表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/63

突然ですが、ドナドナされました


 昨日のことを聞き終えた蒼井が大きなため息を吐く。



「はぁ……」


「ごめんね、報告が遅くなって」



 車が職員用の駐車場に入る。駐車場に停車したところで、蒼井が私を見た。



「いろいろ言いたいことはあるが、まずは怪我がなくて良かった」


「黒鷺君のおかげでね」


「そうだな。だが、おまえは、もう少し危機感を持て。宅配便だからって簡単に玄関を開けるな」


「はい。反省しております」



 あれは私が悪かった。寝起きで頭がまわらなかったとはいえ、犯人のことを失念していた。


 車から降りて、並んで医局へと歩く。真冬の風が寒いを通り越して痛い。

 逃げるように建物の中へ。



「犯人は坊やがジョギングに行くことを、知っていたのか? まるで、一人になるのを狙っていたようだが」


「リク医師もいたから一人じゃなかったけどね。警察から聞いた話だけど、犯人は黒鷺君の家の近くに住んでいて、私の姿をたまに見かけていたんだって。それで、少しずつ恨みが再燃して、今回の犯行におよんだらしいの」


「つまり、坊やの家にいるのは、知られていたってことか?」


「というより、私が黒鷺君の家に住んでると思ってたみたい。庭に忍び込んで、私がいるか確認したこともあったんだって。その時に花壇を踏んだ跡や、裏庭の木が不自然に折られていた跡があったそうよ」



 蒼井の顔がくもる。



「怖いな」


「まあね。そこまでして調べたけど、私が家に居たり居なかったりだから、確実にいる外来の診察日を狙ったんだって」


「けど、犯人が捕まったのは昨日だろ? それにしては、情報が早いな」


「犯人があっさり自供したって。罪も全面的に認めているって警察から話があったの」


「……そうか」



 医局のロッカーに荷物を置く。白衣を羽織ると、蒼井が私の右腕を指さした。



「昼休みに処置するから」


「お願いします」


「無理するなよ」


「うん。ありがとう」



 病棟へ移動する前に、上司に声をかけられた。



「ちょっと、局長室に来てくれ」



 その面倒そうな表情と声。



(あ、嫌な予感しかないやつ)



 こちらを見ている蒼井に苦笑いで答えると、売られる子牛のようにトボトボと上司の後ろを付いて歩いた。



※※



 昼休みの処置室。

 午前の診察が終わり、私は蒼井に右腕の処置をしてもらっていた。



「で、なんの話だったんだ?」



 右腕の処置をしながら私に訊ねる。

 私は上司から言われたことを、すべて話した。蒼井の眉間にシワが寄り、目つきが悪くなる。



「……その話、受けるのか?」


「受けるもなにも、私に拒否権なんてないでしょ?」


「断ってもいいと思うぞ」


「でも、今回のことで病院にも迷惑をかけたし……」


「悪いのは犯人だ」


「でも、噂は一人歩きするし、背びれ尾びれも付くわ」



 右腕の処置が終わり、包帯が巻かれていく。



「そんなことを気にする性格か?」


「……昔の私なら気にしなかったかな」



 少しだけ笑うと、蒼井が肩を落とした。



「お互い、年を取ったということか」


「そうかもね」


「坊やには相談するのか?」



 思わぬ質問に私は首を傾げた。



「どうして黒鷺君が出てくるの?」


「……そう思うなら、それでいい。あと、傷の治りは良好だが、しばらくは重い物を持ったりするなよ」


「わかった。ありがとう」



 午後からは外来がいつも通り忙しかったが、おかげで余計なことを考えなくて済んだのは良かった。



※※



 仕事が終わったのは夜だった。

 けど、最終バスには間に合った。私が住んでるアパート側だと、最終バスは出た後。



「よかった」



 コンビニで買った夕食とともにバスに揺られる。私のアパートに帰るなら、タクシーに揺られているだろう。



「やっぱり黒鷺君の家の方が便利だなぁ」



 窓の外には街灯と、家の窓から漏れる灯り。この光景を見る度に物悲しく、心に風が吹く。この灯り一つ一つに人がいて、帰りを待つ人がいる。



(でも、私には…………)



 最寄りのバス停に到着。暖房が効いた車内から降りると、寒暖差で余計に寒さを強く感じる。


 少し歩けばオシャレな洋館。でも、この暗さだと見えない。

 薄暗い外灯の下、つまずかないよう足元に注意しながら足を進める。



「……柚鈴?」



 聞きなれた声に顔を上げると、ジャージ姿の黒鷺が立っていた。



「……どうして?」


「少し体を動かそうと思って、走ってきたところです」


「そう、なんだ」


「なにか、ありました?」



 ドキリと胸が跳ねる。



「な、なんで?」


「なんか、いつもより暗い感じがするので」


「外来が忙しくて、疲れただけ」



 それもあるけど、別の原因もある。でも、それを悟られないように笑顔で話す。



「そうですか?」


「そうよ」



 訝しみながらも黒鷺が先を歩いてドアを開けた。明るく、あたたかな光り。


 その眩しさに目を細めた私を笑顔が出迎える。



「おかえりなさい」


「……ただいま」



 言葉とともにホッと力が抜ける。灯りがある家に帰ることが、こんなに嬉しいなんて。


 私は、今だけの幸せを噛みしめた。



夜も投稿しますι(`・-・´)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
よければ、ポチッとお願いします(*- -)(*_ _)ペコリ
作者が小躍りしますヽ(・∀・)ノ━(∀・ノ)━(・ノ )━ヽ( )ノ━( ヽ・)━(ヽ・∀)━ヽ(・∀・)ノ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ