表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/63

お酒ですが、のまれました

 ワインを呑んで饒舌になった私は、ひたすら愚痴っていた。話の勢いに合わせ、空になったグラスをテーブルに叩きつける。



「私なりに一生懸命、仕事をしているんです! けど、患児の親からは、子育てをしたことがないクセに、とか。子どもがいないから、親の気持ちが分からない、とか言われるんです。でも、いないものはいないんだから、しょうがないじゃないですか!」


Si(シィ)Si(シィ)。そうですね」



 やるせなくなった私はテーブルにうつ伏せた。



「仕事だから診ないわけにもいかないし……そもそも私に不満があるなら、子持ちの小児科医の病院に行きなさいよ! って言いたくなるんです」


「子どもだけでなく、親の相手も大変ですネ」


「そうなんです。まあ、慣れましたけど」



 リクが私のグラスにワインを注ぐ。顔を起こした私は一気にワインを流し込んだ。



(こうなったら、やけ酒よ!)



 ますます勢いづく私に、ずっと黙っていた黒鷺が口を開いた。



「別に無理しなくていいですよ。吐きだせる時は、吐きだしたほうがいいと思います」


「へ?」



 思わぬ言葉に毒気が抜かれ、目が丸くなる。



「いくら慣れても、傷つかないわけでは、ないんですから」



 この一言がなぜか胸に染みた。素っ気なくも、率直な言葉。でも、ストンと心に落ちて。



(あー、ヤバい。お酒で自制が弱くなっているのか、涙が溢れてきた)



 私は慌てておしぼりで顔を隠した。化粧は落ちるが、しょうがない。



「私だって、分かってるのよ。患児の親も必死で、誰かに感情をぶつけないと、やっていけないこともあるって。それを受け止めるのも必要だって。でも……でも、さ。やっぱり、やり切れない時もあるのよ」


「常に受け止められる人なんていませんよ。人間なんですから」


「それでも、やっていかないといけないのよ」



 私は鼻をすすって、おしぼりを顔から離した。微かに化粧がついている。

 おしぼりを見つめたまま、私はポツリと呟いた。



「だから、少しでも相手の気持ちが分かるように、婚活してみたんだけど……」



 涙の代わりに愚痴をこぼしたのだが……



「「…………」」



 何故か沈黙が落ちた。


 急に二人が黙ったため、顔を上げる。すると、薄茶色の瞳が揃ってこちらを見ていた。


 それから黒鷺が額に手を当て、頭痛を我慢しているような顔になる。



「待ってください。なぜ、そこで婚活になるんですか?」


「子を持つ親になるためには、まず相手が必要でしょ?」


「あ、そういうことですか」



 呆れてモノも言えない、という雰囲気。


 いや、うん。分かるのよ。あの頃は疲労がピークで、頭が回ってなかったから。今ならバカな行動だったって思う。



「言いたいことは分かるわ。そういう目的で子どもを求めるべきではないって」


「まあ、そこは人それぞれ事情がありますから」


「そう言いながら、目が冷たくない? でも、婚活も最低で。こっちが医者だと分かったとたん、退くか、グイグイくるか、の両極端に分かれるのよ」



 私の話にリクが首を傾げる。



「どうして、二つに分かれるのですカ? 退くのは何故ですカ?」



 赤ワインが入ったグラスを傾けながら不思議そうに訊ねた。というか、イケオジすぎて映画のワンシーンみたい。



「退くのは私より学歴が低い男。自分より偉い女が嫌なんですって。グイグイくるのは、ヒモ目的が多かったかな」


「ヒモ? (コルダ)のことですカ?」


「コルダ?」



 聞き慣れない単語に悩んでいると、黒鷺がリクに説明した。



「その意味のヒモもあるけど、ここでは別の意味。お金とか生活について、すべてを相手に頼る人のこと。寄生虫(パラシータ)と呼ばれたりもする」


「つまり、お金目的で近づいた虫、ということですカ?」


「……まさしくその通りです」



 否定しようのない言葉。


(事実だけど、そこまでストレートに言われると、さすがに……)


 傷に塩を塗った張本人が残念そうに首を振る。



「こんなに可愛いのに、本人ではなくお金に言い寄るなんて、最低ですネ」



 その言葉にメラメラと怒りが再燃する。



「そう! 最低なんです! なので、結婚に希望はもてません!」


「大丈夫、心配ないですヨ。ステキな人が現れます」



 何度も聞いた慰めの言葉。涙とともにテーブルにうつ伏せる。



「そんな見え透いた慰めは、いらないですぅぅ」



 今は下手に慰められても傷口が開くだけ。

 そっとしておいてほしいぐらいだけど、イケオジはイケオジで。渋い声と優しい言葉で私を復活させようとする。



「ウソではないですヨ。本当です」


「もう、いいですぅぅ」


「ゆずりん先生は可愛いですから」


「慰められすぎると、逆に悲しくなりますぅ。あと名前は柚鈴(ゆり)ですぅぅ」



 ぐじぐじモードの私に、黒鷺が不思議そうに訊ねた。



「そもそも、どうして結婚したいんです? 子どもが欲しいなら、養子とかもありますよ?」


「……そういえば」


「子育てが目的なら、養子を迎えるほうが早いですし」


「……確かに」



 あ、ちょっと新しい道が開けてきたかも。


 私が顔を上げようとした時、容赦ない言葉が降ってきた。



「それ以前に、子育てをする余裕があるんですか?」


「ウグッ」  


「子育てしている人たち全員、余裕があるわけではないですけど。ですが、養子を迎えるなら、ちゃんと子育てをしていける環境がないと」


「グァ」



 私は再びテーブルに伏せた。グゥの音も出ない。


 まっ平らに潰れた私に、リクの声が響く。



「真面目過ぎです。自分の心に余裕を持つことが先ですネ」


「うぅ……」


「そもそも日本人は働きすぎです。ちゃんと休まないと」


「……はい」


「元気を回復させる、大事です。ほら、しっかり食べて、飲んでください」



 私は体を起こした。こうなればヤケだ!



「分かりました! 今日はとことん食べて、呑みます!」


「あと、運動も大事です! 筋肉はすべてを解決します! 私の好きな言葉です!」


「そういえば、二人とも良い体格してますもんね。やっぱり日本人より、筋肉がつきやすいんですか?」



 黒鷺は私の質問を無視してピザを食べている。


 一方のリクはウインクをして答えた。目元に寄ったシワが渋くてカッコいい。



「確かに、つきやすいと思います。でも、ちゃんとたんぱく質をとって、運動しないとダメですネ」


「運動かぁ。最近してないなぁ」



 最近どころか、ここ数年してない。


 目の前でリクがジャケットの袖をまくる。筋肉や血管、(すじ)がハッキリと分かる標本のような腕。いや、標本より立派かも! こんな腕、生で見たことない!



「すごぉーい! 触ってもいいですか? うわっ、太い! 筋肉の動きが分かる!」



 思い返せば、この時すでに私は変なテンションになっていた。



「では、一緒に運動をして筋肉をつけましょう!」


「いいですね!」



 リクに合わせて私も袖をまくる。

 そんな私に黒鷺が慌てた。



「ちょっ、待っ、酔っぱらいが運動するな! 危険だ!」


「そんなに酔っていませんヨ。ネェー、ゆずりん先生?」


「そうですよ。そんなに酔っていないわよ」



 黒鷺が意気投合した私たちを必死に止める。



「ゆずりんを訂正しない時点で、だいぶん酔ってる!」


「そんなことないわよ」



 おかしなことを言うなあ。と、私が笑っているとリクが手を差し出した。



「では、おとなの運動をしに行きましょう」


「おとなの運動?」


「はい。適度に体を動かしますが、姿勢によってはキツいです」


「それは、いい運動になりそうですね。行きましょう!」


「本気か……」



 頭を抱える黒鷺にリクがニヤリと笑う。



「アマネはお子さまだから、来たらダメですヨ」


「黒鷺君はお子さまだもんねぇ~」


「あー、もう。どうなっても、知らないからな」



 こうして私は気分良く、リクと夜の街に繰り出した。




 その結果…………




「ここ、どこ?」



 目が覚めた時、私は知らないベッドにいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
よければ、ポチッとお願いします(*- -)(*_ _)ペコリ
作者が小躍りしますヽ(・∀・)ノ━(∀・ノ)━(・ノ )━ヽ( )ノ━( ヽ・)━(ヽ・∀)━ヽ(・∀・)ノ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ