰田だ。


「パフェ食べよ」

「私はもう結構です。とても美味しかったです。後は、詰田さんがお食べになられても」

「私もいいわ。はい琴代海」

「ん?」

「あげる」


......結局俺が食べるのか。

もう下の方のクリームしか残ってねぇじゃねぇか。

これじゃパフェじゃなくて、多めのソフトクリームだ。別に良いけど。


「はぁ、美味しかった。また来ようね」

「はい!是非!今回は誘っていただき、ありがとうございました」

「いいっていいって。私も楽しかったし」


俺がパフェを食べ終わると、丁度二人の会話もキリがいいところでで終わっていた。

二人は満足のようだ。俺も、二人の仲が深まってくれたようで嬉しい限りだ。ロメリアは、もう二人も友達を作ってしまったな。

さて、会計を済ませて帰るとするか。

気付けばもう外は暗くなっていた。


「琴代海」

「ん?」

「ジャン負け奢りね」


そう言った詰田が、グーの手を構えてきた。

どうやら、ジャンケンで負けた方が奢るようだ。

ロメリアに払わせるのは無い。

割り勘だとしても、今回はロメリアに少しも払わせる気は無い。それはお互い、同じ考えのようだ。

そして、俺達二人で割り勘というのは何だか気持ちが悪い。

ということでここは男の俺が......と思っていたが、詰田はどうやら勝負する気のようだ。


「......いいだろう」


ならばその勝負、受けて立つ。

容赦はしない。

悪いが詰田よ。勝って、お前に全て奢らせてやる!


「「ジャンケンポンッ!!」」

「......」


チョキを出した俺の手に、詰田はグーを突き出して来た。


「ご馳走様〜」

「くっ」


まぁ、俺もパフェを食べてしまったわけだし、文句は言えないか。

そう思いつつも、レシートを見て俺は肩を落とす。

次は負けない。

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